11. 結婚祝いの宴 その1
少し長くなってしまったので前半と後半に分けました。
誤字の訂正と行間の修正をしました。
帰りの馬車の中は、親父殿と母上、向かい合ってリルマーヤ様と俺が座った。
儀式は済んだのに、リルマーヤ様がいるだけで、ちょっと緊張してしまう。
コンハートの家に着いたら俺たちのお披露目の宴を用意してくれているので、親父殿がその宴のことについて話をした後は静かになった。
そのうち、疲れも出たのか母上が親父殿にもたれかかって眠ってしまった。
「リルマーヤ様も疲れたでしょう。
寝てもいいですよ。
起こしてあげますから。」
「ありがとう。
でも、家から東の方にはあまり行ったことがないので、景色が楽しくて、窓の外を見ています。」
確かに、子爵家があるアグラン市から東はどんどん田舎になるので、リルマーヤ様も来たことがないのはしょうがないよね。
アグラン市を出ると、広大な畑が続く。
街道沿いには所々に集落もあるが、見えるのはほぼ畑だ。
しかし、よほど珍しいのかリルマーヤ様はずっと窓の外をみて、ときどき声を出しながら道中過ごしていた。
◇◆◇
家に着くと、リルマーヤ様に家の者を紹介しようと、親父殿の一声で応接間にみんな集まったが、もう前に会っているからと簡単に済ませ、お茶の用意をしてもらった。
宴が始まる時間までは少しあるので、一息つけそうだ。
そのうち、親父殿と母上は会場の様子を見に行き、兄上たちも支度があるからと部屋から出て行ってしまい、俺とリルマーヤ様が残った。
「みんな行っちゃいましたね。
この後もまだありますから、今はゆっくりしてください。」
「はい、ありがとうございます。」
俺は呼び方について話をした。
「あの、俺のことはリヒトって呼んでもらえますか?
あと、敬語もやめちゃっていいですか? なんか、慣れなくて・・・」
「もちろんです。 じゃぁリヒト様ですね」
「様もいらないけど。」
「・・・リヒト・・・」
ばこん
「だ、大丈夫ですか?
突然、エアーアッパーパンチを食らったみたいにのけぞりましたけど!」
「エア何とかはわかりませんが、だ、大丈夫です、ご心配なく・・・。」
誰かに殴られたぐらいの衝撃が・・・。
リルマーヤ様が俺の名前を呼んでくれたけど!
自分から呼んで欲しいとお願いしたんだけど!
顔から火が出そうなくらい、赤くなってると思う。
赤くなっていると、思えば思うほど恥ずかしさが増す・・・。
俺がその呼び名に慣れなくちゃだめじゃないか!
ふぅー、名前を呼ばれただけでこんなに恥ずかしいのか。
リルマーヤ様を見ると彼女も顔が赤くなっていた。
「ふふふ、お互い慣れるまでは大変そうですね。
おいおいということで、今はリヒト様と呼ばせてもらいます。
私も、マーヤと呼んでください。」
「あ、わかりました。 では、マーヤと呼ばせてもらいます。」
「ふふふ、敬語のままですよ。」
「はは、なんか、こういうの、慣れなくて・・・まいったな。」
二人で笑い合ってしまった。
彼女の名前を呼ぶのは普通にできるんだけど、自分が呼ばれるのは、慣れるのに時間がかかりそうだ。
変な俺。 自分のことなのに自分でもよくわからない。
そのあとは、先ほどの婚姻の儀の不思議な現象について話をしたりして、結構まったりした時間を過ごすことができた。
「コーリ、ちょっといいかい?」
応接間のドアは開いていたので、壁をノックした音がしてからモルド兄上が顔を覗かせた。
「兄上、どうしたの?」
「ちょっとこっちへ。」
手招きされたので俺一人で兄上のところに行く。
コンハートに滞在中はマーヤの侍女のジゼルがいるので、彼女を呼んでマーヤをお願いした。
「何かあったの?まずいこと?」
「いや、そうではないから大丈夫だけど。
これから宴だろ、その心構えを伝えておこうと思って。」
「心構え?大変なこと?」
「それなりに長い時間、宴に付き合わないといけないから。
いいか、お客様に挨拶をしている間は立ちっぱなしだけど、時々客足が途絶えるときがある。
その時はリルマーヤさんを座らせてあげなよ。
それから、飲み物やつまむものは侍女に取ってきてもらうんだけど、何が欲しいかを聞くのはまず、母上からお伺いすること。
この順番を間違うと、これから先のリルマーヤさんと母上の仲にしこりを残すから、絶対気を付けるんだぞ。
座るのは、母上は自分で判断して座れるから気に掛けるのはリルマーヤさんだけでいいけど、欲しいものを聞くときと渡すときは必ず母上からするようにな。
がんばれ、コーリ!
