第六十話 山地の調査①
次回は10/13(金)更新です。
「……」
「……」
「おはようございます、リシトさん」
「お、おはようございます……」
『アワワ……』
ルーエ城までの道中は、相変わらず波乱に満ちていた。
些細なことで張り合いだす二人。
ツークと俺は肩を震わせながら二人の間に挟まっていた。
ルーエ城の正門前にて笑顔で出迎えてくれたシグルドさんが、神々しく見える。
「? どうかされましたか?」
「い、いや。何も……」
「朝からうぜぇ奴がいたんだ。な、おっさん」
「本当にそう思います。ね、リシトさん」
「アハハ……」
やめてくれ。同意を求めるんじゃない。
俺は君たちが納得する答えなんて持ち合わせていないぞ。
「おやおや。出発前から仲良しですね」
「「誰がだ!!」」
『息だけはぴったりッスねぇ……』
正門前で押し問答していると、見張りの兵士が咳払いをした。
「では、そろそろ」
「その前に、スキルと戦術の確認をいいか?」
今回の調査は、昨日聞いたところによるとルーエ城から見て北。
極炎鳥がいた場所を更に北へと抜けたところにある、『翼』という拠点を目指すらしい。
通常より立派に造られた山小屋のようなものらしく、騎士団の者も休息に使うそうだ。
出発前に、昨日確認しきれていないことを今のうちに把握しておかねば。
「はい。私のスキルは【マッピング】です。これは昨日お伝えしましたね。適性は水と氷魔法にありまして、一応スキルと組み合わせて応用もできます。が……お三方ほどの力はありません。後方にてお手伝いするに留めておきます」
水と氷か。ふむ……スキルとの組み合わせ次第では強力な罠なんかができそうだが、セレと同じく後天魔法の扱いはそこまで得意じゃないらしい。
基本的には戦闘は俺たちで何とかする。
万が一参加してもらう時には、止めを刺すというよりも状況に変化をつける役割を担ってもらう方がいいと思う。
「私のスキルは【魔法剣】。無属性以外であれば対処可能だ。初見の魔物であれば、リシトさんの【鑑定】で弱点の属性を確認した後に使うのが望ましいと思う。後天魔法には頼ったことがないので適性も不明だ」
うんうん。メナールについては一度見ているし、やり易い。
「アドルは?」
「……オレは身体強化の加護だ。戦術で言やぁ、剣頼りだな」
「身体強化か」
ツークの声が聞こえて、且つ身体強化をしてくれる加護……か。
聞いたことがない。まぁスキルには本当に色々なものがあるし、珍しい加護なんだろう。冒険者で人と組むことが常ならともかく、辺境伯の弟って立場ならそう言いふらすものでもない……か。
「……あと、後天魔法は闇魔法だけだ」
「闇魔法! すごいなぁ」
回復魔法のように、適性がある者が極端に少ないとされる魔法。
前回魔力欠乏症になっていたのは、闇魔法の使いすぎだったのか。
驚いていると、肩でツークがこそこそと耳打ちした。
『(ますますルゥ兄さんぽいですねぃ)』
「……今夜はリス鍋だな」
『ギャーーーーー!!??』
「こらこら、驚かさないでくれよ」
驚きのあまりツークの全身の毛が逆立つ。
毛流れを整えるように撫でてやれば、眼を細めて気持ちよさそうにうっとり顔になった。
「ポーションや食材、野営道具はツークが持ってくれてるし……」
道案内はシグルドさんに任せている。
万が一はぐれてもいいように、シグルドさんは俺たちに軽く触れて自分の魔力を残してくれた。
「では、行きましょうか」
メンバー同士の情報も共有したところで、早速北に向けて出発した。
◆
ルーエ領を南北に延びる山地。
最も高い尾根を有する山以外にも、いくつかの小高い山が連なる。
ルーエ城周辺はなだらかな丘陵地帯で、森の入り口付近も平面的に広がりをみせる。
だが奥へと進み始めると、徐々に山々へと繋がるかのように傾斜のある地面となる。
歩く際には十分気を付けなければならない。
「あ、白い花」
整備されているとは言い難いが、それでも獣道よりかはずいぶんマシな道を行くと、道中木々の合間に白い花が見えた。
恐らく領主さまの部屋で見たものと同じだろう。
「ミルトスですね」
「へぇ」
低木に咲く白い花。
五つの花弁の間からは、細長いものが沢山伸びている。
『ピャッ。お花というより、ハーブっぽい香りですねぇ』
「確かに」
「葉を揉むともっと香り高くなります。昔は果実や葉を用いて『ミルト』というお酒も造られましたよ。今は代替品が多くあるので造られていないようですが」
「へー、花と葉から」
甘ったるい……それでいて、フレッシュな香り。
存在感もありつつ、爽やかで清涼感のある香りは確かにお酒に使われそうだ。
「大昔には愛と美、豊穣などを司るとされた女神に捧げるための花だと言われたそうで。今でもこの地方では結婚式なんかに使われますよ」
「幸せの象徴? なんだな」
見た目も真っ白で綺麗。おまけにお酒にもなる。
ハルガさん的にも『幸せの花』で間違いはないな。
「……」
「……」
俺が呑気に花に魅入っている間、メナールもアドルも黙々と周囲を警戒してくれていた。
いや、一番年上がはしゃいで申し訳ない。俺は再度気を引き締めた。
「今のところ魔物の気配はありませんね」
「そうですか。適宜メモしておきましょう」
シグルドさんは鞄から地図を取り出すと、何かを書き込む。
懐かしいな。『風神の槍』でのこういう役割は全部俺だったから、それを傍から見るのは不思議な感じだ。
「おっさん、今日の昼飯は?」
「もうご飯の話か? ツーク、仲間ができたな」
『ちょっ、やめてくだせぇ! あの人、オレっちを食材として見てるんですぜぃ!?』
再び背中が跳ねたツーク。
どうやらメナールに慣れたと思ったら、また一人恐怖の対象ができたらしい。
ツークの言う『男の中の男』にアドルは含まれないようだ。
「まずそうだがな」
『ピャーー!? あ、アニキィ!!』
「ちょっ」
恐怖のあまり俺の顔に全身でしがみつくツーク。
ま、前が見えん……!
「『その刃は善にして敬虔なる目的のために振りかざすべし』……か」
「あ?」
「騎士の誓いを知らないのですか。へぇ」
「……おまえ、ほんっっとムカツクよな」
暗にツーク、つまりは弱き者をいじめるなと言いたいメナールのようだが、どこかケンカ腰なのは気のせいだろうか。
「さすが実力者のお二人。感性も近いのですねぇ」
「ど、どこがですか……?」
領主さま曰く、『ユーモアのセンスが壊滅的』だというシグルドさん。
もしかして、冗談でも比喩でもなくて二人が仲良く見えているんだろうか……?




