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第三十六話 はじめてのお客さん?


『っしゃああああああ!! やってやりやしょうぜぇええええ!!』

「燃えてるな、ツーク」


 村に来て七日目の朝。

 新しいスタートを切るには絶好の青い空の(もと)

 俺とツークは宿の裏庭でウェル草の根を植えていた。


「気合い充分なところ悪いが、少なくとも一週間は暇な日が続くと思うぞ」

『……ッスかねぇ?』


 肩で小首を傾げるツーク。


 ハイケアから来る数少ない冒険者でさえ、あちらで数日分の宿は押さえているだろうし。

 もともとギルド近くということもあり、利用客はほぼ冒険者。

 村人の利用はほとんどなかったと聞いた。

 誕生日や記念日にはハイケアに行くようだし。

 

 まぁ、この一週間で数少ない冒険者にアピールできれば上出来、といったところだな。


「……よしっと」


 きれいに横一列に並んだウェル草を見て達成感を覚える。

 成長したら、何を作ろうか。


『にしても朝はバタバタでしたねぇ』

「だな」


 昨日、帰宅早々ハンナさんは村の生産者に声を掛けに行ってくれて。

 朝から野菜、果物、牛乳にチーズ。

 いろんな村人が食材を持って訪ねて来てくれて、必要な分を購入させてもらった。


 王都のような店も多い町だとしっかり契約を交わしたりするんだろうが……。

 こう、生産者が直接持ってきて、必要な分だけを購入させてもらえる。

 なんだか村人同士の『信頼』ってものがこんなところでも目に見えて新鮮だった。


 今度肉屋にも行かないとだな。


「使いそうなものをキッチンに運んでおくか」

『ウイッス!』


 ウェル草を植えた場所の左手。

 半分くらい地面に埋まっているような貯蔵庫。

 中にあるものは好きに使っていいとグレッグさんから言われている。


 ドキドキしながら石の階段を下ると、外とはまったく違うひんやりとした空間。

 壁に(しつら)えられた棚や、多くの酒樽。

 簡単な作業場に、丸テーブルと椅子が二脚。

 おそらく予備の皿やカトラリーといった備品まで。

 一番印象的なのは棚に並んだワイン。

 いろんな年代のものなんだろうか。様々な色合いの瓶が並んでいる。


『ホエー』

「すごいな」


 一般家庭でここまで広い貯蔵庫はないだろう。

 さすがは宿兼食堂。


 生鮮のものはキッチン横の氷室(ひむろ)に置いていたようだし、ここには長期保存のものが保管されている。


「さすがに酒類はハンナさんに聞いてからだよな」

『なんかいいスパイス的なヤツあるといいッスねぇ』


 ぐるりと貯蔵庫を見て回る。


「……お」


 【鑑定】をしながら見回すと、一つ気になるものが。


「ワインビネガー?」


 名前からして酢のようだが……。

 果実酢の一種なんだろうか?


==========

【赤ワインビネガー】

【原材料:ブドウ】

【酸味が強い】

==========


「へぇ……」


 たしかに赤い液体。

 もう一つ隣を見ると。


==========

【白ワインビネガー】

【原材料:ブドウ】

【さわやかな酸味と香り】

==========


 こちらはほとんど透明。うっすら色づく程度。

 大してワインを嗜んではきていないが、赤が肉料理。

 白が魚に合うと考えていいんだろうか。


『アニキ、なんかイイのありやした?』

「あぁ。サラダに使おうかな」


 まだ【収納(クローク)】に獄炎鳥が残っている。

 肉屋に行くまでメインは鶏肉でと考えてはいるものの、サラダに使うのであれば……こっくりした赤より、白の方がいいか。


『……? ……ピャッ!?』

「あんまり鼻近づけない方がいいかもな」


 すんすんと肩から身を乗りだして匂いを嗅いだツークは撃沈した。

 俺より嗅覚の鋭いツーク。

 鼻にツーンときただろうな。


「ちょうど朝買った野菜があるし、いいな」


 とりあえず、試しにこれでサラダを作ってみようか。



 ◆



『~♪』


 俺がキッチンに立つと、ツークは途端にご機嫌になる。

 先ほどの教訓を生かしてやや離れた場所から覗き込んでいる。


「あと一時間か」


 昨日ハンナさんと話した結果、ひとまず昼の営業に絞ることにした。

 ハイケアから来る冒険者が村で宿を利用していない以上、夜営業する利点が少ない。

 俺が初めての経験で不安ってのもある。

 料理の提供を十一時から十三時まで。

 閉店は十四時までにして、外の看板に張り出した。


「こういうのを仕込みって言うのか?」

『ッスねぇ』


 メニューも少なくして負担を少なくする。

 作るのはともかく、店っていう意味では何もかもが初めて。

 試行錯誤する他ない。


 朝仕入れた野菜をツークに出してもらうと、その彩りに感動すら覚える。


「きれいなトマトだな」


 手に取ると、どこかサラッとした手触り。

 見た目はツルツルしているのに不思議だ。


「あとタマネギもくれ」

『ウッス!』


 さっきの白ワインビネガーを使って、トマトとタマネギのサラダマリネにしよう。

 そう考えた時だった。


「──……ども」



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