第六十四話 山地の調査⑤
「元々同じ領地ということもありますが、ハイケアに住む私たちもルーエ地方の言い伝えというのは身近なものです」
片付けをしながらシグルドさんが話してくれる。
治める者が変わって、統治の仕組みや住民が変わったとしても……この雄大な山々を初めとして、土地そのものが変わる訳じゃない。
当たり前のことだが、冒険者として生きることを決めてからはどうしても土地に対する執着というか。興味そのものも散漫で、思い入れと言えば依頼で関わった人と食事くらいだ。
依頼で関わった彼らにも住む場所があり、その地ならではの風習がある。
生きていく上で、俺自身にとっては必ずしも必要ではないその情報は彼らにとっての生活の基盤であることもある。
「……暮らす人と、暮らす地……か」
冒険者が思う『生きる環境』と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、拠点とする街、依頼やランク、パーティをはじめとした人間関係、住居、装備……。
サポートに徹する冒険者として生きてきて、他人のことを知ろうと努めてきたつもりではいたが……。それはあくまで『冒険者』である彼らのことを知ろうとしていたのであって、もし彼らが冒険者でなかったらどうであったかまでは思い至っていない。
それらは深掘りすれば『暮らす土地』にも関わってくることでもあるんだよな、きっと。
俺はルーエ村に来て、冒険者以外の繋がりも増えてきた。
王都に居た頃ほどの忙しさの中にも生きていない。
そうした人たちのことや暮らす土地のことを知るには、ちょうどいい機会なんじゃないか?
食堂のあれこれでまだ手が回っていないけど、やっぱりルーエ村の農業を手伝ったり、村の人に村固有のレシピを教わったりして住んでいる地のことをもっと知りたい。
他人を活かしたいという目的の元ではなく、俺の純粋な興味として知りたい。
『オレっちの暮らす地は、アニキの肩の上ですぜぃ!!』
「えぇ? ツークは俺の肩に住んでるのか?」
『ヘヘッ』
生活魔法で汚れを洗い流した皿を仕舞いながら、ツークは得意げな顔で腰に手を当てる。
「ツーク、こちらも」
『オレっちにお任せぇい!』
メナールに椅子を仕舞うよう促されれば、即座に反応。
……我が従魔ながら働き者だな。
「おい、小リス。鍋の中で踊れ」
『オレっちにおまか──ピャアアアアアアア!!??』
「こらこら、アドル。からかうなよな」
ツークの声が聴こえるらしいアドルは、どうもツークをからかうのを楽しんでいる。
……弟ができたような気分なんだろうか?
兄弟、か。
「──そういえば、シグルドさんは商船? に乗っているみたいですが、セレとは会っているんですか?」
「そうですね。私の帰港と、彼女がハイケアに戻ったタイミングが合う時には」
「へぇ」
「私の上の兄の方が、彼女と会う機会も多いですよ。陸送の責任者なもので」
「セレは三人兄妹なのか」
なんだか最近知り合う者には兄弟がいる場合が多い。
いや、知る機会が多いだけなんだろうが。
……ウェントたちにも、田舎だと言っていた故郷に兄弟がいたんだろうか。
「私の上の兄はシスコ…………妹を、とても可愛がっておりましてね」
「『(シスコン……)』」
兄に可愛がられているセレか。……想像ができないと言ったら失礼だろうか。
「そ、そのお兄さんもシグルドさんも、仲はいいみたいだな」
「はい。常に一緒に居るような関係ではありませんが、関係性は良好かと。私はひと月前に一度セレに会えました。彼女の強さも理解はしていますが……いくら信頼していたって、心配なものは心配ですよ。離れていればなおさらね」
『くぅ~~~、泣けやすぜぃ……』
「そうだよなぁ」
セレもフゥもルゥも強いのは分かる。
分かるが、それでも心配はするものだよな。
自分に近しい間柄ならなおさら。
「だ、そうだぞ魔法剣」
「……」
「メナール……」
話を振られると、途端に目を伏せるメナール。
シグルドさんだけがアドルの意図を分かっていない様子。
メナールと彼のお兄さんの関係性を分かって言っているアドルは、ほんと意地悪というかなんというか……。
「おや、アドルファス様。近くにいらっしゃるからと言って、兄君との交流を疎かにしていい理由にはなりませんよ?」
「だ、そうだが?」
「……チッ」
アドルも何らかの思い当たる節があるのか、ばつが悪そうに顔を背けた。
『──っシャァ! 片付け、完了ですぜぃ!!』
「ありがとな、ツーク」
腕をムキッとさせてツークが片付け終了の報せを出す。
「『翼』はもうすぐですよ」
「おお」
ちょっと立派な山小屋……どんな所だろう。
更新遅くなりましたm(_ _)m汗
帰宅しましたが他サイトの作品と並行しているので、今しばらくは週2更新予定です。
ストックが出来るようになってきましたらまた頻度を上げたいと思います!
次は月曜までに1話更新目指します。




