21. 川沿いの並木道
俺の朝は、ランニングから始まる。
体力維持と、町の様子の見廻りを兼ねて30分ほど走る。
それから剣の素振り。
いざという時に使えなかった、ではどうしようもないからな。
鍛錬の積み重ねが大事だと、パーシリット叔父上もおっしゃっていたし。
いつもの練習コースを終えて家に戻ると、台所から声がした。
覗いてみると、そこには女神がいた。
う、まぶしい・・・。
「マーヤ、朝ごはんの支度をしてくれているのか?」
「あ、おはよう、リヒト。」
ばこん。
「だ、大丈夫? エア右ストレートを食らったように吹っ飛んだけど!」
「だ、大丈夫だ。ご心配なく・・・。」
この会話、前にもしたような・・・って、いつものように頭に衝撃が・・・。
今、俺のことリヒトって言った!
リヒトって呼んでくれたよ!!
感動・・・・・・。
ちがーう! 感動に浸っている場合じゃない!
だめだ、これではいけない、リヒトって呼ばれるたびこんな衝撃では身が持たないだろっ。
俺が慣れなければ!
「朝ごはんの準備をしているけど、私はどっちかって言うと手伝いかな、ふふふ。」
東の窓から太陽の光がさして、マーヤに後光がさしているようになっている。
正しく女神だ。
「おはようございます、コーリヒト様。 私もいるんですけどね。
ほら、もうすぐ朝食ですから、早く汗を拭いて手を洗ってきてくださいよ。」
「あ、ロッテもおはよう。 すぐ戻ってくるよ。」
俺は、体を拭いてシャツだけ着替えて、そして鏡を見ながら髪を整えた。
いつもは鏡なんて見ないんだけど、今日は自分の容姿が気になった。
ぐふふ、誰のためだって?言わせるなよ~。
マーヤが俺のことを“リヒト”って言ってくれてるし~!
ここはちゃんと整えて行かなくちゃ!
まあ、俺は短髪だから、本当にひどい寝ぐせでもなければそうそう変わらない髪型なんだけどっ。
ダイニングに行くともうウェインが座っていた。
「ウェイン、おはよう。」
「おはようございます、コーリヒト様。」
ウェインは平常通りだった。
席に着くと、女性陣が朝食を持ってきてくれた。
「お待たせいたしました。
召し上がってくださいな。」
簡単な料理ぐらいはできるから、今までは、朝食は一人で作って食べていた。
四人で一緒に食べるなんて、ちょっと新鮮だ。
「いただきます。」
マーヤの声が響き、マーヤの方を見ると手を合わせて拝んでいた。
「食べる前にそういうことをするのか?」
「私も初めて見ましたよ。
貴族様の礼儀作法はいろいろあるんでしょう。 知らなかったよ。」
「あ、あの、その、いつものくせで・・・。 気にしないでください。」
「私たちも見習いましょうよ。
いただきます。」
ロッテが同じように手を合わせて言ったので、俺とウェインも同じようにした。
「「いただきます。」」
みんなで朝食を食べ始める。
「マーヤ、これは誰に対しての『いただきます』、なんだ?」
俺は疑問に思ったので聞いてみた。
「えー、あまり考えたことないんですけど・・・。
そうですね、料理を作ってくれた人にとか、材料を提供してくれた方にとか、糧になってくれたモノたちにとか、まるっと全てにですかね。」
「それは・・・便利な言葉だな。」
「要はそういう気持ちを忘れないってことだと思います。」
「なるほど。」
「そういう感謝をする気持ちって大切だと思いますよ。
素敵な言葉じゃないですか。 これから、頂くときにはやりましょうよ。」
ロッテはこれからもするつもりらしい。
俺も、多分ウェインも異論はないから食べる前には手を合わせるだろうな。
「忘れないうちに言っておくけど、今日の昼は外で食べてくるから。
夕ご飯は頼むよ、ロッテ。」
「わかりました。
今日からリルマーヤ様も一緒に作ってくれるんですよね。」
「はい、よろしくお願いしますね、ロッテ。」
「そんな大層なものを作るわけじゃないから大丈夫でしょう。」
リルマーヤの手料理か。
今、食べているものもそうだけど、なんか嬉しいな。
「コーリヒト様、顔がだらしなくなってますよ。
早く食べてくださいね。」
ロッテ、厳しい・・・。
「そういえば、昨日も今日も町に行くんですね。
大きな町でもないから、二日も行けば見つくしちゃいますよ。」
「え?!」
「え??」
「あー、言ってなかったな。
実は昨日は、町には行ってないんだ。」
「はっ? どういうことですか?」
「ふふふ、一昨日の夜、リヒトは友達に結婚のお祝いの会をしてもらったの。
