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第五十八話 偉大なる山


「『────えーーーーーー!!??』」

「まさか」


 アドルと領主さまが……兄弟!?

 全然似て、


 ……似てな……、


 似て…………る?


「んな驚くことじゃねぇだろ」

「いやいや、ふつうは驚くものだろ」


 しかし、並んだ二人を見比べてみれば。

 艶やかな黒髪。俺より目線が上のすらりとした長身に、適度に鍛えてそうな体つき。

 唯一瞳の色は違うが、片親が違うのかもしれない。


 性格的な意味では真逆な二人だが、容姿で言えば……兄弟と言われてもなんら不思議ではない。

 ツークは余所行きモードに入ろうとしていたことも忘れて、あわあわと口を震わせている。


「……」


 驚きのあまり押し黙ったのかと隣のメナールを見れば、すっごく嫌そうな顔をしていた。

 あれか、立場的に嫌味を言いづらくなったからか……!


「ほら、アドル。客人をいつまでも立たせるわけにはいくまい」

「へーへー。おっさん、魔法剣。こっち座れよ」


 アドルが指し示すのは、高そうな赤い布張りのソファ。

 横長でメナールと一緒に掛けても充分な大きさだ。


「まったく……。使いを頼めば、嬉しそうに飛んで行ったのは誰だったか……」

「う、うるせぇよ」


 アドルは奥のソファに腰かける

 俺たちも倣って手前側のソファに腰かけると、やはりというか目の前にはもう一人の人物。


「──こんにちは」

「あ、これはどうも」


 ……誰なんだ!?


「失礼、紹介が遅れたね。彼はシグルド・アンバー。今回お二方にお願いしたい案件の、協力者だ」

「シグルドです。いつも妹がお世話になっています」


 にこにこと温和そうな人柄。シグルドさんというらしい。

 青い横髪を一つに結っているアドルと同年代風の男性。


「妹……?」

「セレですよ」


 メナールは元々知り合いなのか、驚く様子もなく教えてくれた。


「!? セレの、お兄さん──!」

『姐さんの兄さん……! なんとお呼びすればいいんですかねぃ!?』


 狭い村だからか、何だか一度に知り合いの兄弟に出会ったせいで妙に興奮してしまう。

 俺は一人だったから、兄弟というものにちょっと憧れがあるんだよな。


「ふふ。早速で申し訳ないが、顔合わせも済んだところで本題に入らせてもらうよ」


 端にある、一人掛けにしてはゆったりと作られたソファに深く腰掛け、領主さまが説明する。


「頼みたいというのは、他でもない。メナール殿とリシト殿に先日討伐して頂いた、獄炎鳥にも関連する話だ」

「「!」」


 獄炎鳥……。

 討伐して、ギルドに報告して、焼いて食べた……あの?

 まさか、また新しい個体が出たんだろうか?


「モリクから報告がきてね。なんでも、彼の魔物は住処を追われていたとか」

「……あぁ! そういえば、そうだ」


 一日余分に滞在して周囲を確認したが、その時は大きな脅威もなかった。

 だが、そもそも獄炎鳥の住処というのがどこかも分かっていない状況。

 あとのことは現地に詳しい騎士団に任せようと、メナールが諸々ギルドに報告してくれたんだよな。


「なにか調査結果が?」


 メナールは先ほどの嫌そうな顔など微塵も感じさせない真面目な顔つきで尋ねる。


「獄炎鳥というのは確かに渡り鳥の性質を持つのだが、この近郊に限って言えば生息地は限られていてね。リシト殿は、国境にあたる山の名はご存知かな?」

「ええと……、ルーエ山地?」

「ベレゼン王国内ではそう呼ばれているね。正式名称はルーエ・シルファ山地。ルーエ側は緑豊かな印象を持つと思うが、公国のシルファ側から見ると切り立った崖も多く、荒涼とした印象を受けると思う。……獄炎鳥は、本来そちら側に巣を作ることが多いんだ」

「なるほど」


 確かに獄炎鳥は、岩を巣に見立てて並べていた。

 であれば、緑豊かな森の中というよりはそちら側を好むのは分かる気がする。


「つまり、公国側から何か報告が?」

「いや。何も」

「「?」」


 俺もメナールも真意が分からず、互いの顔を見合わせた。


「私はこう見えて、忙しい身でね」

「自分で言うなよな」

「とりわけ、中央からの打診が絶えない。目下の悩み事と言えば、陛下が我が領に離宮を造りたいと仰せだ」

「へぇ……離宮」


 きっとここよりもっと豪華な内装なんだろう。

 俺は自分で想像できる限りの贅沢な城を思い浮かべた。


「確かに、魔素が豊富な地というのは体を休めるにはいい土地柄だ。しかし、同時に危険があることも理解しなければならない。そのために国の四方には騎士団が駐在しているわけだが──」

「もったいぶってんなよな。要は、俺たちに何をさせたいんだ?」


 アドルが痺れを切らしたように前のめりになると、領主さまはいたずらな笑みで答えた。


「パフォーマンスが必要なのだよ」

「「「パフォーマンス?」」」


 思いもよらない答えに、俺と二人の声が重なる。

 ツークも声には出さないが、頭上には疑問符を浮かべているようだ。


「私は離宮の建設には反対だ。これ以上の人手は割きたくない。そもそも北の方に、湯治で有名な保養地があるからね。しかし、ただ反対するだけでは陛下の私への心象は悪くなるだろう。ひいては領への関心も少なくなりかねない」

