22. 契約の魔石のアクセサリー その1
お話が長くなってしまったので、2話に分けました。
前編です。
俺たちは、川沿いの道から横に折れ、店が連なる道に出た。
「確か、このあたりでよかったはずだが・・・。」
俺は目的の店を探した。
あー、あった、石加工の店のプロセットの店だ。
今日、マーヤと一緒に町に来た一番の目的は、もちろん卵を買うためではない。
契約の魔石でアクセサリーを作ってもらうために来たのだが、アクセサリーについては、昨日の帰りの馬車の中でマーヤと話をしていた。
◇◆◇
「あの、契約の魔石のことなんだけど・・・。」
「はい、リヒト様は何か希望がありますか?」
「いや、アクセサリーについては、全くと言っていいほどわからないから、俺としてはお任せしたいんだけど・・・。
でも、作ってもらうお店は、町にいい職人がいるところがあるから、そこにしようかと思っているんだ。」
「わかりました。 じゃあ、そのお店にお願いしましょう。」
「え、俺が考えているお店でいいの?」
「はい、リヒト様がおすすめするお店なら大丈夫でしょ?
アクセサリーは、私が思っているものがあるので、できればそれでお願いしたいんですがいいですか?」
「ああ、こちらこそお願いしたいよ。 やっぱりペンダントかな。」
契約の魔石のアクセサリーは、ほとんどの人がペンダントを作る。
ペンダントの形もいろいろできるし、邪魔にならないし。
「いえ、あの・・・、良ければ私はリングがいいのですが、いかがですか?」
「リングか・・・マーヤがそうしたければいいよ。」
「その・・・、リングだと人目に付きますけど、ちゃんと嵌めてくれますか?」
あ、そうか、リングだと指に嵌めるから常に見えちゃうのか。
でも・・・。
「マーヤも嵌めるんだろ?」
「もちろんです。」
「マーヤもするんなら、俺もするよ。」
「ほんとですか? ほんとですね!
よかった~、ありがとうございます。
では、リングを作るということでいいですね。
じゃあ、こんな感じでって描いてみたんですが、見てもらえますか?」
マーヤは嬉しそうに、バッグの中から一枚の紙を出した。
渡された紙を広げてみると、そこにはリングのデザイン画が描かれていた。
「へえ~、すごいな、これ、マーヤが考えたのか?」
「いえ、あの、えーと、親戚のお姉さんがこんな感じのリングをしていて、とても気に入ってしまったので、思い出しながら自分なりに描いてみたんですけど。」
「かなりシンプルな感じにみえるけど、いいの?」
「ずっと嵌めているものなので、装飾品は無しで。
つけていても飽きのこないデザインだけど、でもちょっと個性を出して、と考えたんですけど。」
マーヤはリングについていろいろと詳しい説明をしてくれた。
「そうだね。 これなら嵌めていても気にならなさそう。
これがいいよ。
マーヤにお任せしちゃってもいいかな?」
「はい、お任せください!」
◇◆◇
「着いたよ、このお店だよ。」
俺はドアを開けて、マーヤを店の中に促し、そして俺も中に入った。
「こんにちは。」
「これは、これは、町長殿、いらっしゃいませ。」
出迎えてくれたのは、店長のプロセットさんだ。
細身でカチッとしたスーツを着こなしている。
整えた髭が、いかにもアクセサリーの店長らしい雰囲気を出している。
「今日はお願いしたいことがあって来たんだが。」
「私にできることなら、何なりと。
そういえば、風の噂でご結婚されたと聞きましたよ。」
プロセットさんは、そう言ってマーヤの方をちらりと見た。
情報が早いですね!
