1. 俺が結婚するって
誤字の訂正と行間の修正をしました。
「よお、コーリ、突然呼び出してすまなかったな。
元気そうだな。
まあ、なんだ、その、結婚が決まったから。」
「へ? 誰の?」
「お前の!」
「はぁ?なんだって??」
ここは、実家の親父殿の書斎。
外を吹く風もだんだん冷たさを増してきた11月のある日、親父殿が『至急来い』なんて連絡をよこすから、何事かと思ってすぐに馬を走らせて来たのだが。
親父殿は挨拶もそこそこに、俺が書斎に入るなりいきなり結論から言いだした。
でも、もうちょっと順序ってものがあるような気がするのは俺だけか?
お前は結婚する気持ちはあるのかな、とか、知り合いにこんな話を持ち出されたんだけど、とかさあ。
決まっちゃったって、話が進みすぎてない?
結婚って、恋愛結婚もあるが、まだまだ親同士が決める結婚も多い。
貴族になると政略結婚もあるみたいだが、俺のような平民には政略も何もないからな。
まあ、女っ気が全くない俺にはありがたい話ではあるから、とりあえずお礼なんだろうか。
「結婚が決まったって、そんな話は今まで何も聞いていなかったから。
大声を出して、ごめん。」
「いや、いい、そう言いたい気持ちはわかるからな。」
「えーと、お話をいただいてありがとうございます、親父殿。
それで、このコーリヒト・ヴォルグのところに来てくれるという女性はどんな方?」
「あー、まあ立ち話もなんだから、とりあえず座るか。」
うーん、何か言いにくそうな感じがするけど気のせい?
話の急展開に座るタイミングを逃し、親父殿が言うように俺はまだ立っていた。
親父殿は、俺にソファに座るよう勧め、親父殿も向かい合って座った。
「相手は、その、コンヴィスカント子爵様のお嬢様だ。
先日、子爵様から手紙を頂いて・・・。」
「はぁ?なんだって??」
俺は、座ったばかりなのにまた立ち上がり、今日二回目の、同じセリフを叫んだ。
おいおいおい、冗談だろう?
なんで、そんな貴族のお嬢様が平民に嫁ぐんだ?
って、これは裏があるのか?あるんだな!
コンヴィスカント子爵は、ここフォージアグラン領の領主様だ。
フォージアグラン領は、この国、ティノルナーグ国の東側に位置する。
国境とは離れているが王都とも離れているので、都会ではないが、めちゃくちゃ田舎というわけでもない。
子爵様が治めるアグランの街は、北の伯爵領へ続く街道とつながるので、大きな街として栄えている。
俺たちヴォルグ家の親子はその領内の町の管理を任されている。
長男のモルドレッド兄上がコンハートの町の、次男のトリスタン兄様がアルストの町の、そして三男の俺はフィアンティの町の町長にそれぞれ就任している。
親父殿は、モルド兄上と一緒にコンハートを治めながら俺たち兄弟の仕事も監督し、子爵様との連絡係という立場だ。
親父殿は准男爵の爵位を受けているけれど、俺たち兄弟は平民だ。
俺は深呼吸をしてから、またソファに座りなおした。
「子爵様は何を考えているんだ?
親父殿は、そのお嬢様には会ったことがあるんですか?」
「とりあえずお話を手紙で頂いただけで、詳しくはまた会ったときに話をする、と書いてあった。
普通に考えるに、そのお嬢様に何かあるから貴族を辞めて平民になるというんだろうなぁ。
お前はお嬢様には会ったことがなかったのか。
私も子爵様の家に行ったときに挨拶程度しか話は交わしたことがないが、お嬢様は父親譲りのきれいな栗色の髪のとても可愛らしいお方だったぞ。」
俺も、二年ほど親父殿に付いて町長の仕事を学んでいたときに子爵様の邸には何回か一緒に行ったが、ご長男のキースライノ様にはお会いしたが、お嬢様は見たことがなかったな。
「容姿が悪くて貰い手がないというわけではないのか。
じゃあ、性格がまずいとか!」
「そういう言い方はよくないんだが・・・。
でもお前も知っていると思うが、子爵様はいいお方だぞ。
キースライノ様も、ちょっとお堅いところはあるが子爵様の方針を受け継いで領主様の仕事を一生懸命にされているしなぁ。
奥方様も、お優しそうなおっとりした感じの人だし・・・。
そんなご家族の中で、お嬢様だけが性格がよくないとは思えんぞ。」
じゃあ、なんでわざわざ貴族様が平民に下るんだよぉ。
は~あ、ここで考えていたって何もわからないから、考えるだけ無駄か。
「それにしても、なんで俺なんだ?
順番からしたら、トリス兄様が相手だろう?」
「あぁ、結婚していないのはトリスもそうだが、あいつは親が決めた結婚はしないだろう。
それに自分の嫁は自分で探してこれるんじゃないか、お前と違って。」
「う、確かに・・・。 トリス兄様はモテるもんな。」
「それに、今回の話はお前ご指名だ。」
「え、俺?」
俺、何をやらかした?
子爵様とは、そんなに親しくないはずだが・・・。
どこでそんな落とし穴にはまったんだ!
そんなご指名、受けたくないんですけど。
「お前には苦労を掛けるかもしれないが、そのつもりでいてくれ。
子爵様からのお話ということは、俺達には拒否権がないのだよ。」
「あ!・・・ソウデスネ。」
なぜ親父殿が 『結婚が決まった』 なんて言い方をしたのかやっとわかった。
うちの娘をどうかな、と言われても子爵様からのお話なら俺たちは断れない。
だからもう決定事項なのだ。
何か、うまく嵌められたような気もする。
「両家の顔合わせは二週間後ということだから、よろしく頼むな。」
「また、それも早くない?
子爵様、焦ってる?
ホント、何かありそうだと思っちゃうんだけど。」
「いや、多分早く説明したほうが良いという、子爵様の心配りだと思うぞ。
こんな気持ちで1ヶ月も2ヶ月もいてみろ、仕事も何も手につかなくなる。」
それもそうだな。
こんな訳もわからない話は、気になってしょうがない。
今は俺の中で子爵様の好感度がぐんと下がってるから変な風に思ってしまう。
気を付けなくっちゃな。
俺は、せっかく親父殿のところに来たのでそのあとは仕事の報告もして、ひと晩泊って、次の日にゆっくり帰った。
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