第六十六話 王都のギルドにて【別視点】
※前話で区切るところを間違えました;
場面転換以降、三人称になります。
「双子……」
領主さまと目の前のアドルの容姿を頭の中で比べてみる。
「やはり魔物災厄の時代を生きた者たちは、そういった伝承には敏感ですから。恐らく過去に何らかの事件があり、そういった話が生まれたのだとは思いますが……残念ながらそこまでの事情は伝わっておりません。ただ、一つしかない当主の座を同時に巡るというのは、確かに争いの火種になりかねません。アドルファス様は兄君の立場を脅かさないようにと、あえて粗暴な態度で──」
「ハァ!? 素だっつーの! ……まぁ。つーワケで、オレは話がはえぇ方が好きだ。他人がどうこう言うのは勝手にすりゃいいが、オレは自分の目で見て、聞いて、そして判断する。オマエも、見えねぇもんに振り回されんじゃねぇよ」
「アドル殿……」
メナールにそう言うと、アドルはさっさと拠点の中へと入っていった。
「アドルにも、いろいろあるんだろうな」
『……ッスねぇ』
きっと事情を知らなければ、領主の弟にしては随分粗野な印象を持つアドル。
彼の背景を知るとそういう性質にも、『話が早い方が好き』だということにも納得感が生まれた。
思えばアドルが初めてメナールに会った時挑もうとしたのは、噂の真偽を確かめようとしたのかもしれない。
スキルがなくても、優れた剣技の持ち主であれば……。
噂は噂とすぐに判断できる。
幸い今回の依頼を共にする中で、アドルの疑問は既に晴れたようだが。
「……俺に足りなかったのは、そういう部分かな」
もちろん世の中には自分の理解を超えた考えを持つ人々も大勢いる。
全ての問題を理屈で説明することはできない。
ただ、ウェント、レーデンス、リリム。
彼らと出会った当初は、ずいぶんと素直な印象を持っていた。
時が経つにつれ変わっていったのには、きっと理由があるんだろう。
「リシトさん」
「ん?」
「今度……、彼と手合わせしてみようかと思うんです」
「! それは、……」
俺にはない感覚だが。
剣士には、剣でしか語り合えないこともあるのかもしれないな。
「危なくないよう、気を付けてくれればいいと思うぞ」
「はい」
『んじゃぁオレっちが審判を務めさせて頂きやす!』
「剣を持つこともできないのにか?」
『タハー』
「ふふ。アドルファス様によい友人が出来て何よりです」
「~っ、おい!! 早くしろ!」
あれこれ話していると先を行くアドルから声が掛かった。
「行くか」
『ウイッス!』
俺たちも後に続き、拠点へと入っていった。
◇◆◇
「──ハァ!? 俺たちが、降格!?」
「し、静かにしてください。せっかく人目を避けたんですから」
王都のギルドにて。
ざわめく場所を避け隅の方で話すのは、槍術師ウェントとギルドの受付を務める女性。
「聞きましたよその槍。掛けで購入したそうですが、返済が滞っているとか」
「……くっ」
金細工の見事な槍。
ウェントの持つそれは、家賃代すらも危うい彼の懐事情にしては随分立派だった。
「冒険者Bランク……。そのギルドカードは、信頼の証です。しかしウェントさん。現在のあなたはそれを体現できているのですか?」
受付嬢は内心はどうあれ、比較的穏やかに話そうと努める。
「つ、次は必ず──」
「そう言ってアビーさんとの依頼が終わった後、また一つ未達成の依頼がありましたよね?」
「……チッ」
そしてウェントも同様、なるべく自身の目標へと近づくために比較的穏やかに話そうと心がけていたのであるが、その心は徐々に瓦解を迎えていた。
「……はぁ。Aランクに憧れるのが悪いわけではありません。彼らが、何らかの突飛な能力でいきなりAランクに上がったと……そう思い違いされているのが、あなたの道を妨げるんです」
「っ」
ウェントは言葉に詰まる。確かにそう思う節はあった。
例えば【魔法剣】のメナール。
彼は剣技に優れるのはもちろんであるが、スキルの恩恵によりあらゆる属性魔法をもって魔物に対処できる。
剣士でありながらソロ、というのは同じ前衛職であるウェントにとって、憧れよりも嫉妬の方が勝っていた。
「つまりあなたに足りないものは実力だけじゃないんです。リシトさんが担っていたことを、少しでも学ぼうという姿勢があれば──」
