第八十四話 カベラ、無限の可能性
「──じゃぁ、メニューが決まったらまた教えとくれ」
「ああ。色々ありがとう!」
『姐さん、あざッス!』
諸々の祭りに関することを教えてくれたセレ。
出すメニューが決まれば、アンバー商会に働きかけて食材の調達も手伝ってくれるらしい。いや、ありがたいな……。
ツークの【収納】がある以上、村で調達できる分は自分でなんとかなるが、もしハイケアでしか手に入らない食材もとなると……ちょっと手が足りなくなる。
魚醤も一本しかないからな。併せて手配をお願いできるといいんだが。
「さて」
『お魚……』
改めて、ツークとカウンターの上に置かれた白身魚──カベラの切り身をじっくりと見つめる。
ツヤッと輝いているようにも見える白い身は、そのまま焼いても十分美味しそうだ。
内陸に住んでいた俺や、一般的な冒険者は魚を一から捌く経験というのはほとんどない。
稀に機会があったとして、鱗だけ取りそのままの状態で焼いたり煮込んだりすることが多い。
捌いた状態の切り身を持ってきてくれたセレは、本当に気の利く商人だ。
鑑定で視てみると、
【カベラ(切り身)】
【パキア海産】
【身は淡泊】
とある。
「どうやって食べようか?」
『そッスねぇ~』
俺とツークは生魚の調理経験は少ないものの、思いつく限りの調理方法を出し合う。
「セレの【収納】で持ってきてくれたから新鮮だし、マリネ風にしてもうまそうだなぁ」
『あ~~アニキィ、それはパンと一緒に食べるとヤバいやつッス……』
「パンか……。トマトソースでスパイシーに味付けして煮込んでもうまそうだよなぁ」
『ああぁぁ~~……』
「辛めといえば、少し塩を振って、フライパンでオイルにチリとニンニクを入れて熱して。その上で身を焼いてもうまそうだな~」
『~~ッッ、くぅ~~~~!!』
ツークを見ると想像しただけでその味に酔いしれているようで、尻尾はピーンと。身体をぐい~っと伸ばして身もだえている。かわいい。
「もう、いっそ全部食べたいな……」
『そッスね……』
半ば呆けた状態で夢想の旅へと出かける俺たち。
しかし食材は無限ではない……!
「ん? 辛い……」
『この前食べさせてもらいやした、あのトマトソース掛けのサンド。うまかったですよねぃ~』
「だな。……うーん、試してみるか?」
『?』
「甘じょっぱい、カチャパナ」
『……!!』
にやり。
そんな表情でツークを見れば、「あっ、アニキ! なんて恐ろしいことを……!」とでも言いそうな驚いた顔を向けられた。
『あ、合わないワケが……ないッ!!』
「だよなぁ」
勝利を約束されたも同然。
淡泊でクセのないその白い身は、魚醤の塩気とコーディアルの甘さ。
その両方を存分に身に宿すことだろう。
想像しただけでうまい……。
「出店でどう出すかは置いといて、一旦作ってみよう」
『っしゃあああああ!!』
三つ目の鐘も聞こえたところで、俺たちは食堂を閉めつつ早速料理の準備に取り掛かった。
◆
『~っ!!』
「あはは、相変わらずダメか」
まずは魚醤と、ハルガさんが譲ってくれたコーディアルを混ぜて、味の決め手となるソースの味を調整することに。
するとツークはやはりというか、鼻を押さえて逃げ出した。
『ふぃ~……』
いつものテーブルの、キッチンから見て最奥の方に逃げ一息ついたツーク。
『うまいものへの道は……険しい……ッ』
「その分、辿り着いた時の味は格別だろ」
『う、ういッス!』
再度気合いを入れ直し、ちょろちょろと近寄ってくるツーク。
『……』
「息止めてるし」
無理するなよ、と一声かけつつ早速調理開始。
魚醤とコーディアル。
それから魚の臭みを消しつつ風味を加えるためにワインをプラス。
ハルガさん同様ファディスも、甘じょっぱいカチャパナを思いついた際に自由に使っていいと言って置いていってくれたワイン。
どちらもさすがに全部を使うわけにはいかないので、自分用に仕入れておかないとな。
コーディアルは果実やハーブの水分がハチミツに溶け出していて、さらりとしている。
元の甘みがやや薄まっているため、気持ちコーディアルは少な目に入れてハチミツを加える。
「んー……、まだちょっと塩気強いか」
『ホー』
魚醤、やはり使い慣れていないと味の調整が難しい。
コーディアルを少し足すことに。
「お、イイ感じ」
味はガルム焼きを作った時に近い。
そこに果実の爽やかな甘みと、ハーブのいい匂いが鼻から抜けるように香る。
熱を加えてワインの酒精を飛ばせば完璧だ。
「じゃ、ツーク。火の番は頼んだぞ」
『オレっちにお任せぇ!』
食堂の営業中身に着けるようになったツークの首元に巻かれたチーフが、誇らしげにはためくとツークは所定の位置へ。
生活魔法で火を起こし経過をツークに任せて、俺はフライパンを二つコンロにセット。
「ふむ……」
カチャパナの生地を焼く準備をしつつ、魚を調理した際のイメージトレーニング。
ソースと一緒に煮込んで味を染み込ませたいが、上手にやらないと身がほろほろと崩れ落ちそうだ。
身全体が浸るように入れるのではなく、杓子でソースを何度も掛けるように煮込もう。
『そろそろオッケーですぜぃ!』
「お、ありがとう」
火力も十分になったところで、まずはソースをフライパンへ流し込んで温める。
『ホー』
匂いに怯えつつもツークがフライパンを覗き込む。
徐々にくつくつとソースが温まると、とろみを帯びてきた。
『お、おおお……』
「んじゃさっそく」
ソースが飛び散らないよう、静かにカベラの切り身を投入!
セレがくれたのは合計五切れ。今回は二切れ使うことに。
熱が加わるや否や、カベラの切り身はぷるぷるとした身を縮こませるかのようにぎゅっと固くなろうとする。
そこへ静かに杓子で周りのソースを上からかけつつ、もう一方のフライパンでカチャパナを作る。
『ワクワク』
「もうすぐだぞ」
変貌していくカベラの様子に待ちきれない様子のツーク。
甘い香りが漂い、既にうまそうだ。
「──よし! ツーク、皿を頼む」
『オレっちにお任せぇ!』
焼けたカチャパナの生地を平皿へと乗せ、さらにカラメル色に色づいた艶やかなカベラの身をそっと置く。
大事なものを仕舞うかのように左右を生地で包み込めば──カベラのカチャパナ、完成!
お魚なので白ワインもいいと思うのですが、白身魚のこっくりした煮つけには赤ワインでもよさそうです。異世界ものなので、そこまで厳密には気にしていないのですが(←)
今回の料理はものすごくざっくり表すと、タラの甘辛煮風をフィッシュタコスやトルティーヤのように挟んで食べている感じです。
甘辛系の魚を挟んでいるのは見たことがないのですが、ご飯に合うものは粉ものにも合うかなと……。
よくあるタコス風に身はシンプルに焼くか揚げて、具材やサルサソースでボリュームや味のアクセントをつけるのもいいですよね。
全部食べたい。
私の地域では見かけないのですが、お正月のおせちに棒鱈の煮付けが入っている地域もあるそうで、来年の正月にお召し上がりになる際はぜひ今回のお話を思い出していただけると嬉しいです。




