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第四十九話 その頃交易都市では① 【セレ視点】


「──じゃ、頼んだよ」

「はい、承ります」


 ルーエ村とは違う、ずいぶん賑やかなギルドを後にした。


「やはりフリーの回復術師(ヒーラー)の方は、なかなかいらっしゃいませんわね」

「仕方ないさ。こっちに拠点替えしたんなら固定も組むだろうし。人気職かつ数も多くない。ギルドが配慮してくれるだけでもありがたいさね」

「そうですわね……」


 今日はルーエ村に往診してくれる回復術師(ヒーラー)がいないか、ギルドに相談しに来たところ。

 教会の人員は街ごとの人口に比例して手配しているだろうし、頼れるのは冒険者だ。

 固定を組んでいるとなると、パーティごと呼び込まないといけなくなる。

 それよりはフリーの者がいれば依頼しやすいが……。

 なかなか、難しいねぇ。


「お付き合い、ありがとうございますお姉さま」

「ま。わたしらが出来ることは限られるし、アビーが居てくれるだけまだマシさ。いい時間だし、昼ご飯でも食べるかい?」

「えぇ、そうしましょう」


 ふぅ、と息を吐くベルメラはどこか疲れている様子だ。

 無理もない。

 領主と取引をして情報提供の依頼をしているディアバートン子爵領の状況。

 モリクを通してもたらされるそれは、日を追うごとに良くないらしい。


「アンバー商会の皆様にも、ご迷惑おかけ致しますわ」

「べつに大したことないさ。うちだって商売だ。多少の儲けがなきゃやらないよ」

「ふふ。お優しいですわね」

「はいはい」


 幾らか笑顔を取り戻したベルメラ。

 そうそう、ずっと笑っていればいいんだよ。この子は。


「港近くで食べようか」

「はい」


 ギルド前で軽く話した後、石畳の道をゆっくりと歩く。


 ベレゼン王国に限った話じゃないが、どこの街にも中心となる大きな広場があり、主要な施設は利便性からかそこへ集められている。


 冒険者ギルド近くには食堂も備えた宿、騎士団の窓口、裁判所、教会。様々だ。

 ハイケアのように港町の商業ギルドは港付近にあることも多いが。


「ずいぶん、活気がありますわね」


 ルーエ村の広場の、数倍。いや、十倍とも言える広さ。

 そこにはもちろん人々も集まり、冒険者や家族連れ。あるいは商人、旅人。

 様々な者が行き交っている。


「港町ってのは、きっとどこもこうさ。王国の生命線とも言えるだろうし」

「そこで成功なさっているアンバー商会は、さすがですわ」

「そりゃどうも」


 両親に兄たち、それぞれが役割を持って商会に力を尽くしている。

 もちろん自分たちの生活のためでもあり、領のためでもあり、ひいては国のためにもなる。

 魔物災厄(スタンピード)に対抗するため、これまで国中の人々は困難に立ち向かうために結束してきた。


 ……けど、四十年。


 こうも平和が続くと、そりゃぁ色んな思惑も育つ。

 特に外交ってものが大事になってくる。

 魔素が豊富な土地は、食物も丈夫に育つ。

 魔物災厄の原因とも言われる濃密な魔素は、同時に人々に恵みももたらすんだ。

 四方の国々との均衡というのは、今や交易で成り立っていると言っても過言ではない。

 でなけりゃ、肥沃な土地を狙われるだけ。


「騎士団の方も、多いですわね」

「それだけ重要な場所ってことさ」


 王国の南東部にあるこの街を含め、いくつかの南方都市を治める大領主。王弟メルメナイ公は騎士団の南方将軍。

 彼の意志を汲んだ領主代行の貴族たちが領内を廻って実質治めている。

 元はルーエ領もメルメナイ領だったけど、魔素の豊富な土地を分割して守ることとなった。

 土地だけでいえば、ハイケアよりもルーエ地方の方が重要な場所。

 ……そこの防衛費を削るってんだ。

 昨今の騎士団や貴族たちってのは、どうも平和ボケしてるとしか思えないねぇ。

