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第六十七話 それぞれの夢

予約更新したつもりで出来ていませんでした。

遅くなりましてすみませぬ……m(_ _)m

今週あと2話はどこかで更新したいと思います。




「っ!」

「どうした、メナール?」

「い、いえ。悪寒が……」

『風邪ですかねぃ?』

「大丈夫か?」

「はい」

「まだまだ暖かい季節だが……、確かに山を登ってくると冷えてきたかもな。今日は温かいものでも作るか」

「楽しみにしています」


 アドルに続いて拠点『翼』の中に入ると、中は更にひんやりとしていた。

 やはり宿の貯蔵庫に似ていて、なんだか自分たちが備蓄品になったような気分だ。


「お」


 入ってすぐ、目の前にはいきなり広い空間。

 長めのテーブルがいくつかあり、どうやらダイニングのような場所らしい。

 食事中いきなり招集されてもいいように、入ってすぐにあるんだろうか?


『あ』


 ツークが背伸びして周囲を見回していると声をあげる。


「……ええと」


 いくつかあるテーブルの内、一番離れた場所にて二人の兵が休息をとっていた。


「(し、静かにしないとだな)」

『(ウイッス……)』


 もう一人が食事当番なのだろうか。

 二人は机に突っ伏していた。

 寝ているかもしれないし、石造りの建物だからか妙に声が響く。

 俺とツークは顔を見合わせて頷いた。


 彼らは恐らくさっき出て行った三人組と交代した者たちだろうが、建物内には他にも誰かいるんだろうか?


「おっさん、調理場案内するぞ」

「えーっと……まだ、早くないか?」


 さすがに騎士団の者と一緒に調理場を使うのは気まずい。

 あちらはともかく俺が緊張する。

 それに陽が傾いてきたとはいえ、食事の時間には少々早い気がする。

 俺は小声でアドルに答えた。


「そうか?」

「けっこうすぐ出来るヤツを作るつもりだ」


 肉屋で買ったベーコンに、道中見付けた二段きのこ。

 ニンジン、ジャガイモでシンプルにスープ。

 まだ数に余裕のある固めのパンは、スープに浸せばちょうどいい柔らかさになるだろう。

 今夜の献立はこれだ!

 けっこう歩き疲れたから、簡単で冒険しないレシピに留めておこう。

 いや、ほんと。二人はともかくシグルドさんもピンピンしていてすごいよ。

 俺はもうクタクタだ。


「ふーん?」

「外で調理しますか?」

「それもいいな」


 さすがに寝る時はここを使わせてもらいたいが、さっきのこともある。

 騎士団の者からしたら、俺たちが堂々とここを使うのはいい気分じゃないだろうし。


「じゃあ、私は上の者に軽く挨拶だけしてきますね」


 シグルドさんの目線は上を向いていた。


「見張りの?」

「はい」


 やっぱり物見の塔には別の班の者たちがいるみたいだな。


「アドルファス様も」

「オレ?」

「もちろんですよ」

「……チッ」


 渋々といった様子でシグルドさんに連れていかれるアドル。


「んじゃぁ、外に野営地作りますか」

「はい」


 入って早々、俺とメナールは外に出ることにした。



 ◆



『オレっち周囲を探検してきてもいいですかい?』

「珍しいな、ツーク」

『ヘヘッ。ちょいと木の実が見えやしてねぇ!』

「食べすぎるなよ。あと、迷わないようにな」

『ウイッス!』


 調理に必要な物をあらかた出して、一仕事終えたツーク。

 肩からぴょんと降りると、横に広がる木々の枝の上へと転移した。


「元気ですね」

「俺の肩にずっと乗ってるからな……」


 これが馬車なら無賃乗車である。


「暇だし、下ごしらえだけでもしとくか」

「はい!」


 今日は歩き回ってクタクタだ。とにかく座りたい。

 作業のためにと動かす手も、心なしか遅い。

 草の上に敷いた絨毯の上に座り、俺とメナールはのんびり下ごしらえを始めた。


「これだけ高い位置で開けた場所ですと、星が綺麗に見えますかね」

「確かになぁ」


 空を見上げながらメナールが言う。

 ルーエ村も高い建物がないからか、その夜空は綺麗に見えるのだが。

 更に高い位置から臨む光景は、より存在を近くに感じられるのだろうか?


「よし。のんびり材料、切ってくかぁ」

「はい!」

「じゃ、メナールはジャガイモと二段きのこをよろしく」

「お任せください」


 野菜は事前に洗ってあるので、木のボウルに魔法で水を出して皮むき用のエリアを確保。


「どのくらいに切りましょうか?」

「大きめがいいかな。その方が噛み応えあるし」

「分かりました」

「俺もニンジン切ろう」


 たまに吹き抜ける風がほんのり肌寒い。

 夜はもっと冷えるだろう。

 のんびりと、たまにお喋りをしながら俺とメナールは食材を切っていった。




『ただいまでぃッス!!』

「「…………」」


 モガモガ。

 そんな音がしそうな口元を見て、俺とメナールはツークをじっと見下ろした。


「食べるのはいいが……ご飯前だぞ?」

「ずいぶん、たくさん詰め込みましたね……」


 森へと分け入った時より、とんでもなく頬が膨らんだツーク。

 左右で凸凹具合が違うのがまた可愛らしい。


「食べ過ぎるなって言わなかったか?」

『いいいいいや、そんなには、たっ食べてやせんねぇ……』

「相変わらず嘘が下手だな……」


 動かぬ証拠が目の前にある。

 むしろ【収納(クローク)】に入れずに運んできたのは、正直な性格だと褒めた方がいいんだろうか?


