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第三十三話 理由【ベルメラ視点・回想】


「……」

「ベルメラ! 具合はどうだい?」

「お姉さま」


 ぼんやりとした視界の端。お姉さまが傍にいてくれた。

 わたくし……、あのあと寝ていたのかしら。


「大事ありませんわ。……回復術師(ヒーラー)の方のおかげですわね」

「よかった……。彼は『治癒の書』、アビケインだよ」

「まぁ、彼が」


 噂には聞いたことがありますわ。

 王都に寄り付かない凄腕の回復術師。

 貴族の中には、大金を出してでも彼を直接囲いたい者が多くいるというのに……。

 まるで、逃げ回っているかのよう。


「ラッキーだったよ。今、村には回復術師(ヒーラー)がいないからね。早いとこ、ハイケアのギルドと相談しないと」

「……えぇ。わたくしも、そう思っていたところです」

「? なんだい、あんたらしくもない。ずいぶんしおらしいねぇ」

「……」


 迷惑を、掛けてしまった。

 浅はかな考えだったとは自分でも思う。

 いくら火属性に耐性があり、それほど強くはない魔物が相手だったとはいえ。


 でも、わたくしがこの村に居続けるためには、みんなの期待に応え続けなければならない。

 よそ者の力を借りることなく。

 父に、彼らに、認めさせるためにも。


「ベルメラ?」

「え?」

「ぼーっとしてるよ」

「……はい」

「無理はしなさんな。もう少し、寝ておくといいよ。わたしはモリクと話してくるから」

「えぇ」


 部屋から出ていくお姉さまを見送る。

 ……すこし、疲れましたわね。


「はぁ」


 もう一度布団をかぶって瞼を閉じる。


 おじ……リシト。セレお姉さま。メナール。アビケイン。

 リリィ、ミリィ。

 次々に顔が浮かんで、消えていく。


 わたくしはまだ、一人前にはなれないのかしら──



 ◆◇◆



 ──四年前


『ベルメラ、まだ勉強しているのかい?』

『エドガー』


 夜遅く、部屋の明かりが灯るわたくしの部屋を訪れる婚約者のエドガー。


 ディアバートン子爵家には男児が生まれなかった。

 幸い、ベレゼン王国の法では直系の子女が家督を継ぐことも可能。

 過去には女王が誕生したこともあったが、やはり子息が継ぐというのが一般的ではあった。


 ……彼は、父がわたくしに課した枷なのだ。


『あんまり根詰めすぎてもいけないよ』


 王子様のような容姿。

 さらりと流れる金の髪は、わたくしでなくとも年頃の女であれば見惚れたことでしょう。

 そんな彼が優しい言葉をかけるのだから、彼との婚約というものは、女に家督を継がせることに抵抗がある父が寄越した刺客であったとしても素晴らしい生活になるに違いない。



 ……そう、疑わなかった。


『ええ、そうですわね。……でも聞いて! 実は、領の孤児院の経費が──』

『ベルメラ、まだそんなことを言っているのかい? 仕事は私が引き継ぐ。君はゆっくり、未来の母親として体だけ気遣っていればいいんだよ』


 ちがう。

 わたくしはただ、貴族の一員として自分の役割を自分で見つけただけ。

 スキルが戦闘向きだったため、その分知識をつけようとがむしゃらに勉強した。


 父が仕事でその多くを王都で過ごす傍ら、わたくしは未来のディアバートン子爵として幼少からいずれ自分が引き継ぐであろう領地をこの目で見てきた。


 他の領と比べると、農業が主な産業の領地はけっして裕福とは言えない。

 それでも彼らはみな親切で。

 特に、孤児院を切り盛りする神父には、多くのことを教わった。


 教会へと赴けば、神父を頼る領民の姿。

 回復術師(ヒーラー)でもある彼は皆に慕われていて、よく領の未来について話し合った。


『……』

『ベルメラ、不満なのはわかる。でも、私との結婚が家督を継ぐ条件なんだ。我慢してくれ』

『我慢だなんて、そんな』


 彼に対して不満があるわけではない。

 エドガーは男爵家の三男。

 婿として子爵家に来ることが決まり、家族は大層喜んだそうだ。


 でも、その喜びはわたくしから領を守りたいという気持ちを奪うものなの?

