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第六十九話 難攻不落①


「じゃ、出発するか」

『っしゃぁ!!』

「はい、行きましょう」


 夜警の人たちの食事風景を見ることはできなかったものの、こっちのメンバーは皆美味しそうに食べてくれたからよかった。


 騎士たちが鉄板の掃除をしてくれるというので、お言葉に甘えて俺たちは早速拠点『翼』を後にした。


「次はいよいよ、『尾』ですね」


 難攻不落の城、かぁ。

 ゴツい造りなんだろうか?


「にしても……」


 相変わらず安全な道である。

 いや、見た目で言えば獣道よりはマシ。そんな道なのだが。

 先を行く剣士二人が優秀すぎて、気付いた時には事が終わっている。

 早速何らかの魔物に遭遇したようだが、確認する前に討伐完了したようだ。

 シグルドさんに言わないということは低ランクの魔物だろう。

 ツークが【収納(クローク)】のために呼ばれてそちらに向かう。


「おや」

「ん?」


 今度は後ろから声があがる。


「あぁ、グリーンラピィですか」

「!?」


 シグルドさんが更に後方を見つめるので同じ方を見ると……、地面から氷が!


「おお……!」

「記録するほどのことでもないでしょう。追い払っておきました」


 槍のように地面から天へと伸びる細長い氷。

 シグルドさんが【マッピング】で残した魔力を使って、適性のある氷魔法でグリーンラピィを驚かせたんだろう。


「すごいな」

「ふふ。ありがとうございます」


 今まで残したすべての地点、同様のことができるのだろうか。

 であれば相当な魔力の持ち主に違いない。


「魔法を発動してしまうと魔力の痕跡が消えるもので、あまり多用はしませんが。それに、さすがに強い魔物相手には通用しません」

「いやいや、それでもすごいですよ」


 初日同様、周りの者のすごさをひしひしと感じつつ、ひたすら次の目的地を目指して歩いた。



 ◆



「あ」


 移動速度上昇の強化(バフ)もあり、危険のないと判断した場所は駆け足で進んでいた。

 その甲斐あってか、昼は過ぎたのだが木々の合間に何やら塔が見えてきた。


「あれが……?」

「はい。ルーエ領最北地点、『尾』と呼ばれる拠点です」

『うおおお……ッ』


 その全容は未だ見えないが、大きい建物に違いない。


「──おっさん!」

「?」

「リシトさん、上を!」

「上?」


 突然、前をいく二人が慌てて声を掛けてくる。

 言われた通りに上を見れば、何やらぽたりと水滴が降ってきた。


「水……?」

「魔法だ! 近くで手に負えねぇ魔物が出たらしい」

「! そうか、見回りの班か」


 メナールの言っていた、斥候の隊が脅威を発見したら主力の部隊に伝達する方法。

 まさにそれだ。


「!」


 もう一度同じ魔法で水しぶきが上がる。

 おおよその場所は掴めた。


「私がいますので、道はいくらでも逸れて構いません」

「行くぞ!」


 部外者が駆け付けたところで騎士たちにいい顔をされるとは限らない。

 主力の部隊からは仕事を奪われたと思われるかもしれない。

 ただ、少なくとも今いるメンバー。全員が、罵られること以上に必要だと思うことは一致していた。

 俺たちは急いでその場所を目指す。




「「!」」


 木々がいくらか薙ぎ倒された場所には、一匹の魔物と一人の騎士がいた。


「大丈夫か!」


 地面に腰を押し付けるよう後ずさっていた騎士。

 素早く駆け寄ると、その顔はさっき調理場で見た顔だった。


「あ、あんた……!」

「おっさん、そいつとシグルドは頼んだぞ!」

「ああ!」

「私は周囲を見ておきます」


 前衛二人が対峙するのは──飛翔猿。通称トビザルと言われるサルに似た魔物だった。

 メナールとほぼ同じ大きさ。腕には木々を滑空するための翼が生え、異様なスピードで迫りくる。

