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第三十五話 希望の場所


『(あ、……アニキィ……)』


 ツークがこれでもかとプルプル震える。


 ……しょぶん。処分。

 あれだよな? 降格処分ってことだよな?

 料理長が降格して王都で店開いたとか、そういう話だよな?

 いやでもハンナさんは体調不良って言ってたし……。


 ま、まさかな。


「なんだい、二人して」

「ハハ、ハンナには内緒。な?」

「え、えぇ。……まぁ」


 言えるわけがない。

 もし、仮にだ。まずい方の処分なら……。


「そうだ、ハンナ。あっちにあいつらがいるから話してきたらどうだ?」

「あいつら?」

「村の連中さ」

「……はいはい。そうしてきますよっと」


 ハンナさんは渋々というのか、何かを悟ったのか。

 グレッグさんが指さす倉庫へと向かった。


「そう怯えなくていいぞ」

「それはちょっと無理が……」


 今の話を聞いて、怯えないやつなんているのか?


「まぁ貴族ってのは富や権力を持つ反面、面倒事も多いだろうからな。

 だからオレたちのような平民には関係ない。どーんと、やってくれ」


 貴族?

 ……あれか、料理人が領主に毒を仕込んだとか、そういう話なのか?


「じゃ、じゃぁ……!」

「それより、人手は足りるか? オレはしばらく戻れない。領主にとっても、騎士団にとっても村の者の方が信用できるだろうからな。ここに来て話をする分には構わないが」

「そう、だな……。しばらくは問題ないかと」

「ふぅん?」


 ちらりと横を見れば、ハッと何かに気付いたツークが胸を張る。


「多くの冒険者たちは現状ハイケアを拠点にしているだろうし、村の規模と状況を考えたら最初から利用者が来るとは思わない。──それと、こっちは相棒のツーク。クロークテイルという種族で、空間魔法が得意なんだ」

『ムンッ』

「空間魔法……? ははぁ、配膳はお任せってか?」

『オレっちにお任せぇ!』


 ひとまず、その作戦でいこう。


「もともと宿で働いてた者は、ハイケア辺りに職探しに行ったからな。オレの方では働き手に当てはない。なんとかなるってんなら、自由に使ってくれ」

「感謝する……!」

『イエーイ!』


 シャカシャカと上下に腕を振り始めた。

 ご機嫌だ。


「その、強化(バフ)っていうのか? それについてはどうする。メニューは好き勝手にしてもらっていいが、値段がな……」

「もともとの食堂で提供していた相場、それから大きく外れないようにしたいとは……思うんだが」

「うーむ。以前のはハンナに聞いてみるといい。……そうだ、村の連中に食材を卸すように言っておくよ。ハンナに頼んでおく」

「ありがとう」


 補助魔法……。

 この前のハンナさんを見る限り、少なくとも半日は効果が持続していた。

 料理に使われた魔素の吸収が終わるタイミングで切れるんだろうか?

 値段感は、たしかにむずかしいが……。


 そもそも人気のない付与術師。

 ふつうの冒険者なら、「飯に強化(バフ)が付いてるのか、ラッキー」くらいの感覚だろうか。

 安くて持続時間が短い魔道具のような?


 付与術師を雇うほどでもないが、あると助かる。

 まぁ、それと料理を掛け合わせるのはちょうどいいと言えるな。


「そうだな、あとは──」


 本来セレに教えてもらえればいいと思っていた、費用と売値の比率。

 売上の管理や食堂の使い方。

 宿の貯蔵庫なんかについて一通り教えてもらった。


「ほか、なんかあるか?」

「あ、そうだ。ウェル草、裏庭に植えても問題はないか?」

「いいぞ」

「それと」


 俺は食堂の一画。

 一番奥の大きな机に、故郷の風習にならって名前を刻んでいる件について伝えた。


「へぇ……! いい風習だな」

「あぁ。娯楽も少ない村だ。仲間や家族と囲む食卓というのは、それほど人生においてかけがえのないものなんだ。家族と食事をするために農作業を頑張る。仲間とまた飲み明かすために、遠くへ出稼ぎに行く。人によって違ったが……王都に来て、ちょっと忘れかけてたな」


 力なく言えば、グレッグさんは優しい笑みを返してくれた。


「誰だってそうさ。目の前のことに一生懸命だとな。だが、その場所があるからこそ心の支えとなり頑張れる……。ある種の、希望みたいなもんだろう。名を刻むことでそれが目に見えるってのは、いい風習だと思うぞ。遠慮なく使ってくれ」

「……ありがとう」


 なるほど。

 仲間、家族、友人。人とのつながり。

 心のどこかで感じてはいるが、不確かなそれを目に見えるようにしたもの……か。


 俺にはもう家族がいない。

 ウェントたちとは本当の意味で心を通わすことができなかった。

 ……村でのあの時間。


 相棒のツークに、どこか料理に興味がありそうなメナール。

 二度とやってこないものだと思っていたがな。


「よし。……あとは、また何かあれば聞くことにするよ」

「だな。まずはやってみるといい。オレやハンナに遠慮する必要はないぞ? リシトがやろうとしていることは、村にとっても大事なことだからな」

「あぁ、ありがとう!」

『あざッス!』


 ぺこりとツークが深々お辞儀をする。

 俺ももう一度、頭を下げた。


「──話は終わったかい?」

「あぁ、ハンナ。あとで──」


 いよいよか。


 暫定でもいい。決めることを決めて、看板も作って。

 ツークの【収納(クローク)】と宿の貯蔵庫と相談しつつ、食材を仕入れて。

 あとは、やるだけだ。

 ちょっと緊張してきた……!


『アニキィ! やってやりやしょうぜぇ!』

「あぁ」


 まずは村にいるメナールたち。

 それからハイケアから来ている一部の冒険者たち。


 彼らに認知してもらって、改善できるところは営業しながら変えていって──


「……」


 俺はもしかしたら。


 誰かに、必要とされたい。


 そんな気持ちがずっとあったのかもしれないな。



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― 新着の感想 ―
グレッグさんもいい人だぁ…(T . T)
魔法の講釈を受けた時には敬語が使えた主人公なのに、初対面で一回り年上の人に頼み事をする時には敬語を使わない事に違和感を覚えました。
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