 それとも常に備えとくって考えは商人の性なんだろうか。


「? なんでしょう」

「……いや、例外も居たなって」


 まぁ、全員がそうではないんだろうけどね。




 数日振りに見る高い建物。

 両脇を固めるそれらの一階は、テラス席を有したレストラン。あるいは工芸品を扱う店、酒類、食料品を扱う店。

 さまざまな店が立ち並び、港と街の中心を区切る高い壁まで続いていた。

 壁を貫くアーチ状の門の上には大きな仕掛け時計。

 港で働く者も、街中から港へと休息に向かう者もこれを指標にするに違いない。


 村とは違うざわめきの中、港へ続く道を歩いていくと次第に海鳥の声が聞こえてきた。

 吸い込む香りは雄大な自然を思わせ、どこか家に帰ってきたと感じる。


「──久しぶりの海ですわ!」

「そこ、はしゃぎすぎなーい」

「はっ、はしゃいでは、おりませんもの……!」

「はいはい」


 見るからに様子の変わったベルメラは、一つ咳ばらいをしてキョロキョロと周りを見回した。

 壁沿いには同じく建物や出店が立ち並び、目の前には海と隔てるかのような鉄製の手すり。

 右斜め前を向くと下る階段があり船が停泊する桟橋まで続く。

 賑やかなのは今いる場所の通りだが、ベルメラはゆったりとした波音に惹かれるように階段を降りようとしていた。


「落ちるんじゃないよ」

「子供じゃありませんもの!」

「どーだか」


 ベルメラのやる気というのはどうも空回る。

 それは本人のせいじゃないにしろ、何が起きるかは分からない。しっかり見張っておかないと。


「お姉さまもー!」

「はいはい」


 ご飯じゃなかったのか、と思うのもやめにして大人しく着いて行く。

 船が見たいんだろうか?

 まぁ楽しそうだしいいか。


「まぁ」

「あ、兄さんの船だ」


 沖に向かうにつれ石畳の道は木製の桟橋となる。

 いくつか伸びるそれらの手前を、船の観察がてら散歩する。

 ときおり強く吹く風に注意をしながら歩を進めた。


「相変わらず、大きいですわねぇ」

「なんだ、帰ってきてたのかい。商館(ホール)に寄ればよかったよ」


 そのうちの一隻。

 明らかに他の船よりも大きなその船の帆には、アンバー商会の印。

 同じような印の入った木箱を、船員がせっせと積み込んでいる。


「また出発されるんでしょうか?」

「じゃないかい? ま、見た感じ帝国行きかね」


 パキア海の先。

 南方大陸の大国を思い起こす。


「そういや……」


 前回商船が帰ってきた時は、馴染みの冒険者が護衛の中に入っていた。

 帝国出身の彼女は、褐色の肌をしていて大の酒好き。

 大剣を駆使する姿と同じく快活な性格で、よく言えば豪快。悪く言えば……がさつ。

 気のいい奴だけど、どこか距離感がおかしい女性。

 誰に対しても壁は作らないが、逆にそれが怪しいというか……馴れ馴れしいと思われても仕方ない。


 うん。貴族の令嬢として育ったベルメラとは合いそうにないな。


 万が一鉢合わせないためにも離れよう。


「あら」


 ベルメラに話しかけようとしたら、何かを見つけたようだ。


「げ」


 遠目に映る人影に嫌な予感がした。


 褐色の肌。

 漆黒の中、左の二房のみオレンジ色に染まる髪。

 しなやかに鍛え上げられた腕は、肩当と籠手以外を大胆に晒す。

 おまけに……、胸。

 豊満なその形に合うよう依頼した銀の胸当ては、腹部を覆うこと等まるで想定していない。

 膝上までを覆うプレートのグリーヴは、いつ見てもピカピカに磨き上げられている。

 

「──ん? よぉ! セレ!」

「……ファディス、タイミングが悪すぎるね」


 抱えようとした木箱を卸し、満面の笑みでこちらに手を振ってきた。


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wktk(笑)
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