プロローグ
日本国、関東地方、某市・・・
「ごめん、待った?ふいちゃん!って、待ち合わせの時間よりまだ早いよね~。」
「おー、真弥!今日もかわいいねっ。ちょうどいい時間の電車がなくてちょっと早く着いたんだよ。そういう真弥も早いじゃない?」
「ふふふ、待ちきれなくてね!」
今日は、同僚のふいちゃんとランチに来たのだ。
お目当てのお店は、場所に関する情報が一切メディアに載らないという隠れ家的なところ。
ふいちゃんの、友達の友達から入手した住所と電話番号で予約して、やっと今日という日を迎えたの。
「駅の周りはやっぱり人が多いね。
お店もあるし。まさか、そのお店って駅前とは言わないよね。」
「そりゃそうよ。友達に聞いたけど、駅から10分くらい歩いたところって言ってたよ。」
「予約の時間にはちょっと早いけど、行ってみる?」
ふいちゃんはスマホの地図アプリを操作し始めた。
私はちょっと地図音痴なので、こういうときはふいちゃんが頼りになる。
「あ、こっちの方みたいだよ。
行ってみよう!」
ふいちゃんも私も、短大を出て今の会社に就職した。
小さな会社の同期入社で、その時の新入社員が5人、女子は2人だけだった。
入社3年目の今は、時々休日を一緒に楽しむ仲だ。
「駅から少し離れただけで、閑静な住宅地だね。」
「本当にこんなところにお店があるのかなぁって思っちゃうね。一人で来たら絶対道に迷っちゃうよ。」
こんな住宅街ではお店はなかなか見つけられなさそう。スマホだけが頼りだ。
「やだ、なんか前からすごい速さで車が走ってくるよ。こんなところで危ないね。」
「あ、子供!」
私は子供を見たとたん、なぜか走り出していた。
「えっ?行っちゃだめ!、ま~や~!!」
ふいちゃんが叫ぶ。
私もだめだと頭ではわかっているけれど、足が止まらない。
子供が道路の真ん中で突っ立っている。
前からスピードを下げずに車が走ってくる。
間に合う?間に合わない?
私は子供を突き飛ばし。
そして、車は私を突き飛ばし。
それから、ワタシが突き飛ばされた気がしたが、意識が飛んだ。
◇◆◇
ティルノナーグ国、フォージアグラン領、アグラン市
「先生、リルマーヤはなぜ起きないんですか!先生がおっしゃるには、今は眠っているだけのようだと・・・。」
妻のアリアローナは、疲れている。
感情を抑えることができず、泣いてしまっている。
私は彼女の肩を抱き、背中をなでる。
無理もない、娘のリルマーヤが流行り病にかかり高熱で5日間うなされた。
やっと熱が下がったと思えば、今度は一向に目を覚まさない。
そのまま眠り続け、3日が経ってしまった。
かかりつけ医のベレーニス氏が申し訳なさそうに言う。
「リルマーヤ様は熱も下がり、脈も安定してます。今の状態を言うならばただ眠っていると申し上げるしかありません。私もこのような症状は初めてで、なんと申し上げてよいか・・・。」
「ああ、いいんだ、わかっているよ。
妻は心配でたまらないんだ。突っかかってしまって申し訳ないな。
何か、娘に効く薬とかはないのかい?」
「子爵様、お心遣いありがとうございます。
お嬢様は、今は眠っている状態ですので、薬では治せないかと・・・。
それよりは、外からの刺激は伝わると思いますので、さすってあげたり言葉をかけてあげてください。」
「そうか。
今は何も食べていない状態だが大丈夫なのか?」
「リルマーヤ様の体には、魔石からたまった魔力がありますので、しばらくは大丈夫かと思われます。」
「でも、永遠というわけではないだろう。持ってどのくらいと予測する?」
「私の経験から申し上げますと、個人によって差がありますので、そうですね、半月以上、しかしひと月は持たないかと・・・。
魔力がなくなってきますと、何かしら体に異常が現れます。
小さなことも見逃さずにして下さい。
私もできる限りこちらのコンヴィスカント家には伺いますが、何か変化がありましたらすぐにご連絡ください。」
リルマーヤが眠りに入ってから3日。
魔力がなくなるのが最も早くて、2週間もないというところか。
それまでに目を覚ましてくれるか、それとも目を覚まさせないといけないのか・・・