「一気に食べたらダメだからな」

『ウイッス! 食後のデザートです!』

「デザートねぇ」


 まぁ、嬉しそうだしいいか。


「戻りました」

「あ、お帰りです」


 シグルドさんとアドルが戻ってきた。


「簡易的なものですが、ベッドのある部屋を貸して頂けますのでご安心ください」

「よかった~」


 疲れた体にベッドは大いに助かる。


「もう準備してんのか?」

「暇だしなぁ」

「今日は早めに寝るのも手ですね」

「それもありだな」


 早起きしたら、もしかしたら朝焼けが綺麗に見えるかもしれない。


「じゃ、ちょっと早いけど」


 徐々に薄暗くなってきた。

 開けたルーエ村だともっと明るいんだろうが、山中というのは本当に陽の光を遮るものが多い。


 わずかな陽の光を頼りに、俺とメナールはベーコンと野菜のスープを作る。



 ◆



『ッカーーーー!! コレコレェ!!』

「言葉が変な小リスだな……」

「リシトさん、とても美味しいです!」

「いいお味ですね」

「それはよかった」


 辺りはすっかり暗くなった。


 ほっこりと煮えたジャガイモとニンジン。

 上下で噛み応えの違う二段きのこ。

 ベーコンの旨味が溶け出したスープ。


 完璧だ。


 味付けはシンプルに塩胡椒のみ。

 ベーコンの塩気と二段きのこの風味が効いて、余計な手は加えなくても充分に美味しかった。


 移動するのも面倒で、椅子も使わず皆で絨毯の上で座って食べた。

 こういうのもわるくない。


「あ、リシトさん」

「ん?」

「星、もう見えますね」

「ほんとだな」

「おや。なんだか、依頼のこと忘れそうですね」

「いや、それですね」


 道中あまりにも前衛二人が頼もしすぎて、もはや何の依頼に同行しているか分からなくなってきていた。


『あ~~~、風きもちいッス~~』


 徐々に冷えてきた体を、スープで一気に温めた。

 今度は温まった体を夜風が冷やす。

 なんだか季節が一気に廻ったみたいだ。


「デザートは?」

『もう食べやした!!』

「早いな……」


 俺の足の上でドヤ顔をしながら見上げてくるツーク。

 今日のところは何も言うまい。


「──そういえば皆さんは、『夢』ってあるんですか?」

「夢?」


 シグルドさんが思い出したかのように言う。


「アドルファス様は、兄君を支えることだと思うのですが」

「おい。勝手に決めんな」

「リシトさんがルーエ村にお見えになった経緯を伺って、冒険者の方々の夢や目標とはどのようなものかと思いまして。私には中々分からないものですから」


 夢……。夢、かぁ。

 改めてそう言われるとなぁ。


「私は今も昔も変わっていませんね。この剣で出来ることをやるだけです」

「立場は違えど、騎士の方々と同じ誓いを守られているようですね。リシトさんは?」

「夢かぁ……うーん、そうだなぁ。サポートに徹してきたことも影響しているんだろうが……、いや。しかしそれでも若い頃はまだ上昇志向があったな。この年になると体が追い付かないのもあってか、名声や偉業よりも……ただ身近なものを守りたいと思うようになるし」

「身近なもの……」


 そういうガツガツとしていない所が、早くAランクになりたいと思うウェントたちの気に障ったのかもしれない。

 一歩ずつ、確実に。という慎重な策は、若く貪欲な彼らには『臆病』に映ったのかもしれない。


冒険者(仕事)としてはそうはいかないだろうが。個人的な感覚としては、自分の夢というよりも周りを気に掛けてやるのが俺の誇りというか……。夢、と言えるかは分からないが、今はとにかく食堂を通じてルーエ村に冒険者を呼び戻したいな」

「私も出来る限りのことはお手伝いします」

『オレっちもいやすぜぇ!』


 シグルドさんにそう言われて気付く。


 冒険者としての目標で言えば、ランクだったり欲しい装備だったり。

 何らかの指標も多くあってかすぐに思い浮かぶ。


 ただ、一人の人間としての夢は何かと問われれば……。

 ツークやメナール、ハンナさんと共にあのテーブルが思い起こされる。


 メナールもきっとこの先、遠出を伴う依頼を受けたり、拠点を変えたりするのかもしれないが……それでもまた同じテーブルを囲みたい。


 そしてその場所は決して自分だけのものではない。

 まだ見ぬ冒険者たちを迎え入れる場所でもある。


 ルーエ村に来て、やっと自分がどうしたいって思うことが見付かった。

 それはきっと、これまでの経験があったからだ。


「齢四十、これからだなぁ」


 言い訳にするよりも、この歳になって見えるもの。

 それを武器に冒険者をやるのも、一つの道なんだろうな。



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