 お父様は、なぜ女に家督を譲りたくないの?


 彼に不満があるのではない。

 家にまつわるしがらみが、ただ貴族の責任として子爵領を立派に治めたいと願うわたくしの夢に、影を落とすのだ。



 ◇



『あら、お姉さま』

『ヴィヴィアン、どうしたの?』


 朝。廊下ですれ違う彼女は、妙に着飾っていた。


『エドガーは?』

『? もう帰りましたわよ』

『えー、今度お話聞かせてくれるっていったのにぃ』


 わたくしと同じ髪色を持つ、愛らしい妹。

 彼女は家督を継ぐことなど毛頭考えもしていないようで、幼少から外見にだけ気を使っていた。


 わたくしとちがって、常に流行の型に結われた髪。

 ドレスはもちろん直接家に仕立て屋を呼び、誕生日には宝石のような豪華なプレゼントを父にねだった。

 それが悪いとは言わない。

 夜会や茶会、社交の場で着飾るのは一種のステイタスなのだから。

 けれど子爵領のことを考えれば、わたくしにはそこまで自分を豪華に着飾ることなど優先することではなかった。


 最低限、品位を落とさない装い。


 それが、よくなかったらしい。



 ◇



『お姉さま、またご自分で刺繍を?』


 とある茶会に招かれたわたくしとヴィヴィアン。

 自分の目から見ても美しいドレス。

 腰から足元を覆うよう幾重にもレースが重なり、時間と労力、それから財をひけらかすには十分なもの。


 対するわたくしのドレスは、よく言えばシンプル。

 悪い言い方をすれば、みすぼらしい。


 ……が、貴族の中には血筋はよくとも財力のない家柄はままある。

 少しでもよく見せようと、侍女と一緒に刺繍を施した。


 父は財務官。

 わたくしを嫌う理由があるとすれば、内情はどうあれディアバートン子爵家が裕福な家柄であると他家に示さないことだった。

 父のプライドがゆえなのだろう。


『不出来かしら?』

『いいえ、ただ。同じ姉妹ですのに、……ねぇ?』


 テーブルを囲う他の令嬢を見れば、扇子で口元を隠すものの、薄ら笑いわたくしのことを見下していることはよくわかった。


 なるほど、これが彼女の生き方。

 自分が愛されていることを十分周りに見せつける、ある種の才能だろうと思った。

 けど、そんなことはどうでもいい。


 わたくしが子爵家さえ引き継げれば、彼女は恐らく上位の貴族に輿入れする。

 いまだ予定はないが、求愛はあとを絶たないのだから。


 それから出費を見直して、底が尽きないのが不思議な財政を立て直して、こっそりとスキルを生かして始めた商売をもっと軌道に乗せて。


 目標さえあれば、多少の心の傷なんてどうってことはない。

 わたくしは、もっと大事なものを見落としていたとは知らずに、妹からの言葉など気にも留めなかった。



 ◇



『…………いま、なんと?』

『だからベルメラ。婚約を解消してほしい』


 応接間で改まって言われれば、わたくしはぽかんと口を開けた。

 まったく理解できない。


 仮に、わたくしへの愛がなかったとして。

 彼の言動からは子爵家に対する執着がうかがえた。

 財が目当てなのか、地位が目当てなのか。

 分からないが、下位の貴族から破棄を申し入れるほど、仲がわるいということもなかった。


『えっと、その……。突然すぎて……』

『本当に、そうか?』

『え?』

『──クスクス』


 なぜか美しい顔を歪めるエドガー。

 膝に置く拳は固く握りしめられる。


『……ヴィヴィアン?』


 笑いながら部屋へと入ってきたヴィヴィアン。

 その目は欲しい物があると父に願い出た時の目にそっくりだった。


『お姉さまったら、ダメじゃない』

『え?』

『こぉんなに素敵な婚約者を置いて、子爵領の恋人の元へと足しげく通うなんて……』

『……は?』


 恋人?

