第六十八話 拠点での朝食
「ふわぁ……」
昨夜は皆で食事をした後、疲れていたため早々に寝所に案内してもらい体を休めた。
ベッドが六台ある部屋で、家具はテーブルと椅子。それから絨毯のみ。
簡素な造りの木枠のベッドだったが、シーツや布団は清潔。
聞けば、非戦闘員を常駐させることができない代わりに、騎士団の者が交代で掃除や洗濯まで行うそうだ。
道理で山の中とは思えないほど快適な施設。
拠点には簡易的な浴室もあって、魔法で貯めた水を温めた湯が常時置いてあった。
『おっはよーごぜぇやす、アニキ!!』
「おはよ、ツーク」
実は一度、もう少し早めに目を覚ました。
朝焼けが綺麗に見えるかと思い外に出たのだが、日の出は国境の山に阻まれて見えなかったものの、徐々に白んできた夜空が赤みを帯びてきた空はとても綺麗だった。
と同時に日中の気候に合わせた格好には少々寒さを感じたので、もどって再び布団へと潜り込んだ。二度寝である。
窓から見える空は、もうすっかり明るい。
「今日も元気だな」
『そりゃーオレっちですからねぃ!』
謎の自信を見せるツーク。
セレが言うには、クロークテイルってのは人前にあんまり姿を見せないって言ってたけどな……。もっと静かな生態かと。
「朝飯、なんにするか」
ベッドから降りて、テーブルの上にいるツークに声を掛ける。
『そッスねぇ~……うーん』
「まあ、ツークに聞いたら『なんでも好き!』って言うから決まらないか」
『ソンナー』
食材はまだまだあるし、問題ない。
昨日は簡単にスープだったから、しっかり腹持ちがいいものにしたいなぁ。
「朝と昼は、補助魔法も掛けたいし……魔素が充分なやつ……」
あ、そうだ。
メナールには出したことあったけど、カチャパナにしようか。
手軽だし、ボリュームは充分だけどペロリといけるし。
「そういやツーク。他のみんなは?」
『メナールとアドルは一緒に外に出て行ったような……? シグルドの旦那は他の騎士のとこですかねぃ?』
「おー」
いくら使用許可をもらっているとはいえ……あの雰囲気の中、一人で調理場まで行くのは緊張するな。途中でシグルドさんが見付かるといいが。
「い、行くか……」
『ウイッス!!』
俺は初めての場所に緊張しつつも、調理場を目指した。
◆
「あ」
「ん?」
「ど、どうも」
『どうもー! オレっちです!』
部屋を出てシグルドさんに聞いていた通りの道順を進む。
途中入り口付近の広いダイニングも通ったが、誰もいなかった。
朝食時なのに誰もいないのは、騎士たちも忙しいのだろうか?
目的地である調理場に着けば、先客がいた。
「確か、冒険者だったか」
「あ、はい。使わせて頂いても?」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
『ッス!』
俺と同年代っぽい騎士が朝食担当らしい。
大きな鍋でスープを煮込んでいる最中だった。
自分の班の分だけではなく、今ここに駐留している人数分作っているんだろう。
それにしても広い。
いつも料理を作る食堂のキッチン。その十倍……とまではいかないが、広い作業台に石壁に沿った棚にずらりと並んだ鍋類。
コンロは王都のように魔道具ではないものの、食堂のそれよりもかなり大きい。
元は前線、と言っていたから過去には大人数が滞在していたんだろうな。
「君たちは何を作るんだ?」
「カチャパナにしようかと」
「カチャ……?」
料理に興味があるらしい彼は、俺がツークに頼んで色々出しているのを見て話し掛けてきた。
「出身が南部の山村でして。そちらではそう呼ぶんですが、こっちでは別の名称があるかもしれませんね。トウモロコシの粉を水で溶いて焼いた生地の中に、いろんな具材を入れたものです」
「へぇ~。美味しそうだな」
「あなた方は?」
「今日はスープだけだな」
「!」
スープだけか。
野菜は入っているようだし、パンもある。
腹持ちはわるくないのかもしれないが……。
夜警を終えた者たちは、今からが体を休める時間だ。
自らの血肉となる食事、もう少しボリュームがあってもいいよな。
「えっと、それって何人分ですか?」
「? 夜警の奴らと合わせて九人分だな」
鍋の中を見るに丁度その人数分か。
少なくともおかわりは出来なそうだ。
「あの、もしご迷惑でなければですが……泊めて頂いたお礼に、もう一品作らせて頂いても?」
「え!? そ、そりゃぁおれたちは助かるが……」
せっかく居合わせたんだし、これくらいはな。
「苦手な食材がある方はいますか?」
「苦手なもの? ……そういや、他の班の奴らに確認したことなかったな」
「そうですか……。少なくとも、健康上問題がある食材はなさそうですね」
なら、いつもの肉とチーズ。それから余った二段きのこで更に香りをプラスだ!
