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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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16. 新婚デート・湖編 その1

今回は、デート・湖編です。

少し長くなりましたので、前・後編に分けました。


「マーヤ、支度はできたか?」

「多分大丈夫だと思うけど。」

「マーヤのパンツスタイルは新鮮だな。」

「ふふふ、今日は馬に乗るって言っていたから、パンツにしたの。」



昨日は街なかに行ったけど、今日は森に行ってみようと誘った。

馬に乗るのは大丈夫って言っていたから、二人で遠乗りをしようと思う。

朝食の時、出かける準備ができたら、庭の馬留めのところに来て欲しいと伝えておいた。

くー、マーヤのパンツスタイルって、かっこよすぎるぜ。


「この子が乗せて行ってくれる馬なんですね。

今日はよろしくお願いします。」

マーヤは馬に向かって頭を下げた。

「俺の馬は家においてきちゃったから、今日は親父殿の馬を一頭借りるんだ。

牡だけど、優しい性格だから大丈夫だと思う。」

俺は馬に鞍を付けたり、遠乗りをする準備をした。



「忘れ物ですよ~。」

玄関の方から母上の声が響いた。

あ、お昼に食べるサンドイッチを頼んでいたんだ。

「ありがとうございます。 助かります。」

マーヤが母上のところに走っていった。


「まあ、リルマーヤ、パンツスタイルとはかっこいいわ。

あなたは背が高いから中性的な感じにもみえるわねぇ。」

二人は歩きながら馬のところまでやってきた。

そういえば母上、マーヤはもうヴォルグ家の子になったんだから、名前も呼び捨てで呼ばせてもらうわ、って宣言していたな。

きっちりけじめをつけるところは、母上のすごいところだな。


「ねえ、リルマーヤ、コーリと並んでみて。」


いやな予感がする・・・。

母上のいつもの妄想がうずいているような気がする。

たしか、最近観た演劇はみんなで一緒に行った時だったから、別の演劇を思い出しているのかもしれない。


「素敵!こんな身近に、前に観た劇の再現ができるモデルがいるなんて!

コーリ、もう少しリルマーヤに近づいてみて!

誰か~、絵描きを呼んで~!」

「母上っ、ちょっと落ち着いてください!

それはどんな劇だったんですか?」

「その時のお話はねぇ、商人の若旦那とそこに働きにやってきた男の子の悲恋のお話だったの。

初めは男性同士?と思って観ていたんだけど、俳優さんもカッコよかったし、男の子役の子もすごくかわいらしかったし、それよりもまず!お話の内容がもうよかったのよ~。

どんどんお話に引き込まれて、最後はハンカチなしではいられなかったわぁ。」

というと、マーヤは男の子役ですか!


「ほら、リルマーヤ、コーリの胸にちょっと手を添えてみて!」

「こんな感じですか?」

「振り向き加減で・・・あーいいわぁ。」

「マーヤも母上の言葉通りにやらなくていいから!」

なぜか、マーヤもノリノリで母上の言いなりになってやっている。


「二人とも素敵だし、かっこいいし、母は大満足よ~。

朝からいいもの見たわ~。

気を付けて行ってらっしゃいね~。」

母上は、言うだけ言ってスキップでもしそうな勢いで家に戻っていった。

まったく、あの人にはかなわないな。


「すまないな、マーヤ、母上のことは許してやってくれ。

悪気はなくて、ああいう人なんだ。」

「楽しい方ですよね。

この前、半日一緒にいたけれど、とてもおもしろかったわ。」

この前というと、祝いの宴の次の日のことか。

その日の午後は母上とマーヤは一緒にいたからな。

おもしろいって、何をしたんだ?


「あ、忘れもの!

