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第六十五話 拠点『翼』

更新遅くなりました(; ・`ω・´)

次は金曜日までに1話up目指します。




「『おー……』」


 初めてルーエ城の前に立った時と同様、俺とツークはポカーンと口を開けて一言だけ発した。


「ここが拠点の一つ、『翼』です」


 山の中だというのに、突如開けた場所に出たと思えば目の前には石造りの城。

 ……いや、城と呼ぶには俺の元々持っていたイメージと乖離(かいり)しすぎている。


 例えるなら、宿の貯蔵庫。

 あれが何十倍か大きくなった。そんな感じだ。

 ルーエ城も『貴族の城』のイメージからは遠かったが、ここはそれすらも忘れるほど。

 平面的な建物で、物見用に二つ高い塔があるだけだ。


「『尾』ほどではありませんが、反対側は渓谷になっておりますので自然の要塞といったところです」


 奥にそびえる国境の山。

 手前には二つの山。その間は深い谷のようになっていて、木々と岩壁だけの風景が広がるらしい。

 今俺たちがいるのは村に近い側の山の頂上付近で、国境の山と比べればまだまだ標高は低い。

 それでもルーエ城よりはよほど高い位置にあるのだが。


「道中は予想ほど魔物も多くなかったですね」

「いや、たぶん君たちが強すぎるだけだぞ……」


 メナールとアドルが余裕で対処していた魔物の中には、Bランクのものも紛れていた。

 ルーエ城にも解体所があるようで、とりあえず彼らが倒した魔物はツークの【収納(クローク)】内に入れてある。

 領主さまに買取してもらう、というよりは報酬の上乗せ……になるだろうか。


「数が多いのはワイルドボア、バーンスパイダー、グレートラピィ……まぁ、その辺で見るやつばっかだな」

「ふつうの人は一瞬で制圧したりしないんだよな……」


 仮にランクが低かったとして、その辺の冒険者は一人で、且つ瞬時に対処できることの方が少ない。メナールはともかく、アドルも剣の腕が相当優れているようだ。

 昼飯に掛かっていた【流星のような瞬き(ラン・ステラ)】が常時発動しているので、魔物が現れても俺は本当にただ二人を後ろから見ているだけだった。なんだか申し訳ない……。


「シグルドさんも記録、ありがとうございます」

「いえいえ。さすがにAランクの魔物はいないようですねぇ」

「ですね。……あ。そういえば……、スキルを使用されている様子は見えなかったですけど……」

「残すだけなら、足が大地に触れていますので」

「! 便利……!」

『ほうほう』


 まるで足跡を残すかのように自分の魔力を残しているのか。すごいな。

 ツークも何やら感心した様子で唸っている。


「──おや」

「『?』」


 重厚な木製の扉は開かれており、ぽっかりと石垣が口を開けたかのようなその無骨な入り口に徐々に近づけば、話し声が聞こえた。


「──引継ぎは以上です。では」

「承知致しました。お気を付けて」


 なんだか業務的な会話だ。


「ちょうど、交代したようですね」

「! 騎士団の者か……」


 会話が終わると、以前ヨミの森で遭遇したように三人一組となった者たちがこちらに向かって歩いてきた。

 あの時メナールが教えてくれたが、彼らは斥候のような隊で、少人数で周辺を複数の班に分かれて探索。脅威を発見したら、スキルなり魔法を空に撃つなりして近くにいる主力部隊に伝えるそうだ。


 ただ、今回は俺たちが広範囲を探索していることは伝わっているはずなので、見回りと拠点の保全を兼ねる隊なんだろう。


「? ──!」

「……」

「……」


 あ、まずい。

 一番前列を行く者が俺とシグルドさんを不思議そうに見たあと、すぐ後ろにいるメナールに気付いてしまった。同時にアドルにも気付く。


 そういえば、ルーエ城で見た兵たちのアドルへの態度……。

 いくら当主ではないとはいえ、領主の弟に対してのものとは思えなかったな。


「その風貌……、メナール・アイレか?」

「……そうだ」


 冒険者の間では『美貌』を持つとされるメナール。

 だが騎士団の者たちからすれば、それは彼を判別するための情報でしかなく、彼らがメナールに抱く思いは冒険者のものとはまた違う。


「ふん。騎士の面汚しが」

「……」


 後ろに続いていた一人がぼそりと言う。

 さすがにシグルドさんやアドルの前では強く出ないようだが、それにしたって冷たい雰囲気だ。


『(あ、アニキィ……)』


 どうにかしてやりたい。

 出来ることなら全ての誤解をといてやりたい。

 だが、メナール自身がそれを深く望んでいない以上、俺が勝手にどうこうは出来ない。

 こういう時、彼らには何と言えばいいんだ……?