◆
「『うおおおお……!』」
「ど、どうですかね」
カチャパナ、完成!
ちょっと人数が多かったので、先に生地と具材をまとめて作り、一気に六人前と七人前の二回に分けて広い鉄板の上で焼いた。
今回中の具材は鶏肉を細切りにしたものと二段きのこ。
味付けは前回のスパイシーな感じと違って、シンプルに塩胡椒。香りのアクセントにニンニク少々。
チーズの塩気と、肉と二段きのこの旨味で充分美味しいはずだ!
『ッカー! この香り! たまんねッス!』
肩で鼻をひくひくとさせるツーク。
立ち込めるチーズとニンニクの香りにうっとりしている。
「いやぁ、ササッと作れるのは羨ましい。おれたちはこう、どうしても料理は得意ではないからパンとスープってのに落ち着くんだ……」
「野営だけでなく、パーティのハウスでも作っていたので……」
「へぇ」
「食事は皆さん一緒にとるんですか?」
「班ごとだな」
「そうでしたか。なら、冷めてしまうかもしれませんね……」
「いや。ルーエ城はともかく、外での食事は急いで食べるのが習慣だからな。そう心配は要らないぞ」
「なるほど」
本拠地以外では中々気の抜けない時間を過ごしているんだな。
ルーエ村の者が騎士団を信頼しているのも分かる。
「そうだ。ついでに、補助魔法を掛けても?」
「え?」
「【流星のような瞬き】」
「!?」
目の前に並んだカチャパナに、速度上昇の魔法を掛けておく。
この後自分たちは移動だから少しは意味があるだろうが、彼らには必要ないかもしれない。
俺の適性が回復魔法ならよかったんだがなぁ……。
しかし、夜警明けならば体も重く感じるに違いない。寝床につくまでの間、ちょっとでも足取りが軽やかになればいい。少しでも役に立てばいいが。
「じゃあ、運びますね」
「? あ、あぁ」
調理場と広いダイニングとは壁を隔てているものの、調理を担当する者がダイニングの様子を窺えるようにか横に長い穴が空いている。
「頼んだぞ」
『オレっちにお任せぇ!!』
横に長く空いた小窓に立ち、かかってこい! とでも言いそうに気合い充分なツーク。
ひとまず最初の班、調理担当の騎士を含めた三人分と、俺たち四人分のカチャパナ。
それを俺がツークに手渡すと、ダイニングのテーブルを視界に捉えたツークが転移させる。
「おお!」
「クロークテイルっていう、空間魔法が使える従魔なんですよ」
『フフンッ』
得意げに配膳を終えたツークは、腰に手を当てる。
「すごいなぁ」
「スープも運んでいいですか?」
「あ、あぁ。ただ、君たちの分が……」
「ちょうど昨日の晩がスープだったので、構いませんよ」
申し訳なさそうに言う騎士は、一見すれば非常に友好的だ。
……メナールやアドルに対してもそうであって欲しいんだが。
「「「んめぇ……!!」」」
「よかった」
隣合わせのテーブルに、それぞれの食卓。
先に揃った騎士三人を見守ると、美味しそうに食べてくれた。
「まさか、こっちでこんなウマい飯食えるなんて……」
「しかも、補助魔法も掛けてくれたんだ」
「補助魔法!? 料理に……? スキルですか?」
「いや、後天魔法だ。速度上昇の魔法だからあんまり役には立たないと思うが……」
ツークが先に食べる三人を羨ましそうな目で見つめる。
「──おや。これはこれは、美味しそうですね」
「シグルドさん。おはようございます」
『ッス!』
俺たちの食卓で先に席に着いたのはシグルドさん。
「おはようございます、リシトさん。朝食の用意、ありがとうございます」
「いえ」
「ええと、……彼らの分も?」
「はい。ちょうど居合わせたもので」
「なるほど」
納得の様子でシグルドさんが三人の方を見ると、彼らは黙々とカチャパナとスープを交互に食べていた。
気に入ってくれてよかった。
「──リシトさん。おはようございます」
「はよ」
「! メナール、アドル。おはよう」
入り口の方から歩いてやってきた二人。
一緒に行動するのは珍しい。その手には木剣が握られていた。
「……?」
「朝の運動」
「へぇ」
俺が不思議そうに木剣を見れば、アドルが答えてくれた。
うんうん。二人の仲が良くなるのはいいことだ。
剣を通じて仲を深めていって欲しいところ。
「軽く汗を拭いて、すぐに参ります」
「ああ」
急ぎ足で二人が部屋に戻ると、横に座っていた騎士たちが次々にお礼を言って皿を下げて行った。
「……うーん」
やっぱりメナールとアドルに対しては、まだまだ壁を感じるな。