応援しているからな。」
そう言うと、モルド兄上は俺を残し去っていった。
えー、俺、責任重大じゃあないか!
俺の順番間違いで、マーヤの嫁姑問題に発展するの?
笑顔で挨拶していればいいと思ったけど、ヤバいじゃん。
義姉上と母上の仲は友好だから、こういう細かいところでモルド兄上も苦労したのかもしれない。
マーヤと母上のために俺も頑張らねば!
モルド兄上の言葉を肝に命じ、そろそろいい時間になったので俺はマーヤと一緒に宴の会場のホールへ行った。
ちらほらと時間に早いお客さんたちが来ている。
多分、近所の人たちだな。
俺たちも両親の立っているところに行って、お客様たちをお迎えする。
すると、パーシリット叔父上が来てくれた。
「叔父上、今日はお越しくださりありがとうございます。
こちらが、つ、妻のリルマーヤです。
パーシリット叔父上は、親父殿の弟で、俺の通った騎士学校の剣の先生なんだ。」
「おいコーリ、嫁さんを紹介するときに噛むなよ。
リルマーヤさん、パーシリット・ヴォルグです。
これは、コーリにはもったいないぐらいきれいな女性じゃあないか。」
「初めまして、リルマーヤです。
こちらこそよろしくお願いいたします。
リヒト様の剣の恩師でもあるんですね。」
「ああ、コーリは剣の腕はよかったんだが、同じ学年にどうしても勝てないヤツらがいてな。
結局、剣は3番目で卒業したな。
こいつは、向上心がないのか、2番目のウィーロにも早々に負けを認めていたな。
もう少しがんばれば、ウィーロにも勝てると思ったんだがなぁ。
自慢の甥としては、少し残念だったぞ。」
「ご期待に沿えずすみませんでした。
向上心がないわけじゃあないんですが、ウィーロの剣は本当にきれいで無駄がなくって、すごいって思っちゃったんですよね。」
「そうだなぁ、あいつの剣は優雅なのに強かったな。
でも、それと勝ちたいって気持ちは別じゃないか?」
「リヒト様、その方の剣には敵わないっていう気持ちより、尊敬っていうと大げさですけど感動したのではないですか?
ずっと見ていたいっていうか・・・勝ち負けを超えた感覚というか・・・。」
「そうそう、そういう気持ちなんだ。
ウィーロの剣は憧れるし、自分もあんな風になりたいって思うね。」
「ふーん、そういう考えなのか。
相手を認めると、そういう気持ちになるか、なるほど・・・。」
今まで、うまく伝えることができなかった気持ちをマーヤが代弁してくれて、叔父上も俺の気持ちが分かったようだ。
「リヒト様、3番目とはいえ、そんなに剣がお強いんですね。
知らなかったですわ。」
「ああ、コーリは剣の扱いは私も認めるが、女性の扱いはたぶん全くと言っていいほどだな。
あなたが鍛えてやってください。」
「叔父上、俺のそういう話はいいですから。」
「ははは、悪い悪い。
では他の皆さんに挨拶してくるかな、私も久しぶりにこっちに来たからね。
では、リルマーヤさん、コーリのことをよろしく頼みますよ。」
そう言うと叔父上は飲み物をもらいながら、向こうへ行った。
「お話が楽しくてついつい長くなってしまいました。」
「ああ、先生をやっているだけあって、話は面白いんだよ。
俺も叔父上のことは大好きなんだ。」
「ところで、今の話ですともう一人リヒト様よりお強い方がいるようですが、その方は?」
「あー、俺とウィーロよりもっと強いヤツがいたんだが、飛びぬけて強すぎて別格だったな。
次元が違い過ぎて、ウィーロの剣は美しいと思えるんだけど、そいつの剣は苦手だった。」
「強ければいいというものでもないのですね。
はぁー、奥が深いですね。」
だんだん来客者が多くなってきた。
ほとんどが親父殿の知り合いで、俺は知らない人たちだけど。
俺たちのお祝いというよりは、親父殿の息子のお祝いって感じだな。
俺たちはいなくても良さそうだが、一応主役なので、笑顔を顔に貼り付けて挨拶をこなした。
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