 そんなの、後にも先にもエドガーだけ。

 現地へと通っていたのは、領地経営を志す者なら基本──


『そんな方、おりませんけれど』

『口ではなんとでも言えるのよねぇ~。あれでしょ? みすぼらしい恰好なのも、あの神父からの入れ知恵なんでしょう?』


 そこで理解した。

 わたくしの弱みを握ろうと、領内の妹の手の者が報告したのだろう。

 やましいことは何もないが、たしかに特定の殿方の元へ通うというのはいい行いとは言えない。


 だが、父には報告していたはずだった。


『……お父様にも申し上げましたが、あの方には領地についてのご教授をいただいていただけです。光の女神の信徒である彼の元へは、領内の者すべてが世話になっているのですから』


 この世界の生命を創ったとされる光の女神。

 世界でもっとも信仰される神の一柱で、特に回復魔法の使い手は女神を信仰するそうだ。


 孤児院を切り盛りしていたのは、併設された教会の神父。

 協会には祈りを捧げるだけでなく、彼の回復魔法を求めてやってくることも多かった。


『へぇ~、そうなの? でも、もう遅いわよ』

『?』


 遅い、とは。


『恋仲であろうがなんだろうが、お姉さまにとって。エドガーよりも領の方がとぉっても大事なんですもの』

『……』

『そんなんですから、殿方の気持ちがわからないのですわ』

『!』


 そう言うとヴィヴィアンは腰かけるエドガーの背後から、彼を腕の中に包んだ。


『なっ』

『婚約者を放っておいて、しょっちゅうお留守になさるお姉さまがわるいんですのよ?』


 ぎゅっと腕の中のエドガーを抱きしめ、顔を寄せる。


 やめて。


 例えわたくしが悪かったのだとしても、……そんな姿、見たくはない。


『ベルメラ、彼女が教えてくれたんだ。女性らしい包容力。男を立てる気前のよさ、飽きられないようにと磨きをかける美しさ。多少君には悪いと思っても、結局はお互い様だから……理解してくれるね?』


 理解?

 そんなこと、できるとでも?

 領の未来を考えた末の行動と、ただ寂しいからと心の隙間を埋めるために浮気をした彼。

 本当に、同じだとでも?