飲んだ後の馬車はキツイからと言って、昨日の午前中はゆっくりして、帰りは町に寄らずにそのままこの家に帰ってきたのよ。」
「まあ、リルマーヤ様はそれを許したんですね。
物わかりの良いお嫁さんでよかったこと!」
「おっしゃる通りです。」
返す言葉がない・・・。
「では、今日初めて町を案内するんですね。
お昼はどこに行かれるんですか?」
「あ、エヴァンの店に行こうと思って。
俺としては、あの店がこの町で一番おいしいと思っているんだよな。」
「そうですね。 あの店はいいですよ。
エヴァンの作るシチューはそれはもうおいしいのなんのって。」
「えー、そんなにおいしいの? それは楽しみだわ。」
「町を案内するんだったら、市場にも行ってきてくださいよ。
卵がなかったから、帰りに買ってきてくださいな。」
「今日は市場の立つ日か。 了解、卵ね。」
「市場があるんですか?」
「ああ、週に3日かな、町の広場で市場が開かれるんだ。
この町の中心地からちょっと離れているところの商人や、他の街から売りに来る人達とか、店を持たない商人が屋台を出すんだよ。
卵は、鶏を飼っているところが少し町から離れているから、売りに来てくれているんだ。」
「そこに今日は行けるんですね。」
「ああ、帰りに行ってみよう。」
◇◆◇
「マーヤ、支度はできたか? もう行けるかな。」
「はーい、準備オッケーです。」
「?おっけー?
行けるんだったら、行こう。 今日は歩きだ。」
おお、今日も可愛い!
妻に “可愛い” もないかもしれないが、それしか言葉が出てこない!
気持ち短めの赤と白のワンピースにブーツがよく似合っている。
いつもの帽子で、マーヤの可愛さ倍増だな。
「スカートの丈がいつもよりちょっと短いんだけど、どうですか?
このワンピース、お店に飾ってあったもので気に入ったから買ったんだけど、私、ちょっと背が高いでしょ。
気持ち短いかなぁと思ったけど、ブーツを履くからいいかなって・・・ダメかな。」
「いや、すごく似合ってるから、マーヤが気にならなければいいと思うよ。」
「そう? リヒト、優しいね、ありがと!」
うーん、こんなことで喜んでもらえるなら、いくらでも言っちゃうよ!
俺が手を差し出すと、マーヤがぽふっと手を乗せてくる。
「今日はちょっと遠回りしていいかな。
一緒に歩きたいところがあるんだ。」
「まあ、それは楽しみっ。」
家から真っ直ぐ行けば町の中心街に行けるけど、俺は途中を曲がって川沿いの道に誘った。
「うわー、すごい!
え、これはリンゴの木?甘い香りがする~。 黄色いのはミモザかしら。」
おお、ちょうど黄色い花の木が満開で、白い花の木は八分咲きくらいになっている。
よしよし、いい感じで咲いていたな。
俺たちは、町を流れる川の土手に植えられた並木の道を進んだ。
「あれ、急に花びらが降ってきた。」
「あー、鳥が枝から枝に飛び移るとき、花びらを散らしているんだよ。」
「ふふふ、可愛いわね。 花散らしの鳥さんね。」
鳥が結構いるようで、花びらがひらひらと舞っている。
マーヤが俺の手を離し、走り始めた。
「うわー、アンになった気分。 髪は赤くないけど!
すてきだわ~。」
アンという子は知らないが、この並木を気に入ってくれたみたいだ。
おい、花の妖精か!
花びらの舞う中でくるりと回って、はしゃいでいるマーヤに見とれてしまう。
風が通り過ぎた。
花びらが舞い上がる。
マーヤのスカートもひるがえーーーらないっ。
惜しい!
ってことは考えてないぞ。
「リーヒートーさーまー。」
手を振りながらマーヤが俺の名前を呼ぶ。
『様』がついちゃった。
俺は、答えるように手を挙げた。
タッタッタッ、マーヤが走って戻り、俺の隣に来て手をつないだ。
今日のマーヤも可愛すぎるぜっ。
「ごめんなさい。 テンション上がりすぎて、はしゃいでしまいました。」
俺は全然かまわないぞ。
「すごくかわいかったから、大丈夫だぞ。」
「へっ?!もう、からかわないでください!」
マーヤはそう言って俺の手をぎゅっと握った。
普段と変わらない道なのに、すごく楽しいんだけど!
俺たちは、川沿いの道から横に折れ、店が連なる道に出た。
「確か、このあたりでよかったはずだが・・・。」
俺は目的の店を探した。
あー、あった、石加工の店のプロセットの店だ。
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