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第六話 村の状況


「おー」

『思ったより(にぎ)わってやすね』


 ここまでの道が落ち着いていたからかもしれないが。

 村の中心地であろう広場に出ると、想定よりも賑わっているようだった。

 人もまばらながら歩いているし、店先も閉店間際の来客対応で忙しそうだ。


「ギルドは……」


 陽も暮れてきて、早めに行動したい。

 広場を中心として、その外周に公共施設や店が連なる。

 その中からお目当ての施設を探し出した。


『お、アニキィ!』

「あったか?」


 ツークが尻尾で指し示す方を見ると、二階建ての宿だった。

 この村の中でいえば大きい建物だろう。


『あれって一階は食堂的なヤツですよねぃ!?』

「ハハッ、ツーク。もう飯のことしか頭になかったのか?」


 しかし、そうだな。

 夜間開いているギルドもあるが、ここは郊外。

 恐らく依頼の受注や冒険者たちの出入りは少ないとみた方がいいだろう。

 目的地を自分たちで見つけたのだから、話が早い。

 どうせ今晩の宿もまだ見付けていないからな。


「行くか」

『イエーイ!』


 肩で小躍りするツークを軽く撫で、二人で宿へと向かった。



 ◆



「……? あの~」

『し、しずかですねぇ?』


 木造の宿。

 一階に大きな入り口があり、右が受付、左が食堂になっていた。

 たしかに店先には食堂のメニューのような看板は出ていなかったが……。


 それにしたって、静かだ。


 仮に食堂が臨時休業だとして、宿は開いているだろうに。

 受付には誰もいない。


「──! だれだい?」

「あっ」


 床が(きし)んだ音で、俺たちの存在に気付いたらしい。

 奥の廊下から、宿の女将だろうか? 女性がこちらに向かってきた。

 ツークは相変わらず余所行(よそい)きモードで(しと)やかになる。


「驚かせてすまない。俺はリシト、冒険者だ。今晩宿をとりたいんだが……」


 あえて食堂のことは聞かずにいたが、それでも目的を告げれば(かんば)しくない反応だった。


「……冒険者かい?」

「? え、えぇ」


 なんだ?

 郊外の主要な客と言えば、冒険者で間違いないはずだが……。

 妙に疑われているような。


「実は、今日王都から着いたところで」

「! あぁ! そうだったのかい、気付かずにわるかったね」

「い、いえ。その、なにか問題が……?」


 冒険者であることが問題なのか。

 それとも、宿を欲することが問題なのか。

 村の様子を見た感じだと、それほど深刻な問題はなさそうだったが。


「だったら知らなくて当然さね。部屋はもちろん用意できるよ。ただ……」

「ただ?」

「……実は、近くに騎士団の砦があるんだけどね。そこの料理人が病気で倒れちまって、王都に帰ったんだ。先週、急遽(きゅうきょ)うちの旦那がそっちで雇われたんだよ」


 あとに続いた言葉を聞けば、さすがの俺も予想がついた。


「なるほど、宿はともかく料理人がいないのか」

「そうさ。あたしも給仕ならともかく、宿の作業もしながら朝から晩まで食堂を切り盛りするなんて無理だからね。今この村に依頼で来る冒険者は、ハイケアを拠点にしているか、村にハウスを借りている高ランク冒険者くらいさ」


 確かにそういう状況であれば、馬車で一時間の距離にあるハイケアに留まる者が大半だろうな。

 寝床があっても、食事の提供がない宿を冒険者が利用するのは(まれ)だろう。


 宿の主人が治安維持や国境の警備も行う騎士団の仕事を優先するのは仕方ない。

 王命にも等しいだろうからな。


「そんなわけで、リシトに驚いたってわけさ。今週は誰も来なかったからね。……あ、あたしはハンナだよ。気軽に呼んどくれ」

「あぁ、よろしく」


 ひとまず不信感は払拭(ふっしょく)できたらしい。

 ツークも肩でふぅっと息を吐いて安心していた。


「ハンナさん、もしよければ……キッチンを借りれないか?」

「うん? ……あぁ! 自分で料理できるのかい?」

「これでも冒険者歴は長いんだ。簡単なものしか作れないがな」

「へぇ、冒険者が作る料理か。あたしもちょっと気になるねぇ」

「もし夕飯がまだなら、ハンナさんの分も作るよ」

「! いいのかい?」


 驚かせたお詫びというわけでもないが、そう申し出ると前のめりで喜んでくれる。

 大したものは作れないだろうが、……ちょっとうれしい。


「材料はもうあるから、とりあえず……。宿の手続き、いいだろうか?」

「もちろんさ!」


 受付のカウンター内に移動すると、ハンナさんはどこか元気になった気がした。


「食事なしだと一泊銅貨三枚。朝食付きだと四枚だよ」

「ずいぶん良心的だな?」

「そうかい?」


 王都の物価が高いだけだろうか。

 それとも以前は繁盛していて、価格も抑えられたのだろか。

 もしくは村で獲れる食材を使うことで経費を抑えられるのか。


「じゃぁ、とりあえず食事なしで一週間いいか?」

「あいよ!」


 ええと、一泊銅貨三枚が七日間で……二十一枚。

 銅貨十枚で銀貨一枚の価値だから、銀貨二枚に銅貨一枚か。


 うん。王都に住んでいた時よりは出費が抑えられそうだ。


「はい、ありがとさん! これが鍵だよ」


 俺はひと通りハンナさんから宿の説明を受け、部屋に案内してもらった。


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