第四十四話 初めての肉
「お、アビー」
「……ども」
『ういッス!』
そろそろ仕込みでもするかと思っていたところに、アビーがやってきた。
「今日も依頼か?」
「いえ。今日は、武具のメンテでハイケアに行くみたいです」
「おー、さすが」
刃こぼれしそうにない俺の剣とは全然違うな……。
というかすっかり三人はパーティとして馴染んできているな。
「アビーは行かないのか?」
「一応ついて行きますが、僕はそれほど準備もないので……」
「そうか」
「こちらは、静かで落ち着くので読書が捗ります」
「アハハ……」
確かに、開店休業状態だとなぁ。
「! すっ、すみません! へ、変な意味では……」
「大丈夫、分かってるさ」
まぁ読書をしやすいのも本当だろうが。
多分、うぬぼれでなければ……俺にも会いに来てくれてるんだよな?
「じゃぁ、少なくとも三人は来ないか」
「またの機会に、ぜひ」
「あぁ」
ということは。
ほかに食堂を利用する冒険者がいるとすれば、ベルメラにセレ。
それからハイケアから来る数少ない冒険者……か。
「先にギルドに聞きに行った方が早いか?」
『ッスかねぇ?』
外を見ている感じ、よく見かける村人以外は通っていない。
早い時間だ。
もしかすれば、ギルドで依頼を吟味中の冒険者がいるかもしれない。
「ギルドならすぐでしょうし、留守番しておきますよ」
「いいのか? 頼む」
『うんうん。オレっち以外にも、アニキの手足となる舎弟ができてよかったッス!』
「おいおい、なんてこと言うんだ」
そんなつもりはこれっぽっちもないんだが。
「それにツークは舎弟じゃなくて、相棒だろ?」
『!! そっ、そーでした、そーでした! ~♪』
「まったく」
調子がいいんだもんな。
だがそこもかわいい。
「じゃぁ、アビー。すぐ戻る」
「はい。行ってらっしゃい」
『~♪』
ご機嫌で俺の肩に飛び乗るツークは、どこか満足気だ。
◇
「お、リシト」
「こんにちは」
二軒隣のギルドへと足を運ぶと、受付にはいつものようにモリクさんの姿が。
「調子はどうだ?」
「まぁ、なんとか」
調子が良いかは分からないが、村での生活には少しずつ慣れていたに違いない。
「今日、他に冒険者は?」
「んー、セレたちはハイケアに行くと言っていたし。昨日、一人剣士は来ていたが……。今日はまだ見てないな」
「そうか……」
……ということは、今日の食堂利用者見込みはゼロ?
『どっ、どうしやすアニキ!?』
「うーん。今日は休みにして、買い出しと依頼に絞った方がいいか?」
「いいんじゃないか? そういきなり冒険者が大挙して来るわけでもないし」
「依頼はどういったものがあるんだ?」
そういえば、まだルーエ村で自ら依頼を受けたことがないな。
「今日は特に騎士団から急ぎの報告もないし、この時期は農作業の手伝いや素材採取が多いかな」
「へぇ」
「まぁ、以前ほど冒険者も来ていないから依頼自体も減ったがな~」
「そうか……」
農作業の手伝い……か。
『風神の槍』でそういう類の依頼を受けたことはないが、個人的には気になる。
普段何気なく食べているもの、使っているものの生産過程。
きっと消費するだけでは分からない苦労も多くあるんだろう。
「買い出しして……また来るか、ツーク」
『ういッス!』
「待ってるぜ~」
よし。今日は思い切って食堂を休みにしよう。
ハンナさんにも伝えて、アビーにもお礼を言って。
肉屋とパン屋。
それから依頼だ!
◇
「おや、兄さん! こんちは」
「どうも」
同じ広場内の肉屋へとやってきた。
前回同様タナーさんは笑顔で迎えてくれる。
相変わらず小さな氷が敷き詰められたショーケースの上には、いくつもの肉が皿の上で展示されていて、ツークじゃないが見ていて心躍る。
そのツークはといえば、前回同様お行儀よく肩でじっと耐えていた。
タナーさんの俺に対する『実はすごい奴なんじゃないか疑惑』を現実のものにしようと協力してくれているらしい。
「今日はメナールさんと一緒じゃないんですねぇ」
「そうなんだ。あ、そうそう──」
そういえば肉屋は近いから、グレッグさんも自分で買いに来ていたと言っていた。
ハンナさんからの話が伝わっていないだろうし、食堂のことを一応伝えておこう。
「──へぇ! そりゃぁいいな」
「というわけで、これからも通わせてもらいます」
「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ!」
握手を交わす。
こう、冒険者としての縁というのは依頼なりパーティなり……戦闘面で手を組む、という機会から成っていたが。
村に来てからというもの食材を介した人との縁というものも出来てきて、どこか不思議な感覚だ。
王都にいた時には急いで買い物を済ませることが多く、店員と握手どころか会話も交わさなかったからな。
「今日はどんな肉がありますか?」
「そうそう、昨日珍しいのが入ったぞ」
「?」
タナーさんが指さすのは、きれいな赤い肉。
大きい葉が二枚重なるように置かれ、その上に大きい石ほどの肉の塊。
見た感じは牛肉と同じようだが……。
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【ヘルバイソンの肉】
【脂肪が少なく固め】
【あっさりとした味】
【やや臭みがある】
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「ヘルバイソン!」
「お? ……あぁ! そういえばスキルが【鑑定】でしたっけか」
かなり重量のある巨体に、頭部にある二本の角が特徴。
Bランクの魔獣で、火の魔法が得意。
やはりというのか魔素がみなぎっている。
ヘルバイソンは似た系統の種族の中でも、最も力が強い。
本来全身が厚い毛で覆われている種族だが、こいつだけは真っ黒い短めの毛に赤い紋様が特徴で、寒さにも強い。
氷魔法も中々効きが悪いらしいから、意外と骨の折れるやつだと聞いたことはあるが……。
「昨日ハイケアから来ていた剣士が、朝一で討伐したようで」
「へぇ?」
モリクさんが言ってた人か。
メナールたちも何も言ってなかったし……、一人でさっさと討伐して帰ったのか?
すごいな。
「この量で、いくらだ?」
「中々入らないから少し値は張るが……、半金貨だな」
「おおぉ……」
半金貨。
銀貨が十枚で金貨一枚だから、銀貨五枚の俗称。
王都で借りていた一か月の家賃を思うと……、たっ、高い!
だが確かにあまり見かけない気がする。
特にヘルバイソンは気性が荒いせいか、群れでいることが滅多にないらしい。
幸い、いくらか資金に余裕はあるが……。
「(み、店で出すには量を少なくしないとか?)」
『(ですかねぃ……?)』
「(でも、食べてみたいよな)」
『(そりゃぁもちろん! オレっち、まさにそういう肉を求めていやした!)』
自分たち用には多すぎる。
少ない量を買って、他の肉も一緒に買おう。
うん、そうしよう。
「すまないが、半量にすることはできるか?」
「あぁ、もちろん!」
よし。それなら銀貨二枚半だな。
「あとは、店で出すのにオススメとかあれば教えて欲しい」
「そうだなぁ──」
『(ワクワク)』
タナーさんにおすすめの肉も教えてもらって、俺とツークは肉屋を後にした。
次は、パン屋!
沢山のブックマークありがとうございます。
反応を多く頂くのが初めてであわあわしていますが、引き続き本編更新でお返しできればと思います。
今日は外にいたせいか眠気がすごいので、余力のある日に二話更新いたしますm(_ _)m
明日まで不規則な時間になりそうですが、よろしくお願いいたします。




