第八十九話 ハイケア祭・前日~賑わいの予感と、100%の愛~
昨日7/20に書籍一巻が発売されました!
いつもお読みいただいている皆さまのおかげです、本当にありがとうございます。
紙派の方も電子派の方も、素敵なイラストと共にぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです!
TOブックス様の公式X上では、リシトとツークに続きメナール、アビー、ベルメラのキャラデザも公開されています。ぜひチェックしてみてくださいね。
『──とうとうやって来やしたねぃ!!』
「人も多いなぁ」
ルーエ村とはまた異なる活気に溢れる街並み。
人の多さ、それに伴うざわめき。
おまけに明日からの祭り本番に合わせて装飾や屋台の骨組みなんかが立ち並び、街全体が盛り上がりをみせる。
王都からルーエ村に来た時に経由した交易都市ハイケア。
交易都市と言われるだけあり、港を有する街だ。
そこでは古くから多くの取引が繰り広げられ、同時に街の発展にも寄与した。
ベレゼン王国一栄える王都からここに来た時は、驚きも今と比べると半分ほどであったが……。
高い建物がほとんどないルーエ村から来た今は、その街並みに圧倒されている。
『今日でこれなら、明日からはもっと人がスゴイんですかねぃ!?』
「だろうな。今いるのは祭り関係者か、人混みを避けて仕入れに来た者とかだろうか?」
すれ違う冒険者たちでさえ、どこか浮き足立っているようにも見える。
「……」
「? どうした、メナール」
「い、いえっ」
今日は朝から珍しく緊張している様子のメナール。
たしかにAランクの冒険者が祭りで店番する機会なんて滅多にない。
この賑わいを見て、改めて緊張感が襲ってきたんだろう。
今朝はなぜか手荷物が多かったので、ツークにお願いして彼の荷物も【収納】に入れてもらっている。
「それにしても……」
高い建物のおかげで影になっている部分もあるが……にしたって暑くなってきた。
村からここまで乗せてもらった馬車ですら、時折吹く風は心地よかったものの室内に熱気がこもって暑く感じた。
「天気や季節が影響する……か。なるほどな」
「?」
「いや。グレッグさんが言ってたことを思い出してな。こういう時に冷たいものを提供する屋台があるといいんだろうなぁって」
「なるほど」
「食堂でメニューを考える時も、そういうのを意識しないといけないか」
冒険者としての食事なら、そもそも提供する人数が限られている。
気候や天気に合わせたメニューを用意するというのはなんとなく当たり前にやっていて、労力もさほどなかった。だが、食堂として提供するなら気候や天気によって客足が変わったりする。より多くの者のことを考えなければならないというか、やはり王都に居た頃とは多少勝手の異なる部分もあるだろうな。
『! オレっち、ちょいと失礼しやす!』
「ん?」
メナールと話していると、いきなりツークがぴょんと石畳の上に降り立ち、さらにどこかへ転移した。
「……どこに行ったんだ?」
「──あ、あそこみたいです」
二人でキョロキョロと周囲を見ると、メナールが斜め上を指差した。
『ふぃ~~~~』
メナールが示した先を見ると……近くにあった街路樹の枝先に、脱力してだらーんと体を預けるツークの姿が。
……いったい何をしているんだ?
「おーい、ツークー。どうしたー」
『オレっちのふわもこボディにこもった熱を、発散していやす~』
「お、おう。そうか……」
たしかに俺たちよりも暑そうな見た目だもんな……。
ツークなりの大変さがあるのかもしれない。
『──っしゃぁ!!』
ひんやりとした枝で休憩し、体の調子が戻ったらしいツークは地面に転移すると、俺の足元からチョロチョロと一気に駆け上がっていつもの位置に収まった。
「気合い充分だなぁ」
『♪』
恐らく街を探検するにあたって、美味しいものが食べられると思っている模様。
祭りを前にして歴戦のメナールが緊張しているというのに、ツークは全く緊張していないようだ。さすがはツーク様である。
「たしか、受付が必要なんですよね」
「商業ギルドの者に聞いてみるか」
セレに話を聞いたところによれば、まずは商業ギルドで受付が必要だ。
ハイケア在住の者や、準備がそう掛からない者は当日朝の手続きでもいいらしい。
周囲には同じ制服を身に纏う者たちも祭りの準備に取り掛かっているため、おそらく彼らが商業ギルドの者だろう。
商業ギルドで手続きをする際、周辺の宿も尋ねる予定だ。
「──すまない」
「はい?」
道の端で作業中の男性に声を掛ける。
「一つ教えて欲しいんだが……。商業ギルドへは、この道を真っ直ぐ進めばいいんだろうか?」
「ええ、道なりに港へ向かえばございますよ」
「ありがとう」
丁寧に手で指し示して教えてくれた。
俺たちはそのまま道なりに街並みを楽しみながら歩いていく。
街の中心である広場に向かう道でもあるんだろう。
徐々に人や店も密集したエリアとなってきた。
両脇に立ち並ぶ高い建物を見上げつつ、ふと隣を歩く口数の減ったメナールへと視線を移す。
「……」
「?」
てっきり緊張が続いているのかと思ったが……なんだか、どちらかといえば無表情だな?
