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第五十三話 ガルム焼き!②

大変お待たせ致しましたm(_ _)m

もう一話投稿しています。


「──リシトさん」

「お、いらっしゃい」

「お邪魔します」

「失礼するである!!」

『お揃いですねぃ』


 広場から六つ目の鐘が聞こえたとほぼ同時。

 恐らくギルドから直行したであろう、テラス側から入ってきたのはいつもの三人。

 そういえば昨日からベルメラとセレを見掛けないな?


魚醤(ガルム)、使わせてもらったぞ」

「ほー、楽しみであるなぁ!」

「同感」

「リシトさん、ぜひお手伝いさせてください」

「あぁ、そう言うと思ってたよ」


 いたずらに笑えばメナールは目を見開いて驚いた。


「完全にメナールさんの思考、読まれてますね」


 いつものテーブルに腰かけながら、アビーは言った。


「……っ、そ、そんなに分かりやすいのだろうか……」

「うむうむ。若者はそうでなくてはなぁ!」


 どこか恥ずかしそうなメナールにハルガさんは持論を展開する。


「下ごしらえは終わってるから、あとは焼くだけなんだけどな」

「そうでしたか」

『配膳はオレっちにお任せぇ!』

「ハハ、俺の出番はなさそうだ」


 あとは……そうだな、横に添える野菜を切るくらいか?


「ちょっと待っててくれ」

「はい」


 席の側に剣や籠手を外して置いて、準備をするメナール。

 氷室はここからだと視界を遮られているのでツークに頼むと二度手間になる。

 俺は頭にツークを乗せて、先ほど肉と調味料を漬け込んでおいたボウルを取りに向かった。


『おー』

「一時間でもイイ感じだな」


 涼しい室内に設けられた棚。そこに置かれたボウルを覗き見れば、若干色が変化した鶏肉の姿。薄いピンク色をしていたが、やや黒っぽさを帯びている。


『はやく食べたいッス!』

「はいはい」


 目を輝かせるツークは、待ちきれないとばかりに足踏みをした。

 か、髪が……。


「添えるのはトマトと葉物野菜でいいかなぁ」

『♪』


 ぶつぶつと声に出しながらキッチンへと戻る。


「ベルメラ嬢に頼まねばならないか……」


 戻るとメナールも何やらぶつぶつと声に出して考え込んでいた。


「『?』」

「! あ、いえ」


 俺が戻ったことに気付くと、ハッとしていつものメナールに戻る。


「そ、それで、どのように調理しましょう」

「あぁ。これなんだけど──」


 調理台の上にボウルを置く。覗き込んだメナールは不思議そうに言った。


「肉を、漬け込んでいるんですね?」

「あぁ。味が染みてうまいと思うぞ」


 カウンター席に移動した二人も気になっているようで、ボウルを持ち上げて二人に見せる。


「へぇ」

「ほー」


 初めて見る、とでも言いたげに二人は唸った。


「メナールにはこれを焼いてもらうわけだが」

「はいっ」

「注意点は一点。この手のソースを掛けて焼くと焦げやすいんだが、どうしたらいいと思う?」

「焦げやすい、ですか」


 うーん、と数秒考えるとメナールは答えた。


「よ、余熱で調理する……でしょうか?」

「お、いい線だな」


 俺は壁に掛けられたフライパンの蓋を取ると、メナールに渡す。


「短時間で火が通りやすいものや、完全に火を通さなくてもいいものならいいんだがな。今日は中までしっかり火を通したいから、表面を焼いたあとは蓋をして蒸し焼き……かな」

