17. 新婚デート・湖編 その2
デート・湖編の後編です。
「うわー、すごいわ。水仙の花がたくさん・・・真っ白な絨毯みたい。」
少し歩いて行くと、白い水仙の花の群生地が広がっていた。
「この葉は水仙だったのか。
花が咲く時期に来たことがなかったから、ただ葉っぱが生えているところだと思っていたよ。」
「花が咲かないと、葉っぱだけ見ても何の植物かわからないですもんね。
ここはこの季節に来るのがいいですね。 甘い香りがする~。」
水仙から香る甘い香りがこの一帯にほのかに漂っていた。
甘い香りを通り過ぎ、もう少し湖に沿って歩き、木々が茂って木陰になっているところへ向かう。
「このあたりで休もうか。」
俺はバッグから敷物を取り出して地面に敷き、座った。
マーヤも俺の横に座る。
「うわっ、用意がいいですね。」
「ああ、敷物と雨除けのポンチョと水筒は必ずバッグに入れているんだ。」
これは騎士学校時代に覚えたものだ。
課外授業が多くて、最低この三つがないと現地で困るのだ。
「そして今日は、これもあるぞ。」
マーヤにお昼ご飯のサンドイッチを渡す。
もうそろそろお昼の時間だろう。
日の位置も高い。
「だから、バッグごと持ってきてくれたんですね。
さすがですわ!リヒト様。」
おお、ちょっと俺の株があがったかな。
うんうん、そういうことはいくらでも言ってくれたまえ。
鳥の声と湖の波音、そしてそよそよと吹く風の中で俺たちはサンドイッチを食べた。
水筒の水を飲んでいるとき、はたと気が付いた。
「あーーーっ!」
「ど、どうしました? 急に大きい声を出して。」
「す、すまない。」
失敗した! 水筒を一つしか持ってきていない。
ということは、マーヤもこの水筒から水を飲むわけで!
「ごめん、水筒を一つしか持ってきていなかった。」
「? いいですよ。
え、それとも全部お水、飲んじゃいました?
私の分はもうないとか・・・。」
「いや、そういうことではない。 水はまだ入っているけど・・・。」
「じゃあ、いいではありませんか。」
「あの、俺、この水筒で水を飲んじゃったけど。」
「あー、もしかして・・・。」
そうです。
「リヒト様、何か病気を持ってるとか?」
「は? そんなものないよ~。」
「ふふふ、じゃあ構いませんわ。」
マーヤはそう言うと、俺が口をつけて飲んだ水筒でマーヤも飲んだ。
マーヤが気が付いているのかわからない。
俺が気が付くぐらいだから、普通は気づくだろうけど・・・。
でもマーヤは何も言わなかった。
普通は、そういうことって気にしないんだろうか。
気にしすぎなのは俺だけか?
ふー、途中までおいしく食べていたのに、今はどっと疲れた。
「なんか、眠くなっちゃったな。」
俺は後ろにゆっくり倒れながらつぶやいた。
「あ、じゃあ、膝枕してあげましょうか!」
ごふっ。
俺はゆっくり後ろに倒れていたけど、ある言葉を聞いてどたっと後ろに倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか?
今、なんか、すごい音がしたけど。 頭、打ちましたよね。」
「いって~。
いや、大丈夫だ。 土があまり硬くなかったから。」
「それならいいけど。 でも、突然どうしたんですか?」
「いや、いい、じゃない。 今、なんて言った?」
「すごい音がした。」
「それじゃない。」
「だ、大丈夫ですか。」
「それでもない。」
わざと言ってるのか?
「膝枕しましょうか。」
「そ、それだ。
いや、膝枕はしなくていい。」
「でも眠くなっちゃったんでしょ? ほら、膝枕でどうぞ。
減るものでもないし。」
「いやいやいや、そういう問題ではない!」
俺は飛び起きた。
「私がいいって言ってるんですから、どうぞ。」
マーヤはそういいながら、腿の辺りをぽんぽんと叩いた。
俺はマーヤの足に、目が釘付けになった。
マーヤは今日、パンツを履いているわけで・・・。
足の形がくっきりとわかるわけで・・・。
ゴクリッ。
のどが鳴った。
「無理無理無理~、今日は駄目だ。やっぱり今日は駄目だ。
止めておく。」
「次の機会なんてないかもしれませんよ。」
「いや、次の機会は作って見せる!
でも、今日はまだ駄目だ。」
「ふふふ、じゃあ次の機会の時に。
膝枕はなくなるものじゃあないしね。」
マーヤ、俺をからかって楽しんでる、みたいな気がするのは、俺だけか?
というか、マーヤ、お嬢様なんだよな。
なんか、なんか・・・そんな気がしないのは、俺だけか?
今日は “俺だけ” 気にしていることが多い・・・。
今のやり取りで、眠気も吹っ飛んでしまった。
「散策しながら戻ろうか。」
「ええ、馬も一人ぼっちにさせてしまっているしね。」
片付けて、手をつなぎながら戻った。
今度は、俺から手を差し出したら、マーヤが嬉しそうに手を握ってきた。
途中、桃色の花をつけた木があった。
「わー、可愛い花だわ。 今、満開ね。
桃かしら、それともアーモンドかな。」
マーヤは木に咲いた花を見ながら歩いたので、木の根に躓いた。
「おっと。 こういう場所は下も気にしないと危ないぞ。」
俺はマーヤを抱きとめた。
「あ、ありがとう。 気をつけます。」
マーヤは、抱きとめた俺の腕を離したが、顔がみるみる赤くなっていき、俯いてしまった。
ほー、抱きとめるのは恥ずかしいのかな。
マーヤの赤くなる基準がわからん!
マーヤは、手をつなぎつつも、俯きながら俺の少し後ろをついてくる。
何なんだ、この生き物は!
か、可愛すぎる!
ゆっくり歩いて、馬のところまで戻ってくると、マーヤも気持ちが落ち着いたようで、いつものマーヤに戻っていた。
「馬さん、ただいま戻りましたよ。」
マーヤは、馬に話しかけながら、馬の顔を撫でている。
「マーヤは、馬に慣れているな。」
「ええ、家にいたときはよく乗っていました。」
「えぇ?!」
「え?」
「マーヤは馬に乗れるの?」
「はい、貴族のたしなみとして。」
「一人で?」
「はい、お兄様に教えてもらったので私も乗れますよ。
お兄様とは、よく一緒に遠乗りに出かけました。」
「あー、そうなんだ。」
なんだよ~、マーヤ、馬に乗れるんじゃないか。
俺のドキドキを返してくれよ。
と、思ったけど、まあ、それはそれでいいか、と思い直した。
何が?って、俺のドキドキだよ!
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
「そうですね。
今日もとても楽しかったです。
ありがとうございました。」
「俺も久しぶりにここに来れたから、楽しかったよ。
日ごろの忙しさを忘れられた感じだな。」
それに、また少しマーヤとの距離が縮められた気もする。
こんなふうに、少しずつお互いを分かり合えればいいな。
馬に乗って帰りの途中。
「そーいえば、さっき、私たち間接キスしちゃいましたね。」
「ぶふぉっ。」
マーヤー、やっぱり気づいていたのかいっっ!
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