第四十三話 ツーク、やらかす
『──おっはよーごぜぇやす! アニキィ!』
「ん……おはよ」
小鳥のさえずりと共に相棒の声が響く。
昨夜は久しぶりに酒を飲んだ。
やや重い体を起こすと、シーツの上でツークがででんっと腰に手を当て待機している。
「ふあ……」
『まだねむそうですねぃ?』
「んー……」
意味を伴わない返事。
まるで鳴き声のようにあーだの、んーだの言えば、ツークは嬉しそうに言う。
『うんうん。アニキ、心配は要りやせんぜ。このオレっち、しっかり働いてみせやす!』
「……おう?」
『ウオオオオオオオ!!』
生返事を返せば、朝食用のリンゴを一かけら頬張って部屋から出て行った。
いつものこととはいえ、えらい気合いが入ってるな……?
◇
「──おや、おはようリシト」
「ハンナさん、おはようございます」
「もっとゆっくりしてもいいってのに。氷室、覗いておいとくれ」
「助かります」
仕込みには早い時間。
朝採れの野菜や果物を村人が持ってきてくれる時間より、少し後。
今日は特に必要そうなものが思いつかなかったので、ハンナさんの裁量に任せていた。
身支度を整えて一階へと降りれば、ハンナさんと……。
「お、ツーク。頑張ってるな」
『! アッニキィ! 見てくだせえ!』
「ん?」
ツークはかわいらしい体をせっせと伸ばして、机や作業台を拭き掃除してくれていたようだ。
「おー、ピカピカだ。ありがとな」
『フフンッ』
いつものドヤ顔を披露して、また掃除に戻る。
……もしかして、俺がいつもより眠そうだから張り切ってるのか?
「あ、おはようございます」
ツークに倣って俺もテラス側の窓を開放し作業に入ると、目の前を年配の男性が通る。
俺のあいさつに気付くと、手を振って返してくれた。
たまに見かけるのでお辞儀やあいさつを交わしているが、誰かは分からない。
「今日は、……どうするかなぁ」
ぼんやりとメニューを考える。
あとで氷室を見てから決めるか……。
ハンナさんは氷魔法に適性があるようで、ツークよりほんの少し大きな氷がいくつか常備されている。適性のない俺はコップに入るくらいの氷しか出せないから、羨ましい。
魔力が足りずそれを飛ばしたり操れなかったとしても、食堂においては全く問題がない。
氷室は陽の当らない場所にあるので、いつもひんやりとした空間だ。
肉屋、それからパン屋にも行きたいし。
ハイケアからの冒険者の様子もギルドで聞いておきたいな。
あとは採取依頼。
ヨミの森はできれば最低誰か一人と組んで行きたいから、周辺のまだ行ったことのない場所。
そういうのもチェックしておきたいよな。
うーん。やりたいことが多いな……。
よし。今日は十三時に誰もいなかったら早めに閉めよう。
『アニキィ、今日はなんにしやす~?』
「迷い中だな~」
『オレっち、ガッツリ肉が食べたいッスねぇ』
「アハハ。ツークって、本当になんでも食べるよなぁ」
顔だけ見れば草食っぽいんだがな。
しかしツークはどこか張り切っていて、ご機嫌。
空間魔法を使っているわけでもないのに、尻尾を立ててふりふり横に揺らしている。
俺の役に立てているからと感じているからだろうか?
なら掃除は任せて、昨日ツークと話し合った案から決めるか。
グルートクロコの肉がちょっと余ってるだろ。
メインはそれとして……。
昨日ツークと話していたのは、獄炎鳥にトマトとチーズを乗せた要領で、グリル野菜にとろっとしたチーズを掛けてもうまいんじゃないか? ということ。
……うん。絶対うまいだろうな。
『──アッ』
「ん?」
テラス側の席に座って考えていると、ツークが何か言葉を発した。
と思えば、勢いよく陶器の割れた音が聞こえる。
『ッノオオオオオオオオ!?』
「ど、どうしたツーク」
慌てて傍に寄れば、カウンター席の上で頭を抱えるツークと、床に散らばった破片。
どうやら料理中に使う水差しを落として割ってしまったようだ。
『もっ、ももももうしわけございやせんっっ!!』
「落ち着けって。怪我はないか?」
『おおおおオレっちは、どこにも……ッ!』
「ならよかった。ほら、危ないから俺の肩に乗るといい」
先ほどまであれだけ張り切っていたのに、見るからに落ち込んでいる。
まるで昨日のベルメラのようだ。
シクシクと悲しみながら俺の肩に飛び乗ると、そのままチョロチョロと頭の上にまで登った。
『ウッ、ウッ……』
「気にするなって」
『で、でもぉ……』
「まさか、一瞬で自分が転移してキャッチすればカッコよかったのに! ……とか、思ってないよな?」
『ナゼそれを!?』
「何年一緒にいると思ってるんだ」
頭の上で俺にしがみつくツークを、指先で撫でてやる。
大抵これで機嫌が直る。
「自分以外の転移はタッチしないとだもんなぁ。まぁ、気にするな」
『ハァ……』
「……どうしたツーク。今日はいつにもまして気合い入ってるな?」
『それはほら、アレですよ……。昨日は不覚にも、眠ってしまいやしたので……』
「昨日? ……あぁ」
もしかして。
「……みんなと一緒に時間が過ごせなくて、寂しかったのか?」
『!? ななななななにをおっしゃいやす! オレっち、見た目はかわいいクロークテイル。中身は男の中の男、ギャップが愛しいツークですぜ!?』
自分で『愛しい』って言ったな……?
「はいはい」
よくよく考えれば、昨日の席では男の中の男二人が眠っていたな。
「ある意味それもギャップでかわいいぞ」
『タ、タハー』
うりうりと指で顎の下や耳元を撫でてやると、機嫌がすっかり元通りだ。
『っしゃあ! 今日は、味見! がんばらせていただきやす!!』
「いやいつもだろ」
ちょっぴり寂しがり屋な一面が垣間見えたのも、王都とは違う環境だったからだろうか。
新たな発見。
そんなところもツーク様の魅力的な部分だな。