「ああ、先日婚姻の儀をしてきたところだよ。
つ、妻のリルマーヤだ。」
マーヤは帽子を取って挨拶をした。
「ほう、これは美しい奥様ですね。
ヴォルグ様もお喜びでしょう。」
マーヤは、さっきの川沿いではしゃいでいた様子とは打って変わって、お嬢様モードで品のある挨拶をした。
うん、俺も見とれちゃうよ。
「では、今日のお願いというのは、契約の魔石の件でしょうか?」
「ああ、そうだ。 アクセサリーをお願いしたいんだが。」
「当店をお選びいただきありがとうございます。
では、奥でお話をお伺いいたしますので、こちらへどうぞ。」
プロセットさんは、お店の奥にある応接室に案内してくれた。
以前に親父殿と来た時もこの応接室で話をしたんだけど、ソファーがフカフカでちょっと特別感を味わえるんだよな。
「こちらにお座りください。
少し席を外します、少々お待ちください。」
プロセットさんは、俺たちに席を進めてくれた後、一旦応接室から出て行った。
二人でソファーに座ると、ぼふっと沈んだ。
「ふふふ、すごいソファーだわ。 身動きとれなさそう。」
「うん、でもフカフカで気持ちいいよな。」
「そうね。
・・・ねえ、リヒトって私を紹介するとき、いっつも嚙むよね。」
「えー、そうだったかな~。」
やばい、気づかれている。
「そうだよぅ。 妻って言う時、必ず噛むんだから。」
「そのー、いまだに慣れなくてさぁ。
まだちょっと恥ずかしいかな。ははは。」
俺は笑ってごまかした。
「じゃあ、ちゃんと練習しておいてね。」
「はあ、わかりましたよ。
えーと、つま、つまが、つまり、つまる、つまで、つまと・・・」
「あはは、何か、違う方向に行ってるよ、リヒトってば!」
「“つま”がどうかいたしましたか?
お待たせいたしました。」
そこにプロセットさんが冊子を持って現れた。
やばい、やばい! “妻”と紹介するのを練習していたなんて聞かれたくないよ。
「お気になさらず! 大丈夫です!」
「仲が良くてよろしいですな。ほっほっ。
では、早速ですが、契約された魔石はお持ちですか。」
向かえ側のソファーに座ったプロセットさんは、話を始めた。
「はい、持ってきました。 これですけど。」
俺は上着のポケットから赤い高級そうなケースを取り出して、プロセットさんに渡した。
「ありがとうございます。 拝見させていただきます。
ほう、これはきれいな緑色の魔石ですな。
緑色の意味は聞かれましたか?」
「ええ、神殿長から緑色は“希望”という意味が込められていると伺いました。
何種類くらいの色があるのですか?
私の両親の魔石は青色でした。」
マーヤはやっぱり魔石のアクセサリーに興味があるみたいだ。
「婚姻の契約の魔石は、8種類あるようです。
青色は“祝福”ですね。
他にも、赤色は“情熱”、黄色は“優しさ”などがあります。
透明になる魔石もあるようですが、これは王族に多いようです。
夫婦によって何色に変化するのか、なぜその色になるのかは、解明されていません。」
「8種類もあるんですね。
その中のどの色になるのかはわからない・・・。
そして色には意味が込められている・・・。
まるで、魔石を育てる大地からの贈り物のようですね。」
「なんと! なるほど・・・大地からの贈り物とは・・・。」
プロセットさんはブツブツ言いながら、テーブルの上に置いてあった手帳を手に取り、何かを書き始めた。
「失礼いたしました。
それで、これをどのようなアクセサリーに致しましょうか。
まだ迷っていらっしゃるようでしたら、デザイン画を持ってきましたがいかがですか?」
プロセットさんは、持ってきていた冊子をテーブルの上に並べた。
「ありがとうございます。
でも、あの、リングをお願いしたくて、デザインも考えてきたのですが、よろしいですか?」
マーヤが話をし始め、バッグから一枚の紙を取り出してテーブルの上に広げた。
「話が早くて助かりますよ。 拝見させていただきます。
むむむ、これは・・・。」
プロセットさんは、広げたマーヤのデザイン画を手に取って見始めると、目つきが変わった。
「あのー、魔石は加工ができると伺ったのですが・・・。」
マーヤが、デザイン画を食い入るように見ているプロセットさんに聞いた。
プロセットさんはデザイン画から目を離さずに答えた。
「はい、魔石を砕いて熱を与えると溶けますので、いろいろな形にできます。
あの、この紙は頂いてもいいですか?」
「あ、どうぞ。 その形にできますでしょうか?」
やっと顔を上げたプロセットさんが答えた。
「できます、というより、必ず作らさせていただきます。
このデザインは、奥様が考えられたのですか?」
「そう・・ですね、親戚のお姉さんのリングから案を頂いたのですが、その画を描いたのは私です。」
「素晴らしい!
こんなデザインはまだ見たことがありませんよ。
このように作りますとも。
私もこの画のリングが実物になったものを見たいですな。」
今まで営業用の顔だったプロセットさんの笑顔が、砕けて本当に嬉しそうな顔になった。
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