ごめんなさい、ちょっと待っていて、とってくる。」

マーヤは何かを忘れたらしく、家の方へ戻っていった。



そこに今度は、トリス兄様がやってきた。

まだまだ眠そうな顔をしている。

「トリス兄様、おはようございます。

今回は来ていただいてありがとうございました。」

「おはよう、コーリ。 俺も楽しかったよ。

二人を見ていたら、俺も結婚したくなっちゃった。」

「ほんと? 兄様が選ぶ人を見てみたい!」

「もう、コーリはかわいいなぁ。

ちょっと言ってみただけだよ。

ところで今日はどこに行くんだい?」

なんだ、いつもの気まぐれだったのか、残念。


「今日は馬で森の方へ遠乗りに行ってみようかと思って。」

「馬は一頭しかいないけど、二人で乗っていくの?」

「ええ、マーヤは馬に乗れないだろうから、一緒に乗っていけばいいだろう、と。」

「ふーん、リルマーヤちゃんに聞いてみた?」

「え、一頭で一緒に乗っていくから大丈夫だと伝えたけど。」

「ほう、そうか・・・コーリも男になったね。 俺はうれしいよ!」

ど、どういう意味なんだ。

「俺は、前から男ですけど・・・。」

「はは、そうだよね。 コーリ、頑張ってね。

あ、それから、俺は今日で帰るから。

久しぶりにのんびり話せて、良かったよ。

また、家の方にも行くから。

次は、リルマーヤちゃんも一緒かぁ・・・楽しみだねぇ。

じゃあね~。」

「俺も楽しかったです。 マーヤにも伝えておきます。

ありがとうございました~。」


トリス兄様はそういうと、上げた手のひらをひらひらさせて、家の方へ戻っていった。

寝起きっぽかったからこれから朝食かな。

それにしても、こんなごつい俺に対して、よく『かわいい』なんて言えるよな・・・不思議だ。


マーヤが走って戻ってきた。

「はあ、遅くなってしまってごめんなさい。」

「何を忘れたんだい?」

「頭に巻くスカーフを。

これがないと、馬で走っているときに髪がぼさぼさになってしまうから。」

そういうものなのか。

そういえば今日は髪を縛っていないな、と聞いたら、縛っても走って風にあたるとほつれてしまうので、縛らないそうだ。

なるほどね、ってよくわからんが。


「じゃあ、行くか。」

「はい、お願いします。」

母上から受け取ったお昼ご飯を馬につけたバッグに入れる。

水も入れてあるからいいな。

マーヤは持ってきたスカーフを頭に巻いている。

それから、俺とマーヤは風よけのマントを羽織って、まず俺が馬に乗り、そのあとマーヤを上に引き上げた。



「馬を走らせるぞ。」

馬が動き出したが、ゆっくり歩かせていけばいいだろう。

というか、俺の全神経は前面に集中している・・・。


近い、近すぎる!

マーヤと密着している。

ぐおー、全く考えていなかった!


二人で馬に乗るということは、こういう体勢になるということで・・・。

俺が手綱を持っているので、マーヤは俺の腕の中にすっぽり納まってることになり・・・。


あー、さっきトリス兄様が言っていた“男”の意味はこういうことだったのか!

一頭に一緒に乗るってことは、別にマーヤに近づきたくてという意味ではなくてですね、マーヤが馬に乗れないだろうから、ってことで、って俺は誰に弁解しているんだ。


「今日も天気が良くてよかったわ。

風は少し冷たいけれど、いい気持ちね。」

マーヤの言葉で気が引き戻された。

「あ、ああ、いい天気だな。」

マーヤは、この体勢を気にしていないみたいだな。

ここはすっとぼけて、俺も気が付かないふりをして話題にしない方がいい。

マーヤが前で、よかった。

たぶん俺の顔は真っ赤だから、顔を見られると恥ずかしい。

マーヤは背が高いから、俺は顔を少し傾ければ声が聞こえる。

でも、耳元で話されるからドキドキする。


「このあたりは、木が一定の間隔で植えられているのかしら。」

「ああ、ここはまだうちの果樹園だから。」

「え、ヴォルグ家には果樹園もあるんですか?」

「ああ、人を雇って手入れをしてもらっているけどな。

子供のころのいい遊び場だったよ。

広いし、実がなるともらえたし。」


話をしながら道を進んでいく。

果樹園が雑木林になってくると、ヴォルグ家の土地も終わりだ。

道はあるから大丈夫だけど、木々がうっそうとしてくる。

それから半刻ほど行くと開けた場所に出る。

湖だ。



「うわー、こんなところに湖があるんですね!」

うんうん、今日もいい反応だ。

「ああ、そんなに大きな湖ではないけど、気持ちのいいところだろ。」

「ええ、湖面に景色が映って素敵。」

俺たちは馬から降りた。


マーヤが、湖の水際まで走っていった。

湖面に風が当たり波立っているところに陽の光が反射して、キラキラと輝いている。

冬が終わり春になり、だんだん暖かくなっていく中で、木々も若草色の葉を芽吹き始める季節だ。

早咲きの花がちらほらと見え隠れしている。

俺は馬を木につないで、バッグを馬から外して持ち、それからマーヤのところに行った。


「少し歩こうか。」

「ええ、座っていたし、ちょっとおしりも痛いので動きたいです、ふふふ。」

そう言ってマーヤは手を出した。

俺はその手を取って歩き出した。


うーん、歩くときは手を繋ぎたいんだろうか?

俺は全くかまわないけど、これからはいつも手を取ってもいいのかなぁ。

歩くときは手を繋ぐものだと思って手を差し出しても、それを受けてもらえないのでは悲しすぎる。

ただの気まぐれか、それとも繋ぎたいからなのか、悩むところだ。

マーヤの方を見ると、俺のそんなもやもやな気持ちを知ってか知らずか、景色に見とれ、俺に笑いかけている。


絶えず聞こえてくる鳥のさえずりが、いつもの日常と違う感じをもたらせてくれる。

ザクッ、ザクッ

砂利混じりの土を歩く音が耳に心地よい。



繋いだ手の温もりが伝わってきて、沈黙も不快に思わない。

この時間がずっと続けばいいのに、と俺は思った。



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