第五十九話 出発日和
シグルドさんの冗談……もとい、スキルの正体を聞いたところで、当初の緊張感が幾らかマシになってきた。
そしてふと冷静になって、思う。
顔のいい男しかいない空間。
おまけに身分が遥か上の領主、その弟。
大商人一家の便利スキル持ち、男爵家子息のAランク冒険者。
うん、なぜ俺はここにいるんだ?
『(アニキィ……)』
「(みなまで言うな……)」
ツークも何となく俺の思っていることを察したらしい。肩で震えている。
なんだかセレと初めて会った時の感覚に似ている。
王都ですら色んな奴がいたのに、こんな田舎でもすごいと思う人物が沢山。
いやはや、世界は広い。俺はやっとの思いでBランクに到達したというのに、上を見ればキリがない。
……いかんいかん、他人と自分を比べている場合じゃない!
自分にできることをコツコツやればいいんだ、俺は。
「彼には何度か協力を要請していてね。道順も、任せれば問題ない」
「アドル……、あ、いや。アドルファス様? は、地形には明るくないので?」
「いままで通りにしろっての。……オレは別に、こいつの使いっ走りみたいなもんだからな。騎士団と一緒に行動することはない」
「へぇ」
やっぱり貴族の嫡子と、そうじゃない者の差は大きいんだな。
……ただ、アドルは使いっ走りとやらに向いてない気がするが。
「では、決まりかな?」
「承りました」
「よ、よろしくお願いします」
「……ハァ」
「お任せください」
アドルは腕組をして面倒そうに、シグルドさんは相変わらずにこにこと穏やかに返事をした。
「記録はシグルドに任せてくれたまえ。調査結果は中央のガンプトンに送るとするよ。彼についてはメナール殿やリシト殿の方が詳しいかな?」
「王都の、元ギルドマスターですね」
「!」
俺が王都で一番世話になったとも言える、元ギルドマスター。
かつては本人も冒険者として名を馳せていた。
現在は王国騎士団で魔物対策の任に就いていると聞いている。
騎士団でも確固たる地位を築いている領主さまとの接点があっても不思議ではない。
「メナール殿の活躍を兄君の耳に入れることもできて、一石二鳥だね」
「そ、それは……」
領主さまはどこまで分かっているのか読めない、いたずらな笑みで言った。
「──んで、いつからやりゃいい?」
「さっそく明日からお願いできるかな? 『翼』と『尾』にそれぞれ一泊して、折り返すといい」
「おっさん、金はやるから食事の準備は任せたぞ」
「ん? あ、あぁ」
聞きなれない言葉に気を取られていると、アドルに依頼される。
察するに、『翼』と『尾』は拠点の名前……だよな。確かに変な名前だ。
ということは、二泊三日と考えればいいか。
野営セットは常日頃ツークの【収納】に入っているから、あとは食事の用意と、ポーションとかの確認くらいか。
「では、明日の九時にアドルを食堂へ迎えに行かせよう。それまでに各々、準備を頼む」
アドルが使用人に頼んで用意してくれた食費を預かり、もう少し具体的な話を聞くと俺たちは部屋を後にした。
◆
ハンナさんには昨日説明をしていたので、今日から食堂は臨時休業。
念のため店先に看板でお知らせを出しておいた。
……必要ないとは思うがな、一応!
「──おっさん、準備できたか?」
「おはよう、アドル。まぁ討伐依頼と考えれば、普段とそう変わらないからな」
「あっそ」
翌朝。
食堂で荷物を確認し終えると、四つ目の鐘がなる前にアドルは現れた。
言葉や態度は気だるげなんだが、こういうところはきちんとしているんだよな。
『んーーーーーー』
ツークには一度【収納】内の物を確認してもらって、出したり仕舞ったりをお願いした。そのせいで疲れたのかテーブルの上で体をぐいーっと伸ばしている。
「あ、そうだお金──」
「もらっとけ」
「えぇ!? 金貨なんだけど……」
昨日アドルにもらったのは金貨二枚。
四人と一人分の食費、約三日分。充分過ぎる予算だったが、村は元々物価がそう高くないのもあってかなり余ってしまった。
お釣りはいらないとは言われたが、さすがに金貨は……。
「おはようございます、リシトさん」
「! メナール。おはよう」
アドルに続いてメナールが食堂に入ってきた。
先客を見付けると一瞬表情が険しくなる。
「よぉ、魔法剣。ヨユーだな」
「あまり早く来ては、準備をされているリシトさんのご迷惑になるので」
「……あ?」
「なにか?」
「あ、あー!! 今日も晴れてよかったなぁ!!」
なぜなんだ。君たちはなぜ、いつもそうなんだ……!?
『お、皆さんおそろいで』
体をほぐしたツークが肩に乗ってくる。
「? そういえばシグルドさんは?」
「地図を頭に入れておきたいらしい。城に寄ってから行くぞ」
「さすがだなぁ」
シグルドさんのスキルは、自分の魔力を追跡することができるものの、そもそもの自分の居場所は自分で把握するほかない。
大体の地形を頭に入れておいて、魔力の反応に合わせて地図の縮尺を変え自分がどこに居るのかを常に把握するらしい。正直、相当頭がキレる人だと思う。
ルーエ城に魔力を残すと言っていたので、ただ行って帰るだけなら迷うことはないんだろうが……時間配分も考えながら調査していくとなると、そういう配慮も必要だよな。
今回俺は戦闘と食事のことだけを考えてくれと言われたので、その辺のことはシグルドさんに任せる。
「メナールは準備できたか?」
「はい。ポーションもあります」
「じゃ、行くぞ」
全員揃ったところで、俺たちは早速出発した。
次回は10/11(水)のお昼に更新致します。




