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閑話 祭りの前~メナールの場合~【メナール視点】

TOブックス様の公式Xにて、昨日リシト・本日ツークのキャラデザがupされています!

本当にイメージぴったり&カワイイのでぜひチェックしてみてください(*'ω'*)




「────よろしくお願いいたします!!!!」

「よ、よろしくな」

『~!』


 ハイケア祭二日前。午後三時。

 晴れ渡る空は食堂の未来を映し出しているかのようだ。

 私はリシトさんのお力となるべく、まずは祭りの事前準備。その手伝いに食堂へとやってきた。

 どこか誇らしげに私の前面を覆うエプロンと共に。


「メナールさん、張り切り過ぎ……」

「?」


 後ろから付いてきたアビーに、なぜか呆れられた。

 そんなアビーにリシトさんが問いかける。


「アビーは祭りに来ないのか?」

「興味はありますけど……人混み苦手なんですよね~。平時ならまだしも祭りだとちょっと……。回復術師(ヒーラー)がいないのもありますし、村にお留守番しておきます」

「そうか……。なら、お土産買ってくるよ。ツークがいるし、食べ物でもなんでも」

「え、やった。じゃあ、甘いものがいいです」

「アビーは甘いものが好きなんだな。ちょっと意外だ」

「……」


 アビーは村に待機。

 ハルガは初日に酒とツマミがあるかを覗いて、三日目の剣術大会の際にまた来ると言っていた。


 つまり、リシトさんのお力になれるのは────私のみ!!


「リシトさん、私が三人分働きますのでお任せください」

「た、頼もしいな……」

『~~!』


 宣言すれば、ツークが私を(たた)えるように何かを言っている。

 恐らく「よく言った! それでこそアニキへのリスペクトを持つ者!」とでも言っているのだろう。

 彼はもはや同志と言えよう。


「ツーク、私に任せたまえ」

「なんで会話が成り立っているんだ……」


 改めて食堂内を見回すと、テーブルやキッチンに下準備をするための食材がたくさん並べられていた。

 察するに、水場近くにある野菜から切っていくのだろう。

 私はまだまだリシトさんには及ばないものの、『切る』という作業は剣を振るう時に似ていて無心になれる。料理の中で最も好きな作業だ。

 腕が鳴るというもの……!!


「ちょっと頭の中整理するから待ってくれ」

「はいっ!!」

「じゃ、僕は本でも読んでおきます」


 リシトさんが腰に手を当て考え事を始める。

 恐らく必要な量や何から準備するか、その手順などを考えているのだろう。

 いつも手際がいいからな。


「ん~……」

「……」


 私は自分の席に腰かけ、リシトさんの悩む姿を見ながらその時を待つ。


 リシトさんに何かを教わる。

 それを初めて受けたのは、冒険者に成り立ての頃。

 冒険者について右も左も分からない、ただの一人の新人であったというのに、私の持つ家名や肩書は『私』という存在を他人が勝手に判断する材料となった。

 先日食堂に来たミゼル殿を見ても分かる。Aランクという肩書が増えた今でもそうだ。


 それが『期待』だけならまだどうにでもなった。

 私が失敗した時の『失望』に変わるだけだ。

 少なくとも、『挑戦』はさせてもらえたはずだ。

 プレッシャーや期待に応えるというのはもちろん大変なことだが、挑戦さえできればわずかな一歩だけでも踏み出せる。

 失望を生んだとしても、次がある。


 だが、当時冒険者たちから向けられた目はそういった類のものだけではなかった。


 結果私を純粋に一人の新人冒険者として見てくれたのは、リシトさんだけだった。

 だから、リシトさんから何かを教わるのが好きだ。

 それはきっと、昔兄さんと剣の稽古をしていた時のような感覚に似ている。


 ──私にとって、兄はもちろん剣のライバルでもありましたが……彼は、よき友でもあったのですよ


 獄炎鳥の討伐に向かったあの日。

 リシトさんに明かした言葉は私の心に嘘偽りのないものだった。


 私はきっと兄さんに期待し過ぎていた。

 嫉妬のような感情を抱いた時、包み隠さず打ち明けることのできる関係。あるいはそれを糧にできるかのような。

 他人が何らかの勝利や成功をおさめた時、程度の差はあれ妬ましく思うことはよくあること。

 私の思う友というのは、それすらも心地よいものに昇華できる関係性なのだと思っていた。

 事実、私が兄に稽古で負ける度そう思っていたからだ。


 だが……、人の心はままならないこともある。

 元来素直に相手を認めるということは、非常に難しいことだ。


 そういう意味でリシトさんは、冒険者というフィールドにおいて憧れる先駆者であり、私の実力を認めつつも新たなことを教えてくれる友でもある。

 私がAランクとなってからも変わらずに、私の知らないことを教えてくれる。

 少々謙虚過ぎるところもあるとは思うが……まあ、そこは私とツークがカバーすれば問題ないだろう。

 ハルガやアビーと会えたことも幸運だった。


 そして、…………大変不本意ではあるが剣のライバルというなら……アドル殿。

 見習いたくはない点も多いのは事実だが、研鑽(けんさん)し合う者という点においては認めざるを得ない。

 もしあの時私が騎士団に入団していたら、同志と技を高め合う機会も多くあっただろう。

 だが冒険者であると、どうしても魔物相手が多くなる。

 決っっっっして憧れるような存在ではないが、自分の技を高めるという点では居てくれるのは助かる存在とも言える。


 あのタイミングでルーエ村に来ることとなって、本当によかった。

 日々を重ね新しい事が次々と舞い込んでくると、兄さんや騎士団、あるいは冒険者たちから向けられる目。そういったものがどこか霞んでいくというか……。

 決して見えなくなるわけではないが、大切に思えることが増える度、遠くなるというか。


 ……そういう意味では、ベルメラ嬢に感謝しなければならないのか?