 個々の強さはCランク相当と言えるのだが、その習性……少なくとも三体以上で群れるためにBランクに区分されている。


「い、たた」

「ツーク、ポーションを」

『ッス!』


 手渡されたポーションを騎士の口元へと運ぶと、抵抗なく飲んでくれた。


「すっすまん……」

「気にしないでくれ。それより、他の二人は?」

「それが、一度で数体に襲われてな……。攻撃を避けるうちに散り散りになった」

「そうか……」

「だが、あんたのおかげで、致命傷はっ、避けれたんだ」

「?」


 騎士がそう言うと、脇腹辺りの傷を指した。

 鋭利な爪先で引っかかれた傷のようだ。


「体が素早く動いてくれるとっ、助かる命も、あるってもんだ」

「……! よかった」


 どうやら俺の補助魔法、無意味ではなかったらしい。


「ツーク、万一の時は彼を転移させてくれ」

『オレっちにお任せぇ!』


 騎士の胸元にちょんっと待機すると、キリッとした表情でツークは頷いた。

 ポーションのおかげで出血と呼吸が落ち着いた騎士を胸元に抱え、アドルとメナールの戦いを見守る。


「──おい、お前囮になれ。深く斬り付けるにはこいつら速すぎる」

「貴殿こそ。身体能力には自信があるのだろう」

「そりゃーおっさん飯のおかげでこいつらに後れをとるこたねぇが……。こういうのは、年下がやるもんだろ」

「いいや。実力順だ」

「なら余計にお前だろーが!!」

「今朝は私が二勝したはずだが?」


 仲……、深めたんだよな?


「チッ。しゃーねぇ、──【闇へと誘う扉(シャドウ・ゲート)】」

『キキッ!?』

「闇魔法!」


 アドルが唱えると、飛翔猿の影から無数の手のようなものが飛翔猿の体を掴み始めた。

 身動きの取れない魔物は慌てている。


『ますますルゥ兄さんぽい……』

「だな……」


 ツークと二人で感心していると、メナールがここぞとばかりに攻め込む。


「魔法剣──【氷刃(アイス・スパダ)】!!」


 氷を纏った剣が飛翔猿の体を捉えると、斬り付けた痕には氷の花が咲いていた。

 それが徐々に大きくなっていき全身へと広がりを見せる。膨張しきった花が砕け散ったかと思うと、今度は花びら一枚一枚が刃となって止めを刺した。


「『おお……』」


 すごい。俺に【鑑定】を依頼しなかったってことは、メナールは以前にも倒したことがあるんだろう。

 確かに素早さが売りの魔物なら、相手に氷をもたらす魔法剣の方がいいだろうな。

 万が一致命傷を避けられても、氷の重さで素早さを損なうことは出来るはずだ。


「あれが……【魔法剣】」


 騎士もほうっと見とれるようにメナールの背中を見つめた。


「んだよ。オレの出番ねぇじゃねーか」

「アドルも、さすがだな」

「ハイハイ」


 脅威を排除した二人は、何事もなかったようにこちらに戻ってきた。


「あ、アドルファス様……」

「ハァ。怪我は?」

「そっ、その。ポーションを頂いたので……」

「あっそ」


 妙にそっけないアドル。


「お二人とも、お疲れ様です。ええと──」

「ま、マーカスだ」

「はい。では、マーカスさん。このまま一緒に『尾』へと向かうということでよろしいですか?」

「あ、あぁ」

「他の二人は?」

「拠点が近い場合、そっち側に逃げる。哨戒ルートがそうなってるからな」

「なるほど」


 なら、このまま向かって大丈夫か。


「リシトさん、私が肩を貸しましょうか」

「いや、大丈夫だよ。──【雷のような猛威(ヴィス・サンダー)】」


 さすがに魔物をバッサバッサと切り伏せる二人に、更なる労働を強いるわけにもいかない。ここは俺がマーカスさんに肩を貸した。


「す、すまん」

「お互い様だ」


 俺は簡単に自己紹介をして、マーカスさんに肩を貸しながら拠点『尾』を目指した。


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