「ふむ、なるほど。実地調査をした上で、やはり危険だとお伝えした方が幾分かはマシ……か」

「その通り。現地の者には分かり切ったことだけれどね。体裁を保ちつつ、しかし前向きに検討はしたと思って頂ければ重畳。少なくとも、断る材料の一つにはなる」


 領主さまはやれやれ、と言った様子で息を吐く。


「そして……獄炎鳥が、必ずしも魔物に追われたとは限らない」

「!」

「私や騎士団が大々的に動くことは、なるべく避けたいのだよ」


 荒涼な山岳地帯なら、一般の者は近づかないはず。

 俺もメナールも、あの時は強い魔物が縄張り争いをしたのかとばかり思っていたが……。


「状況から見れば、公国の冒険者が獄炎鳥の討伐に失敗したと見るのが妥当だろうけどね。……しかし、私は領主であり国境を守る者。不穏の種は、どんなに小さなものでも見過ごせないのだよ」


 それまで穏やかな印象を受けた領主さまだったが、真面目な顔つきになると室内に緊張感が走る。


「南方の方は定期演習でちょうど先日見回ったところだ。皆には、北方を見てもらいたい。遭遇した魔物やランクを報告書にまとめて、後日王都に届ける予定だ」

「でしたら、グルートクロコの件も……」

「ああ。承知している」


 この城から見て南方というと、村から見て東南。

 ちょうどバーンスパイダーが居た一帯だろう。


 そういえばメナールたちがグルートクロコを討伐したと言っていたのは、そちら側だった気がする。


「ふむ……」

「もちろん充分な報酬は用意する。引き受けてくれるかい?」

「拒否権なんてねぇくせによ」


 領主さまの事情は何となく分かった。

 ついでに獄炎鳥が発端で魔物の調査……ということなら、まぁメナールや俺に声が掛かるのも分かる。

 分かるが、色々と話を伺った上で、思う。


「あの、何で俺……なんでしょう?」


 今、村には前回と違ってアビーとハルガさんがいる。

 獄炎鳥が相手とも限らないから、ベルメラでも問題はないはず。

 おずおずと手を挙げて発言すれば、なぜか二方向から擁護された。


「獄炎鳥の一件は、リシトさんの功績が大きいではありませんか」

「おっさんの料理じゃね? 一日で見回るのは無理だろうし」


 肩でツークが『うんうん』と首を縦に振っている。


「いや、でも……」

「もちろん二人の言ったこともそうだが、私に一つ提案があってね」

「提案……ですか?」

「この村を訪れる冒険者の数が減っているのは、私も危惧している。アドルに聞いたのだが、リシト殿はグレッグの食堂を引き継いでくれているとか」

「はい、微力ながら」

「もしこの件を引き受けてもらえるのなら、ハイケアに滞在する冒険者に対して、食堂の認知度を上げる手助けができるかもしれない」

「……!」


 それは確かに俺の悩みどころではあった。

 稼ぎは冒険者である以上どうとでもなるが、そもそもの目的はルーエ村を訪れる冒険者の数を元の水準に戻したいからだ。


「その……お力に、なれるのであれば」


 そもそも俺たちに拒否権はあってないようなもの。

 しかし、その上で自分の利益になるものがあるというなら、引き受けないという選択肢はない。

 ……不安は大いにあるけど。


「協力に感謝する」

「で? 具体的にどうしろって? まさか、この人数で騎士団の演習通りにやれってか?」


 アドルは以前、『話が早い方が好きだ』と言っていた。

 確かにその通りだなと妙に納得する。


山間(やまあい)に沿って五つ拠点があるのは知っているね?」

「あぁ。あの変な名前のな」

「北方には二つの拠点がある。そちらを目指しながら、周辺を見回って頂きたい。だが、深い森や山というのは、一瞬で方向の感覚が狂うもの。地図をお渡ししても、土地に慣れた騎士団の者でなければ迷いなく進める保証はない。……そこで、特異なスキルを持つ彼に協力を依頼した」


 俺とメナール、アドルの視線がシグルドさんに注がれる。

 それに気付くと彼は穏やかな笑みで言った。


「私の魔力は、スライムのようなものだと思ってください」

「『??』」


 スライム……? って、あのスライム?

 ぷるぷるとした質感の、よく最弱と言われる魔物。


「…………すまない。彼のユーモアのセンスは壊滅的でね」


 額に手を当て嘆く領主さま。

 今のは冗談……だったのか? 分かりづらい!


「失礼ですね、シドファラヌ様。私は至って真面目ですとも」


 冗談ではないらしい。


「ふーん? 要は、道案内してくれんのか?」

「はい。そのようなものだと思ってください」


 シグルドさんはおもむろにソファの間にあるテーブルを指差す。


「リシトさんは【鑑定】をお持ちなのですよね? どうです、何か見えませんか?」

「え?」


 いきなり俺のスキルについて聞かれる。

 見えるって……何がだ?


 訳も分からず、とりあえずは言われた通りにテーブルの上を【鑑定】で見てみる。

 すると、シグルドさんが指差した一か所。

 点のようにわずかな箇所に、魔力の反応があった。


「……!」

「【マッピング】と言います。空間に自分の魔力を残して、辿ることも可能。あいにく攻撃に優れているわけではありませんが、工夫次第では大変便利なスキルです。我が家の値打ちの物には、大体私の魔力を残しています」


 にこっと穏やかな笑顔が、一気に怖くなる。

 それってつまり──盗難防止ってことだよな!? 何も知らない盗人(ぬすっと)が手を出したら、地の果てまでも追いかけてくる……ってコト!?


「それは、いくつも併用が可能ということですか? ……すごい魔力量ですね」


 メナールが感心した様子で言う。


「ありがとうございます。おかげ様で、当家の商船では航海士を雇う費用も浮いているんです」


 そういえばセレも魔力量はすごいと言っていた。

 この兄にして、あの妹あり、だな。

 性格はそんなに似ていない気もするが。



次回は10/9(月)のお昼に更新です。

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