「御託はいい。それで? どうすれば降格を免れるんだ?」
「…………はぁ」
前向きと評すには些か横暴。
受付嬢は話が通じないのはいつものことだ、とでもいうように溜息をついた。
「どうして、こう……あぁ、もう。リシトさんは、王都を離れてからも確実に成長されているというのに……」
「リシトが?」
ウェントは彼が王都を離れたという事実を聞いて、僅かながらに興味を引かれた。
「ええ。なんでも、ルーエ地方にあるヨミの森にてAランクの獄炎鳥を討伐したとか」
「っ!? Aランク……だと!?」
前回リシトと共に討伐した火炎鳥。獄炎鳥とは、それの上位種だ。
ウェントは火炎鳥と対峙したことを思い起こすと、それ以上の戦いになったはずのそれに疑問を抱いたように問い詰めた。
「あり得ない!! 一人で、……Aランクだと!?」
「もちろん一人ではありませんよ」
「なに? 付与術師と組むような奴が……?」
「はい。ルーエ領より要請を受けて、元々はメナールさんにお願いした依頼だったんです。ちょうどリシトさんがルーエ村にいらして、一緒に討伐されたそうですよ」
「め、メナール!!??」
「だから、声……」
ウェントはたまらず叫んだ。
その名が出たことにも、Aランク冒険者と組むような伝手がリシトにあることにも驚いた。
羨ましさよりも、メナールのおこぼれに与っているような状況に苛立ちをも覚えた。
「はい、ですから」
「──メナール? メナール・アイレのことか?」
受付嬢の言葉を遮ったのは、ずいぶん甘い声だった。
「あ、あなたは──!?」
「……はぁ。まーた話がややこしくなる」
ウェントは声の主を視界に捉えると、歓喜した。
それもそのはず。
真っ赤な薔薇のような長い髪。
ゆるやかにウェーブのかかる腰元まで伸びたそれを一つに結い上げ、顔にかかる垂らした前髪をまるで聖女のヴェールのように振り払う。
左の目元には蠱惑的な黒子。
髪と同じ情熱の色を湛えた眼は、その意志を感じさせる強さを持つも、目尻は垂れ下がり甘い雰囲気をも醸し出した。
黒を基調に、金、赤や白といった色をも持つ服装は、まるで舞台上のヒーローのようだ。
特に目を惹く真っ黒なマントは金色の刺繍が縁に施され、裏地は真っ赤に染まる。
なにより、手元の槍。
すらりとした自身の身長と同じほどの武器。
ウェントのそれによく似通ったものは、まさしく彼がウェントの憧れ。
Aランク冒険者にして王都一の舞台俳優という実態を持つ男。
ウェントにとっての、『英雄』であるからだ。
「ミゼルマイドさん!!!!」
「……」
「おや? あぁ、失礼。
おれが美しすぎて──すまない」
男、ミゼルマイドは素直に謝った。
受付嬢の思考を己の美しさで奪ってしまったことに。
潤う唇からもたらされた言葉には、一片の曇りもなかった。
「…………」
「かっけぇ……!!」
「サリア。先ほど言ったメナールとは、【魔法剣】のことだろう?」
「……えぇ、……まぁ」
「ふっ。あの男、このおれの槍術と美しさに恐れをなして逃げたか」
時折聞こえる黄色い声に手を振り返すと、ミゼルマイドは気を良くして続けた。
「ライバル不在でちょうど張り合いが無くなってきた頃だ。このおれ自ら出向いてやろう」
「いや、ただの依頼で──」
「それはいいですね!」
その恵まれたスキルに妬ましさを抱いているウェントは、同調した。
自分の憧れる者こそ一番だと、証明されるその時を待ちわびているのだ。
「はぁ……。ミゼルさん、またガンプトンさんに怒られても──」
サリアが呆れて言うと、ミゼルマイドはその柔和だった目つきを鋭くさせ、距離を詰めたサリアの顎元をくい、と上げて言った。
「親父の名は、出さないでくれ……サリア」
「…………」
ミゼルマイドは、切なさと懇願するような甘さを感じさせる声で言う。
サリアは身震いをした。
この状況にも、これから始まりそうなカオスな状況にも。
「待っていろ、メナール・アイレ! そして、今こそ! どちらが最も強く、美しい冒険者かを決める時だ!!」
「おお!!」
「もういや……」
ウェント以上に声を張り上げたミゼルマイド。
その決意にギルドに居合わせた半数の者は好意的に声援を送り、半数の者は「またか……」と静かに肩を落としていた。
次回11/6(月)に更新予定です。




