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第七十話 難攻不落②


「『わー……!』」


 もう何度目かも分からない俺とツークの感嘆の声。


「ここまでくると、麓とそう高さも変わりませんね」


 ルーエ地方の最北端。

 国境の山も含め、北にいくにつれその頂きはなだらかな下線を描き麓と接地する。

 拠点『翼』よりも標高で言えば低い位置に建つここは、まさに『難攻不落の城』といった感じだ。


「城が──!」


 木々を抜け、忽然と姿を現した城。

 建設の折周囲の木材も使われたためか、城の周りには何もなく。

 元からあった川を利用するよう、そこを堀に見立てその内側に建つ城。


 土を盛ったのか、あるいは元々岩があったのか。

 高い崖のようになった土台に建つそれは何もない周囲と相まって一際目立つ。

 山道から続く石橋が唯一の平坦な道で、その周囲は川と谷によって自然の要塞と化していた。


「あっちと比べると……見た目は意外と、貴族の城っぽい?」

「ルーエ城と、接地する他領。両側から資材が運ばれたようですよ」

「なるほどな」


 『翼』よりも太い塔が幾本か囲む造りで、ルーエ城と同じく城塞のようなイメージに近い。規模は間違いなく『翼』よりも大きい。


「難攻不落っていうのは、自然の要塞ってことかぁ」


 確かに飛翔猿も、この塔より高い木が無ければ滑空なんてできない。

 登るには一苦労な崖に阻まれているため、騎士たちは城門をメインに守ることだろう。


「! マーカス!」


 石橋へと続く道。

 その橋にも見張りが二人いて、気付いた一人の若い兵が駆け寄ってきた。


「道中拾った」

「!? あ、アドルファス様……」

「中、入るぞ」

「どっどうぞ……」


 聞いているようで、有無を言わせない。

 そんな声色でアドルが言うと、俺たちは城の中に案内された。




「た、助かりました……」

「お大事に、マーカスさん」

「リシトさん。村に行った時は、またお礼に伺います」

「そんな、いいのに」


 治療部屋らしい一室に通され、マーカスさんを騎士団の回復術師(ヒーラー)に託した。

 幸い傷も浅いようで、すぐに良くなるらしい。


「他の二人も無事みたいでよかったな」

『ッスねぇ』


 回復術師(ヒーラー)が教えてくれたが、主力の騎士たちは先に城近くで遭遇した二人を助けたあと、マーカスさんの捜索に向かうところだったようだ。


 今は兵の一人にメナールたちが通されたという応接室へ案内してもらっている。

 ルーエ城とまではいかないが、それでも『翼』よりは城らしい内装。

 キョロキョロと見回していると、城内の騎士たちはざわついているようだった。


『あっ、アドルファス様、絶対怒ってるよな……?』

『しかし、あのメナール・アイレと一緒だとは』

『飛翔猿を一撃……やはり強力なスキルなんだな……』


 まぁ、実際に目にしていないと分からないことは多いと思うが。

 少なくとも、アドルが普段から騎士たちに対してああいう態度なのは理解した。


「──こちらです」

「あ、どうも」

『どもッス』

「では」


 応接室前に到着すると、中からはアドルの声が聞こえてきた。


「だーかーらー! それを考えるのがお前らの仕事だろーが!」

「はっ、はい……」

「どうしたんだ?」

「──よぉ、おっさん」


 向かい合うソファには騎士団の者とアドル。

 周りにある椅子やソファに、メナールとシグルドさんが腰かけていた。


「どうしたもこうしたもねぇよ。飛翔猿(トビザル)なんざ久々に見たっつーから、一時的にでも隊を編成しなおせっつってんのによぉ」

「具体的には班数を減らして、五人一組にしてはどうかと提案しているのですが」

「少なくともマーカスさんの隊がルーエ城に戻るまでは、今のままでいくそうで」

「そ、そのっ。本隊の指示を仰ぎませんと……なんとも……」

「ハァ~~~~?」


 アドルは呆れたとでもいうように机に両足を乗せた。


「あいつが一々、そんなことで文句言うかよ」

「いっ、いえ……その」

「まぁまぁアドル」


 確かに領主さまは言いそうにないが……、実際の指示を出す上官というのは別の者だろう。こだわりのある人物なら、現場の勝手な判断に難色を示すこともあるだろうな。


「組織って、大変なんだろうなぁ」

「そうだ! アドルファス様のお名前の元に指示を出せばいいのでは?」

「あ?」

「そっ、それでしたら、私もそのようにできます……!」

「……ハァ?」

「あはは……」


 すごく嫌そうなアドル。


「オレぁ騎士団のことにゃ口出ししたくねぇんだが……」

「口は今も出しているだろう」

「あー……言い方まずった。指示なんてしたくねぇんだが……」


 確かに大きな権限はアドルにないと思う。


 辺境伯の弟、という立場はあくまで貴族としての立場で。

 嫡子以外が武功でその身を立てる際は、平民同様王都の入団試験を経て王国騎士団所属となるか、領主に誓いを捧げて貴族の騎士となるかが一般的だ。


 アドルは恐らく後者で、エリートとも言われる王国騎士団というよりはルーエ領主……ええと、イドリア家? 傘下の騎士。いや、騎士かも分からないが。


 対して目の前の怯えている騎士は、王国騎士団の所属なんだろう。

 うーん。確かに指示系統、難しそうだ。


 国境を守る辺境伯……か。

 大きい力を持つってのは、きっと平民の想像するより気苦労が多いに違いない。


「…………ハァ。わーった。それでいい」

「!? あのアドルファス様が……折れた?」

「あ?」

「い、いえ」

「だりぃことになったら、シドのせいにしとけ」

「え? あ、はい……」

「なんだかんだ、アドルは優しいよな」

「あーあー何とでもいえー」


 ふいっと顔を背けて退室したアドル。


「アドルファス様がご友人に恵まれて、私、ほんとうに感激しております!」

「そ、そうですか?」

「友人……?」


 なぜか感動するシグルドさんに、疑問を抱くメナール。


「そのっ、助かりました」

「ん?」

「上官は、怒ると……」


 なにかを思い出すと顔が真っ青になる騎士。

 彼はここの責任者というわけではないんだろうか?


「四十年、ですか」

「?」

「いえ。平和がもたらすものが何か、よくよく考えねばと思った次第です」

「ふむ……」


 確かに。日々今以上の魔物と戦いに明け暮れた時代と、今。

 移り変わるものは多くあり、現場に権限が無くなったのもその一つだろう。


魔物災厄(スタンピード)……か」


 肉屋で聞いた領主さまの言葉。

 その時が来るのは明日かもしれない、というのは……常々頭に入れておかねばならないことだろうな。





少し長くなりましたが、山地探索編終了です。

次回は水曜日までに1話更新を目指します。



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