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第八話 火炎鳥のつくね、できた!


『ぎゃあああああああああ!! 目があああああぁぁ!』

「ツーク、だからあっちに行ってろって言っただろ」


 手始めにタマネギをみじん切りにしていると、側で見ていたツークがゴロゴロと転がり始めた。


「よし、こんなもんかな」


 細かく刻んで、次にニンニクも同様みじん切り。


「魔素も充分だな」


 スキル【鑑定】を使うと、手に持ったニンニクに煙のような、膜のようなものが映る。

 鮮度も【良好】となっているから、ツークの【収納(クローク)】は本当に便利だ。


 タマネギと同様、細かく刻んでいくと目の痛みから復活したツークが再び側にやってきた。


『アニキィ、オリーブオイルは要りますかい?』

「いや、火炎鳥(かえんどり)の脂で充分だと思うよ」

『! なるほど、さすがッス!』


 火炎鳥はよく自分自身が燃えないなと感心するほど脂身がある。

 魔物って不思議だな。


「ショウガも一緒」


 黙々と細かく刻んでいく。

 本来はすりおろしたいところだが、まぁ具材が少ないから食感のアクセントにいいかな。

 うん。決して面倒だからではない。


 辺りには刻んだ野菜の香りが一瞬(ただよ)い、吹き抜ける風と共にそれが食堂に広がって、最後に外へと駆け抜ける。

 ……ここで食べる料理は二度美味しいんだろうなぁ。

 というか広場にいる人への宣伝効果もありそうだ。


「んで、最後に」


 火炎鳥の肉。

 パッと見はふつうに鳥の肉だが、【鑑定】で視るとハッキリと【火炎鳥の肉】とある。

 これのおかげで物の売買でニセモノを掴まされないのは、ほんとありがたい。


「ツーク、包丁もう一本出してくれるか?」

『うっす!』


 俺は二刀流で火炎鳥を細かくミンチ状にしていった。


「おらおらっ」

『キャーアニキィー!』


 ダンダンッと振り下ろす音が響く。

 それと同時に肉は細かくなり、粘り気を伴ってくる。

 ふむ。いい感じになってはきているが、いかんせん手が疲れる。

 この村に肉屋はあるんだろうか。あるといいな。


「ツーク、火見といてくれ」

『あいよぉ!』


 そろそろ薪全体に火が行き渡った頃だろう。

 消えないよう、且つ燃えすぎないように見張ってもらわねば。


「あと、深い木皿はあったか?」

『オレっちにお任せぇ!』


 タネを作るためにボウルを出してもらう。

 それにしても料理中は一段と元気だな。


「全部入れてっと」


 刻んだもの全てをボウルに入れ、塩、胡椒で味付け。

 もっと粘り気がでるまで手でよく練る。


 ……。

 …………。

 よし、いい頃合いになったかな。


「【水よ】」


 下の桶に水が溜まる仕組みの流し台で手を洗う。

 次はウェル草だ。

 流し台で土のついた部分を丹念に洗い流す。


「ん、根の香りが一番強いんだな」


 葉の部分は無臭ながら、茎、根と地面に近付くにつれ爽やかな香りがする。

 花は以前使って無いから、今日は茎の部分を使う。


 根と茎のちょうど境目あたりを切って、根はツークに預ける。

 ハウスでも借りたら庭に植えよう。


『ほんとですねぃ、根っこのがイイ香り~』

「いろんな植物があるよな」


 葉っぱが一番香るやつもあるし、いろんな種類があるな。


 ウェル草の茎は細く先の鋭い葉を思わせる、しっかりと硬い感触だ。

 葉が剣なら、茎が鞘。

 串に見立てて使うのもよく分かる。


「ツーク、小麦粉くれ」

『あいよぉ!』


 焼いて茎に張り付きすぎないよう、タネをくっつける部分に小麦粉をまぶしておく。


 そうしたら、あとはタネを茎に巻き付けるように密着させていく。

 ふんわり感を損なわないよう、しかし落ちないように。

 加減に気を付けながら手で軽く握って茎に巻き付ける。


「こんな感じか?」

『オォ~』


 商人に聞いたような、それっぽい見た目になる。

 一段と硬い茎と根の境目が持ち手となり、たしかに串として機能している。


「あとは焼くだけだな」

『フゥ~~~~!!』

「そうだ。ツーク、パンはまだあったか?」

『まだありやすぜぇ』

「ふむ。なら……」


 パンも一緒に食べるのなら、ついでにソースも作ってしまおう。


「赤ワイン、バター、ブイヨンの入った瓶も出しといてくれ」

『はいッス! ……けど、なにに使うんで?』

「まぁまぁ」


 ツークにも内緒で、ひとまず焼きの行程に入る。


「大きめのフライパンは……無いな。借りよう」

『網目のやつで焼かないので?』

「肉汁が必要なんだ」

『ほ~ん』


 食堂の壁に掛けられた、大きめのフライパンを借りる。

 そこにつくね達を乗せてコンロに乗せれば、徐々に火炎鳥の脂が溶けだした。

 香ばしい匂いと共に、ニンニクやショウガ、タマネギの辛みを感じる香りもほとばしる。

 食欲旺盛なツークにはたまらないはず。


『ウオオォォ!』

「焼き目がつくまでダメだぞ」


 あっちこっちを行き来して、香りに興奮するツーク。

 早く食べたそうだ。


「皿とパンを出しといてくれ。あと、小さな皿も」

『へいっ!』


 余りある元気を効率よく使い、指示を飛ばす。

 いい助手だな。


「うん、うまそうだ」


 焼ける音がどんどんと大きくなっていく。

 ぷにぷにとしていたつくね達が、徐々に硬さを帯び表面がカリッとした食感を連想させる見た目になってきた。


 これ、客席で待つ側ならたまらんな……。

 全員ツークみたいになりそうだ。


「焼けたぞ」

『イエーイ!』


 大きめの皿に、計十本のつくねが並ぶ。

 俺はそれとパンの組み合わせを最大限に生かすために、もう一作業に取り掛かる。


『?』

「肉汁をソースに使うんだ」


 フライパンに残る肉汁。

 油を使わず調理したので、これは火炎鳥の旨みそのものと言っていいだろう。


 そこに赤ワイン、バター、少量の塩胡椒と小麦粉、そして小さな小瓶にストックしておいたブイヨンを混ぜ合わせる。


『おー?』

「一煮立ちで完成だ」


 グツグツといい始めたのを見計らって、コンロからフライパンを除けた。


『なんか、これまたイイ香りですねぃ!』

「ハチミツ入れりゃよかったかな?」


 小皿に赤みを帯びたソースを移して、完成!


「火炎鳥のつくね串、できたぞー」

『ッシャアアアァァ!』

「あ、そうだ」

『?』


 最後の仕上げ。

 せっかく世話になる女将に作ってあげるんだし……。


「【雷のような猛威(ヴィス・サンダー)】」

『お、力がアップする魔法!』

「俺たちが来たことで、宿の掃除とか作業が増えるだろうからな」


 ご主人や他の従業員が見当たらない以上、女将一人に全部の負担がいく。

 ちょっとでも役に立つといいが。



お読みいただきありがとうございます。


明日も複数話更新予定です。

続きが楽しみだなと感じて頂けましたら、ぜひブックマークよろしくお願いいたします。


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