第三十八話 三者三様 【アビー視点】
「──ベルメラ!」
「……ベルメラ嬢」
僕たちが入ってきたところから、新たに現れたのは……。
つい先日治癒した女性。
Aランクの『灰塵』と聞いた時は驚いたけど……まぁ元気そうでなにより。
リシトさんに先日のことお礼に来たとか?
──謝罪、感謝、謝罪、感謝、謝罪、感謝、謝罪……。
……呪い?
「おお、元気になられたであるか!」
「もっ、もちろんですわ──!?」
声を掛けたハルガさんと僕の方を見て、ベルメラさんはすんごい驚いた顔になる。
──な、なんで治癒の書がここにいるんですの!? こ、心の準備が……。
えぇ……、そんなこと思われても。
「お邪魔するよ」
『ピィ!』
『わふ』
「セレたちも来たのか」
ベルメラさんの後ろから、セレさんと従魔たちがひょいっと顔を出した。
「悪いねぇ、リシト。わたしが村を案内するってなってたのに。でも、看板見る限り大丈夫そうだね」
「いや、いいんだ。ありがとう。それより、ベルメラ……あー。様って言った方がいいのか? 体はもう大丈夫なのか?」
「え!? え、えぇ、ごご心配にはっ、及びませんわ」
リシトさんが声を掛けると、距離があるというのに体がビクッと跳ねる。
緊張しやすいタイプの人?
「ひとまず、座ったらどうだ?」
「……」
「え、えぇ……」
「お気遣いどうも。フゥとルゥはツークと遊んできな」
『ピピッ!』
『オン!』
そう言われた従魔たちは、外に遊びに行く。
……いいなぁ、もふもふ。
特にルゥって呼ばれた従魔の尻尾。
メナールさんはと言えば、ベルメラさんたちが来た途端口数が少なくなる。
表情も心なしか厳しい。
どうしたんだろ。
──せっかくリシトさんに教えを受けていたのに……。なんと間の悪い。
……あー。うん、たしかにタイミングはアレだったかも。
「セレたちも依頼か? 一応、開店は十一時からなんだが」
入り口に近い席に座る二人を見て、リシトさんは問いかける。
「ん? あぁ、いや。ベルメラが、あんたにって」
「俺?」
「ちょっ、ま、まだ──」
──寝ずに作業したせいで頭が働きませんわ……! 治癒の書にもお礼を言わねばなりませんし……どっ、どうしたら。
うわぁ。
もしかして、僕、お邪魔だった?
「どうした、ベルメラ……っと。近づきすぎはよくないか」
リシトさんがキッチンから入り口の方まで行こうとすると、途中で留まる。
うん。的確な判断だと思う。
「(リシト殿に先日の礼に来たのであろうか?)」
「(……そーだと思いますけど)」
僕たちはこそこそと言葉を交わして見守る。
傍から見るだけならいいんだけど、心が読めるとこっちまで緊張するんだけど……。
僕のスキルの欠点は、制御できないことなんだよな。
メナールさんはいつもの席に戻って一息吐いている。
心なしか拗ねている。
──まったく……。ベルメラ嬢にはいつも振り回される。
いやそれはほんと、お気の毒にって感じ。
「ほーら、ベルメラ。先延ばしするともっと言えないだろ」
「っ、わ、分かっておりますわ……」
そう言うとベルメラさんは手に携えていた鞄から、何かを取り出した。
「……?」
「おじ……リシト、ええと。その」
なんとなく察した僕たちは、黙って見守る。
──たった一言。文字にして五つ。それくらい言えなくて、どうしますの。
うんうん。
「こ、これ」
「これは?」
ちょっとずつ近づくリシトさんに、ベルメラさんが差し出そうとしているのは……布製の何か。
「えーっと、だから、その」
もう一息。
なんだかよく分からないけど、ちょっと応援したくなってきた。
「ほら、わたしのこれと似たようなもんさ」
「セレのスカーフって……、あぁ! もしかしてベルメラのお手製だったのか!?」
「~っ! 家の者との、合作ですけれど……」
とうとう目の前に迫ったリシトさん。
ベルメラさんはもはや目線も合わせず、布製の何かを差し出すだけの形に。
なんでそんな緊張するんだろ。
恥ずかしがり屋とかかな。
「あ、あり……」
「ん?」
「あっ、ありが」
リシトさんが受け取るのと同時、とうとう──
「──あっ、ありがたく、受け取りなさい!!」
──間違えましたわ!?
あー……。
「え? あ、俺に? ありがとう、ベルメラ」
──言わせてしまいましたわ……!?
なにやってんの。
はー。心が読めたところで、僕がなにか言えるわけでもないし。
自分でがんばって。
「はぁ、ベルメラ……」
「ち、ちがっ」
「これは?」
リシトさんが受け取った布地を広げると、……エプロン?
それから広げた拍子に一枚床に滑り落ちた。
「……っと、悪い。エプロンと……チーフ?」
バンダナほど大きくはない薄い緑の布地。
紫色の刺繍が入っている。
「先日の礼に、リシトとツークにって」
「もしかして、耐火仕様ってことか? すごいな……! いいのか? もらっても」
「す、好きにお使いくださいな」
「助かるよ。ちょうど探していたところなんだ」
そう言うとリシトさんは早速身にまとった。
チーフとどこかお揃いだ。
──はぁ……。きっかけさえあれば言えると思いましたのに。
……ベルメラさんも色々あるのかな。
──考えれば考えるほど、どれが正解なのか気にしすぎて言葉が消えていきますわ。
言葉、ねぇ。
僕みたいに人の心が分かっても、それはそれで言葉って出てこないんだよねぇ。
何があったか知らないけど……。
まー、めんどい。
考えて、間違って、経験して。
そういうもんだよ、人って。
僕から言わせてもらえれば、間違いを許容してもらえる環境、うらやましいよ。
いつもご愛読ならびに感想、ブクマ、pt評価等ありがとうございます。余力がなく返信滞っておりますが、すべて拝見しております。
ひとまず毎日更新できるように本編に注力したいと思います。
暑い日が続きますので、皆さまも体調にはお気をつけてお過ごしください。




