第五話 いざ、ルーエ村
「助かったよ、ありがとう」
「いえいえ。新生活、がんばって」
大荷物を持たずに済むのは、ツーク様様だった。
俺はこの世で最も身軽に動ける者の一人だろうな。
『ウオオオォォ! ここがルーエ村!!』
すんすんと鼻を動かして、新しい土地の空気を堪能するツーク。
あの後俺たちは、すぐに王都を出発。
まずはハイケア行きの馬車を探した。
商業ギルドを通じて、行商の馬車に交渉して乗せてもらった。
運賃は銀貨一枚。まぁまぁといったところ。
交易都市ハイケアに着くと、すぐに辻馬車を見付けたので銅貨三枚で乗せてもらった。
こっちは人が集まるまで二時間ほど待ったが、まぁ夜になる前には着いたからよかった。
その際に軽くハイケアの市場を見たが、やはり新鮮な魚が並んでいて胸が高鳴った。
「いいところだな」
ルーエ村の入り口。
ツーク同様に深呼吸をすれば、期待と不安が詰まった胸に新鮮な空気が送り込まれる。
すこし落ち着いた。
恐らく村の中心地まで伸びているであろう道の入り口には、夕日に照らされた『ルーエ村』と書かれた看板が立っていた。
王都より荒い、ややごつごつとした道が続く。
建物は低いものが多く、中心地でないからか道沿いにまばらにある程度だった。
左手を臨めば夕日に照らされ輝く畑。平原が広がる。
右手を見れば川があるようで、遠くに橋が見えた。
その手前にはところどころに民家が点在していて、牧場だろうか。柵も見える。
そして、村のずーっと奥。
遥か彼方に見える山は国境で。
その麓には山に連なるよう、なだらかな勾配と共に広大な森が広がっていた。
「あそこがヨミの森? 思っていたよりも近いが、……平和だな」
作物が荒らされた様子もなければ、高い防壁もない。
ある意味最前線とも言える村のはずだが……。
『森の手前に騎士団の砦でもあるんでしょうねぇ』
「なるほどな」
国境に近いなら冒険者以外の護り手も当然いるか。
「とりあえず、ギルドだな」
宿も飯も、あるいは住居も。
とにもかくにも、ギルドには人も集えば情報も集う。
『オレっちもう、おなかペコペコでさぁ!』
「ツークは馬車でパン食べただろ」
『へへッ』
俺とツークは初めての土地で、ギルドを目指した。
◆
「あ、あの~」
「はい?」
村の中心へと向かうであろう道を行く。
道中庭の花に水を遣るご婦人が見えたので、道を尋ねる。
「冒険者ギルドへの道は、この道で合ってますか?」
尋ねると、目をぱちくりとさせて俺の頭からつま先までを見るご婦人。
な、なんだ……?
「あらあら、冒険者でしたか。ごめんなさいね、見ない顔の割にはずいぶん身軽だなと思ってしまって」
なるほど。
たしかに村を出入りする人物の割には荷物が少ない。
かといって定住している顔見知りでもない。
人口が少ない場所なら、警戒もされるか。
「驚かせてすまない。こいつは相棒のツーク。クロークテイルという、空間魔法が使える従魔なんです」
『フフンッ』
肩でドヤ顔を披露するツーク。
「まぁ! 収納持ちなのねぇ。うらやましいわぁ」
「アハハ……。あの、それで」
「あらやだ、わたしったら。そうそう、この道をまっすぐ行くと、広場に出るから。
この村の大部分の公共施設はそこにあるわよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ」
道が合っていることを確認すると、気分も晴れやかに歩が進む。
再開してギルドへ向かえば、進むにつれて家々も密集していった。
「きっと、もうすぐだな」
『イエーイ!』
ツークは俺以上に周囲をキョロキョロと見回す。
楽しそうで何よりだ。