 ふむ……。


 ぼんやりと歪んでいた視界を再び現実に合わせれば、リシトさんの姿。

 そこには自分が今身に着けているものと同じエプロンも。


 新しいことにチャレンジできる喜び。少しの緊張感。

 それに付帯した道具を新調するというのは、愛剣を手に入れる時の感覚に似ていてとても心が躍る。


 もちろんリシトさんのお役に立つことも大事。

 だが、今回のハイケア祭ではもう一つ重要なことがある。

 自分のことで、リシトさんまでも(おとし)められるのは我慢ならない。


 ミゼルマイド殿には、必ず勝たねば──!!



「──ヤバい。アツくて集中できない……」

「? そんなに暑いか?」

「……まぁ、ちょっと」


 ぱたん、と開いていた本を閉じたアビー。

 あの冷静なアビーが読書に集中できないとは……珍しいこともあるものだ。

 アビーは意外と暑がりなのか。それとも、祭りの準備が楽しみで高揚しているのだろうか?

 まぁ、たしかに自分の知らないことを知るのが楽しいという感情には共感を覚える。

 読書好きで知的好奇心の旺盛なアビーなら、なおさらだろう。


「──よし、じゃあそうするかツーク」

『チチッ!』

「!」


 どうやらリシトさんの中で段取りが出来たようだ。


「どのようにいたしましょうか」

「そうだな……メナールには、野菜を中心に切ってもらおうかな」

「お任せを」

「この前グレッグさんとも話したんだが……天気や他の店との兼ね合いもあるが、大体一日最低50から100食を見込んだ方がいいらしい」

「へー」

「んで、俺たちはツークの【収納(クローク)】があるから……」

『~!』

「食材も無駄になることは無い。一応、そんなに来ないとは思うが一日60食分を用意しようかと。二日で120食分だな」

「なるほど」

「それで、村の野菜やセレに手配してもらったカベラの身なんかは用意できたんだが。こっちで事前にしておいた方がいいのは野菜のカットと、あと皮だけは焼いておこうかなと思って」

「皮もですか?」

「万が一皿が足りなくなったら手づかみだろ? 向こうで焼きたてだと熱いかなって」

「たしかに……!」


 初めて参加するとはいえ、客の立場になって物事を考えるとは……さすがはリシトさんだ。


「屋台のセッティングとかはどうなんですか?」

「事前に商業ギルドに申請している者の分は、アンバー商会主体で設営とかはしてくれてるんだと」

「へー。手慣れてるって感じですね」

「セレがいれば大きいものも運べるだろうからなぁ」


 ふむ。設営などでお役に立てることは無さそう……か。


「祭り前日の明日は、街の探検も兼ねて場所の下見だな」

『~ッ!!』

「前乗りですね!」

「宿空いてるんですか?」

「出店する側の者はハイケア周辺の街道沿いにある、厩舎(きゅうしゃ)付きの宿に泊まるだろうからな。街中の宿は空いている……と信じたいが。まぁ、ルーエ村の他の出店者は宿泊しないみたいだし、宿が空いてない時には俺たちも村から通うしかないな。早起きすればいいだけだ」

「私は問題ありませ……」


 …………ん?


「……?」

「どうしました? メナールさん」


 待てよ。


「あの……」

「どうした?」

「私は、その……同じ部屋……」

「あ、一人の方がいいか? この前拠点で一緒に泊ったし、一緒の方が節約できるかなって思ったんだが……たしかにAランクだと代金は関係ないか。俺と一緒だと気遣うだろうし」

「!? 一緒で! お願いします!!」

「お、おうっ」


 リシトさんと……同室……!!??


「ツークもいますけどね~」

「!? わっ、分かっている」


 しかし……野営はともかく、部屋ではどんな服を着たらいいんだ!?

 先日の依頼は朝稽古で着る服と、通常の装備で臨んだが……。

 今回は別段依頼というわけでは……プライベート!?

 冒険者という共通の肩書が必要のない今回。

 教わる者……つまり、師と仰ぐ者と向き合うというのは少々気恥ずかしさを感じる。


 ハウスで着る服はラフ過ぎるだろうか、いや。しかし……。

 今でこそハルガとアビーと一緒に行動することもあるが、元よりパーティで行動する冒険者というのはソロよりも考えることがよほど多いのだろうな……。

 戦いに挑む時とはまた違う緊張感が──


「どうした?」

「え!? い、いえ……」

「メナールさんって、こういう経験ないですから」

「ああ、たしかに。分かるよ、緊張するよな。俺もいつも買う側だったし。ちゃんと売れるのかとか、心配事は尽きないよな」


 と、とりあえず、剣術大会もあるし行きと帰りはいつもの装備でいいか。

 屋台ではさすがに軽装にしよう。

 あとで荷物をまとめておかないと……荷造りにこんなに悩むのは初めてのことだ。


「たまの休みと思って、ゆっくりしてきてくださいよ」

「そう、だな。そうしよう」

「いやいや、剣術大会に出る人が何を……。じゃ、じゃぁ、準備始めていいか……?」

「はい!」

「僕はなにしたらいいですかね~」


 ハイケア祭……お力になる以前に、戸惑うことが多すぎる──!




私も基本的に一人行動が多いので、もしいつも一人で観に行くライブに、尊敬する年上の方と泊りがけで参加することになるとしたら……。

とっても緊張して、そわそわしてしまうだろうなと思いながら書きました(笑)


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