『(アニキアニキ。きっといつものですぜぃ)』
「(ん? いつもの……)」
耳元でコソコソとツークが言う。
ツークの視線の先には──
「(ああ、なるほどな)」
ルーエ城でもあったが、いつもの女性たちからの熱い視線だ。
以前メナールを王都の冒険者ギルドで見かけた時と同様、自分のことで一々波風を立てられたくないメナールは、その女性たちからの視線に応えるわけでもなく、ただただ冷静だ。
そういうところはミゼルと真逆とも言える。
「待てよ……」
『?』
メナール、今回手伝ってくれるのは嬉しいんだが……。
あまり彼が、ミゼルのように愛想を振りまく姿は想像できない……。
店番、大丈夫だろうか?
俺としては無理をして欲しくないんだがな。
『! アニキィ! さらに賑わってきやした!』
「おお」
冒険者ギルドといった公共施設も集まる広場。
乗り合い馬車の乗降所もあるため、見覚えのある場所だ。
以前来た時にもずいぶん広々とした空間であったと感じたが……今回はまた一味違う!
「まるで一つの商店街のようだな」
恐らく出展者が申請した売り物、あるいは規模なんかによって商業ギルドが振り分けをしているんだろう。大きさの異なる屋台の枠組みが、人々が買い物をしやすいように規則正しく立ち並んでいる。
何軒かの屋台ではさっそく出店者が明日に向け準備を行っていて、大きい屋根の下では布を敷いた上にそのまま陶芸品を並べたり、ちいさな小屋のような屋台では木彫りの人形や手縫いの人形なんかも。
この辺りは各地の工芸品を取り扱っているんだろうな。
「大人も子供も楽しめそうだな」
『ッスねぇ』
準備の段階でこんなに心惹かれるんだ。
そりゃぁ楽しい催しに決まっている。
「でも、俺たちは港の方なんだよなぁ」
「そのようですね」
うーん。なら、出店側の俺が買い物を楽しむ時間はないか……?
アビーのお土産のこともあるし、代わりにメナールに楽しんでもらおうか。
「──すみません、馬車が通ります」
「あ、すまない」
考え事のために道の上で止まっていると、商業ギルドの者に誘導される。
大人しく従って脇に寄ると、商人たちの乗る馬車とはまた違った豪華な馬車が俺たちの来た道からやってきた。
例えるなら以前ミゼルが乗ってきた馬車。
なんだか貴族が乗っていそうな……。
『(やっぱり貴族のお人らも祭りを楽しみにしているんですかねぃ?)』
「(そうなんじゃないか?)」
「あれは……」
「?」
目の前を優雅に通り過ぎて行った馬車を見送りながらメナールが言う。
男爵家の次男であるメナール。見覚えのある紋章だったんだろうか?
「知り合いか?」
「いえ。恐らく¨サン・ローズ¨に出資している令嬢かと」
「ああ! そうか、ミゼルの……」
『幻想の薔薇会』、通称サン・ローズ。
ミゼルの活動を応援する者らで構成された会だ。
その会に属する者の中には豪商の娘や貴族令嬢もいるという。
そういえば……、彼らは会員同士で協力して商品開発なんかもしているというし、もしかすると祭の関係者なのかもしれないな。
「……」
あ、メナール……ミゼルと会った日と同じ顔つきになっている……。
王都でミゼルと色々あった様子だったが、もしや幻想の薔薇会の者らにも何かされたりしたんだろうか……。
せっかくの祭だ。何もなければいいんだが。