「────ハッ、臆病者どもが」

「!? あ、アドルファス様……!」

「気になるなら、自分で挑めばいいだろうがよ」

「アドル殿……」


 さ、さすがは『話が早い方が好き』なアドル。

 これでもかとストレートに物を言うのは、いっそ清々しい。

 そして、シグルドさん。

 なぜかこの状況下でニコニコしている──!?


「オレなんて、いつでもやり合えるぞ? ……っつーワケで、こいつらの前で、やっとくか?」

「こ、断る」

「! やはり、その剣……スキル頼りなのか!」

「うだうだ言ってんじゃねぇよ。ほら、誰か稽古つけてもらえ。仮にもAランク様だぞ? こんな機会滅多にねぇ」

「「「……」」」


 アドルが前に出て、挑発的に言うものの。

 騎士団の三人組は互いの顔を見合わせるばかりで、誰も申し出ようとしない。


「……ハァ、情けねぇ」

「わっ、我々は、任務の途中なのでっ──」

「だよなぁ? だったら、任務中にくだらねぇコト言ってんじゃねぇぞ」

「は、はい……」

「ほら、もう行け」

「っ」


 手で追い払うような仕草を見せながら、アドルは騎士団の者たちを目で追った。


「……」

「メナール……」


 どこか呆然としたようにアドルを見る。

 その表情は『なぜ』と問いかけるようだ。


「……まさか、貴殿に庇われるとは」

「ハァ? 勘違いすんじゃねぇよ」

『ほーんと、素直じゃないお人ですねぃ』

「あほか。勝手に言っとけ」


 照れた様子はない。

 メナールを庇った……というよりは、アドルはそうすることが自然だったとでもいうように特別普段と変わらない様子だ。


「……?」

「さすがアドルファス様、ご自身と似た境遇は見逃せませんよね!」

「ばっ」

「似た境遇?」


 あまりに冷えていた雰囲気の中、一人ニコニコと場に似つかわしくない表情を浮かべていたシグルドさん。

 てっきりユーモアセンスの違いによるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。


「チッ。あー……、アレだ。さっき、この辺の言い伝えがどうのって言ったよな?」

「? あぁ」


 昼飯時の会話を思い起こす。


「おっさんは妙に感心してたが……伝承だなんだってのは、全部が真実によるものだとは限らねぇ」

「それは、まぁ」


 確かにそうだ。伝承だけではない。人の噂だってそうだ。

 多少の脚色が入るばかりか、実際に起きたことを捻じ曲げて伝わるものも中にはあるだろう。

 メナールのように。


「まー……なんだ。魔物にもいるよな? ふつうに人を襲う魔獣もいれば、人と関わろうとする従魔とか」

「? そうだな」

「あの山もそうだ。公国側は緑が少なく、こっちは豊かな森が広がる……。なんつーの? 嘘と真のように、どんなことにも二面性があるっつーか」

「『?』」


 まるで取り留めのない話。

 あのストレートな物言いが代名詞のアドルが、どうも要領を得ない話し方だな。


「リシトさん、メナールさん。こちらの地方……魔物災厄(スタンピード)に巻き込まれる地域というのは、それを充分に分かっています。分かっているから、大昔にはこう考える者たちがいたんです。『物事は二つの側面を持つ。それは同時に存在するものではなく、一つの存在が二つの顔を持つ』と」


「つまりもっと簡単に言やぁ────()()っつーのが、こっちじゃ忌み嫌われてるワケ。とりわけ『嫡子』の、な」


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― 新着の感想 ―
おっとぉ…?そういうことなの?!
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