「ふむふむ」


 まるで脳内にメモを取るかのように真剣な表情で頷く。


「焼くときには両面にソースをかけて、先に皮目をパリッとさせる。反対側も表面を軽く焼いて、肉汁を閉じ込めたあとに蓋をしよう」

「はい!」

「肉は任せたぞ」


 ツークにソースが入った方のボウルも出してもらい、メナールに託す。

 俺は添える用の野菜を切るために準備をした。



 ◆



「──ど、どうでしょう?」

「お、イイ感じだ」

『オー、やりますねぇ!』


 追いソースを掛け、更に黒っぽさの増した肉。

 フライパンの中を俺に見せるメナールは、いつもより自信があるように見える。

 手応えを感じているようだ。


「蓋を開けて少し水分を飛ばしたのか?」


 肉の周りには、まるでカラメルのようにとろっと様変わりしたソースが残っていた。

 水気を飛ばしたものと思われる。


「はいっ。先ほど焦げやすいとおっしゃっていたので……。ソースが焼き目として表面に残る方が、噛んだ時に味がしっかりして良いかと思いまして……」

「奇遇だな、俺もそう思っていた」


 笑顔でそう言えば、メナールの顔がパァッと明るくなった。


「メナールさん、嬉しそう」

「師に褒められるほど嬉しいことはないである!」

「いやいや、師なんて柄じゃないって」


 しかしさすがはメナール。

 俺の言ったことをそのまま実行するだけではなく、プラスで自分がこうした方がいいと思ったことまで臆せず実行できるとは。


「じゃ、ツーク。お皿頼むぞ」

『ういッス!』


 尻尾をピーンと伸ばし、真っ白い皿を四枚出してもらう。

 メナールが恐る恐る木べらを使って肉を盛り、俺がその周りに野菜を添える。


「よし、完成!」

『イエーイ!』

「ふぅ」

「おー」

「いざ、実食である!!」


 ウェイターのツークがお皿をテーブルへと運ぶと、俺たちもいつもの席へと移動した。




「じゃ」

「いただきます」

「感謝である!」

「……」

『いやっふうぅ!』


 思い思いの言葉を乗せ、祈りを捧げるとさっそく食べ始める。


「しかし、まぁ」


 綺麗な色だ。

 まるで砂糖を煮詰めたかのようにうっすらと黒く色づく肉。

 飴色というのだろうか。普通に焼くよりも艶やかで、しっかりと味が付いているだろうと予想できる色。


「──んまっ」

『!? ンママママ』


 両サイドのツークとアビーは同時に声をあげた。


「……よしっ」

「うーむ。メナール殿、日々成長であるなぁ!」


 目の前の二人を見れば、その確信した成功を噛みしめている。


 俺もナイフで一口サイズに切って、口へと運んだ。


「……ん!」


 う、うまい!!

 漬け込んだ肉を蒸し焼きにしたからか、中はしっとり。

 しかし表面は香ばしく、カリッとした部分もあり噛む瞬間に二つの食感が伝わった。


 メナールの狙い通り表面には濃い目にソースが残り、最初から最後まで味を堪能できる。

 甘じょっぱいハチミツと魚醤(ガルム)のソースに、主張するのはやはりニンニクの香り。

 ワインとセージが功を奏したのか香りによる不快感というものは全くなく、しょっぱさの後にやや喉奥に残る魚由来の存在を感じるだけだ。


「美味しいな、ツーク」

『ッス!!』

「よかった……」

「その内メナールさんがここで働きだしそうで怖い」

「ワッハッハ! それも一興ではないか」

「いやいや、それは冒険者ギルドの大損失だって」


 俺は妙に現実味のある話題をそっと訂正しておく。


「あ、パンもあるから食べたい人は言ってくれ」

「はーい。僕はお肉だけで足りそうですけど」

「ほう。吾輩は頂こうか」


 ツークに頼んでパンを出してもらう。

 そしてふと気づいた。


「……あ、補助魔法をすっかり忘れていた」

『ピャッ』


 初めて使う調味料に浮かれ過ぎたらしい。

 食堂の本来の意義をすっかり失念していた。


「あ、そういえば」

「吾輩もすっかり忘れていたである」

「私も何ら疑問もなく……」

「す、すまない。肉を待ちわび過ぎて、忘れていた。一応後で皆に直接掛けるが、料理に付与されたものほど効果時間は長くないと思う。過信しないでくれ」


 最近この手の物忘れが多い気がする。

 冒険者として現場にいる時は忘れたことはないんだがな……。どうも食堂という場だと、戦闘以外に気にかかることがありすぎて。


 しかし三人に関してはその失態があったとしても何とかなる実力者揃いだ。

 そういう側面に甘えて気が抜けているのかもしれない。


 ひとまず料理を平らげてから考えよう。

 そう思い肉にナイフを通すと、テラス席から声が聞こえた。


「──おっさん、邪魔するぞ」



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