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第七十一話 公国の盾【アビー視点】


「いやはや、緊急を要する依頼は無さそうでなによりであるなぁ!」

「そーですね」


 メナールさんとリシトさんが領主さんの元へ呼び出された翌日。

 昼過ぎにハルガさんと二人でギルドに行ったものの、高ランク冒険者に回されるような依頼はなかったのでひとまず村を散策することに。


「ハルガさんも、メナールさんみたいにここにはよく来てたんです?」

「むぅ。来てはいたが、『情報』と言う意味ではここは少ないのである。主にハイケア、あるいは王都を拠点に、ここへは足を延ばして来ることが多かったであるなぁ」

「へ~」


 情報……か。確かに、冒険者ギルドはあるけど商業ギルドはない。

 ということは人の流れもまちまち。

 外国の者がそう行き来する場所でもない以上、得られる情報は限りがあるのかな。


「……あれ?」

「む?」


 居ないと分かってはいるものの、自然と足がギルドの東側に向いた僕たち。

 食堂の前には何やら臨時休業の看板を眺める二人の姿が。


「──セレさん?」

「おや。アビーにハルガ」

「……そちらは、どなたであろう?」

「よお」


 褐色の肌……南方の人?

 装備的には剣士っぽいけど、露出が多くてびびる。


 腰に手を当てて看板を見ていた女の人は、僕たちに気付くと気さくに話しかけてきた。


「セレの知り合いか? ウチはファディス。よろしく!」

「ほほう、セレ殿の。吾輩はハルガである! よろしく頼む!」

「……アビケイン。アビーでいいです」

「ん? ファディス殿、どこかで……」


 その名前に心当たりがあるのか、ハルガさんは顎に手を当て考え始めた。


 ──まさか、あのファディス殿……?


 ふーん? 有名な人なのかな。


「その顔の傷にデカい盾……、そういうあんたは、『公国の盾』か?」

「公国の盾?」

「へぇ、あの? ハルガがそうなのかい?」

「ほう! 若いのによく知っているであるな!」

「それもそうさ。なんたってウチはあんたの元相方と同じ【烈牙】のスキルだからな」

「!」


 そう言うとファディスさんは腕に力を込めてアピールした。


「『一閃』のファディス。ま、ルルサハンじゃともかく、こっちじゃ名は売れてねぇかもだが。セレんとこの商会と、よく仕事すんだよ」

「へ~」


 ──まさかこんなところで公国の盾に会えるなんてなぁ。ウチのスキルとどっちが強いか勝負してぇぜ


 ……なんだか、一波乱ありそうな……。


「やはり……! うむ、これも何かの縁! よろしく頼むである!」

「ハルガさんは、公国の……元騎士ってこと?」


 左に立つハルガさんを見上げれば、人の良さそうな笑顔で返された。


「うむ! アビー殿はまだ生まれてはおらんであろう二十年前まではなぁ!」

「へー……!」


 二十年前かぁ。僕は生まれてないし、ちょうどメナールさんが生まれた年かな。

 そりゃ聞いたことがないわけだ。

 どうして騎士を辞めて冒険者になったんだろ。


「村に冒険者も少ないし、しばらくはわたしもこっちに居ようと思ってね。そしたらファディスが付いてくるって言うから」

「いいじゃねぇか! どーせあっちに居てもヒマだし」

「兄さんの商船の護衛が主な仕事なんだよ」

「ほほう、セレ殿の兄君」

「んで、ハイケアの土産をリシトに持ってきたんだけど……不在なんだねぇ」

「メナールさんと一緒に、領主さまに呼ばれたみたいですけど」

「領主? ……じゃぁもしかすると兄さんと一緒なのかねぇ」


 ──シグルド兄さん、感性が独特だから迷惑掛けてないといいけど


 セレさんがそう言うなんて、どんな人なんだろ……。


「ところで、ハルガさんよぉ。一個頼まれてくれねぇか?」

「む?」

「げ」


 絶対「勝負する!」とか言い出すんだろうなぁ。


「ウチはずっと気になってたんだ。瞬間的にあらゆる物を断つ【力】と、瞬間的にあらゆる攻撃を防ぐ【力】……その二つがぶつかった時、どっちのが生き残るのかってねぇ」


 にやりとファディスさんが言うと、ハルガさんは感心したように笑う。


「ハッハッハ! なるほど、それは気になるであるなぁ!」

「だろ? っつーワケで、──ウチと勝負してくれねぇか?」

「はぁ。始まった」


 セレさんは額に手を当て呆れたように見守る。


 どうしよう。すっごい楽しそうだから水を差したくないんだけど……。

 正論、言っちゃっていいかな?


「ふむ。確かに、吾輩も気にはなるである」

「公国の剣と勝負したことはねぇのか?」

「スキルを用いて本気で闘うことは無かったであるなぁ」

「へー! じゃぁ、ちょうどイイじゃねぇか」


 うきうきと拳を合わせてテンションを上げるファディスさん。

 あぁ、言っちゃっていいかな……。


「やめなよ。あんたが本気出したら、村の家が吹っ飛ぶじゃないか」

「どっか僻地でやりゃいいだろーよ」

「ふうむ。人との勝負というのが久方ぶりで、腕が鳴るであるな」


 ……ええい、言っちゃえ!


「あ、あのー!」

「ん?」「アビー殿?」

「お互いがお互いの無効化(アンチ)魔法になって、何も起こらないと思いまーす!!」

「「……」」


 な、納得する……かな。


「……言われてみりゃぁ、そうか」

「むう。アビー殿の言う通り、スキルも魔力を使った魔法の一種であるからなぁ」

「で、でしょ~」


 よし、何とか止めれたぞ。


「でもせっかくだし、一勝負してぇよな」

「あんたはただ勝負がしたいだけじゃないか……」

「──! ファディス殿、酒は好きであるか?」

「! あぁ、海の男に負けねぇくらいにはなぁ!」


 ……うわー。更にやな予感。


「うむ! ならばこうしよう! 勝負がしたいというのであれば、平和的に──飲み比べ対決である!!」

「おお!! イイじゃねぇか!」

「……はぁ」

「二人とも飲みたいだけでしょ……」


 なんだかハルガさんと意気投合する人が新たに村にやってきたみたいだ……。



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