『ついでに言いますと、お父さまも了承なさっておりますわ』

『……お父様が?』


 それほどまでに、彼女を可愛がっているのだろうか。


『ええ。なんでも、わたくしとエドガーで立派に子爵家を治めなさい、って』


 うふふ、とほほ笑むヴィヴィアン。

 その瞳は心底嬉しそうにわたくしを見下ろす。


『──子爵家を!?』


 婚約破棄が、わたくしがエドガーと向き合う時間をとらなかったことへの罰だとしたら。

 領地を気に掛けるわたくしに家督を継がせないのは、どういうことなのか。


『っ!』


 わたくしはヴィヴィアンの言葉が終わるより早く、父の書斎へ駆け出していた。



 ◇



『──っお父様!!』

『なんだベルメラ、騒々しい』


 ノックもせず扉を開け放ったというのに、厳格な父はわたくしと目も合わせようともせず書類に目を通す。


『……はぁ。はぁ。……それは』


 息を整え問い詰めるより先に、見覚えのある書簡が目に入った。

 丸まった書類に結ばれたのは……わたくしが侍女と作った紐止めだ。


『ふん。こそこそと商売などしおって』

『なにを、なさるおつもりです……?』

『親が子の物を利用して、なにが悪い』

『っ!?』


 本能的に悟った。

 わたくしが領の者や数名の使用人と作り上げたものを、奪うつもりだ。


『しかしよくできているな。お前の役にも立たんと思われた加護を、このように使うとは』


 スキル【炎帝(えんてい)の加護】。

 わたくしは守られる側だった令嬢。

 必要のないものだと思っていたそれは、魔力を込めて自分で刺繍を施せば制作物に火属性耐性が付与できると分かった。


 生活魔法程度の小さな火なら、誰でも無効化できる。


 わたくしと侍女はそこに目をつけ、料理をする者、鍛冶師、領内で火を扱う者に試してもらい、その効果を確認できた。


 改良を重ねていくうちに、素材そのものを耐火性能のあるものにすればもっと効果が期待できると知った。

 であれば、冒険者のような戦いに赴く者にも役立ててもらえるかもしれない。


 そう話がまとまっていたところだった。


『お前にはまだ価値がある。女としても、領主としても望まれないお前にすらな。せいぜいスキルに感謝しなさい』

『……』


 勢いよくなだれ込んだというのに、わたくしは立つので精一杯だった。

 目の前が真っ暗。


 夢も、婚約者も。自分で築き上げたものすらも。

 何もかも奪われたわたくしは、ハッと気づいた。


『……すわ』

『なんだ?』

『そうですわ、スキル──』


 わたくしにとって大切な領。

 でも、彼らにとってもっとも重要なことは『生活の保証』。


 ここで下手に父に反抗するより、妹たちが将来しっかりとした経営さえできれば。……それはきっと、わたくしの願いとさほど変わらない。

 でも、わたくしに残された唯一のもの。

 スキルだけは決して利用させたくない。


『! おいっ』


 踵を返して応接室へと戻る。

 スキル。

 スキルさえあれば、また『自分』をやり直せる。

 修行すれば、この力で身を守ることもできるはず。


 家を出よう。

 わたくしから奪うだけ奪って、利用しようとする父の思惑には、ぜったいに屈しない。


『~、!』


 部屋の前に差し掛かると、話し声が聞こえた。


『──あの女、バカで助かったよ』

『まぁ、エドガーったら』

『ヴィヴィアンだって言ってただろ?』

『うふふ。だぁって、こんなにもエドガーは素敵ですのに。わざわざ女の身で張り切って、あなたに家のことを任せないなんて。お姉さまの方が頭おかしいんですわ』

『不明瞭な出費がどうだ、税がどうだ、一々うるさかったんだよな。……でもこれで、この家の資産は私たちのもの。まったく、邪魔者がいなくなってせいせいした』

『ほんとですわねぇ。お姉さまには、これからもわたくし達のためにしっかり働いてもらわないと』


 かちり。


 欠けていたピースが埋められた感覚。

 神父との恋仲を疑っていたなんて、嘘。


 妹と浮気したのも、わたくしが家を空けたからだとか関係なかった。

 互いの目的が、一致していたからなのですわね。


 あまつさえ、わたくしの商売をお父さまに聞いてこの家に縛ろうとする。


 わたくしは出るときに思いっきり閉めた扉を、今度はゆっくりと開いた。


『──では、お望み通り。消えて差し上げますわ』

『『!?』』


 今度はあちらが驚く番。

 わたくしから言わせれば、驚くようなことでもないのですけれど。


『き、消えるって……』

『なにを言ってるの!? お姉さまは、家のために商売とやらを続けなさいよ!』

『あなたたちのために、でしょう? お断りいたしますわ』


 核心を突けば、ぐっと言葉に詰まる。


『ベルメラ。いったん、落ち着いて──』

『どの口がおっしゃいますの?』


 もう躊躇(ちゅうちょ)はしない。

 わたくしが奪われたものは、もう戻らないのだから。


『──ひっ!?』

『まぁ』


 自分でも不思議だと思っていた。

 なぜ、理不尽な想いをしながらこんなに冷静なのだろうと。


 まるでそれに応えるかのように、わたくしの周りには炎が現れる。

 絶対に裏切ることのない、自分だけのスキル。

 わたくしにはまだ、それがある。


『神の祝福とも言われる先天魔法……スキル。わたくしの価値がこのスキルだというのなら、この力だけはあなたたちに渡すわけにはまいりません』

『なっ。もし、本当に資産がなくなったら……どっ、どうするのよ!』

『王城勤めのお父さまがご存命の間は、そのような心配は無用です。……あなたたちが、浪費をしなければ。ですけれど。

 エドガー、わたくしの意見に異を唱えていたのですから、しっかり子爵領を治めてくださいな?』

『ぐっ……』

『責務を負わずして、欲に支配されることなかれ。それが、貴族たる者の務め。

 ……今は亡き、伯爵家の子女であらせられたお母さまのお言葉です。ヴィヴィアン、エドガー。あなた方の貴族としての覚悟、楽しみにしておりますわ』


 もしかすれば父は、家格の高い家柄から嫁いできた母に、何らかの劣等感を抱いていたのかもしれない。

 それも今となっては分からないこと。


 これ以上二人を視界に入れたくはないわたくしは、言い終えるより先に自室へと向かった。



 ◇



『…………ほんとうに、着いてくる気ですの?』

『はい! もちろんです!』

『だれがお嬢様の身支度を整えるんですか?』

僭越(せんえつ)ながらこのレヴィンバーズ、お嬢様にどこまでもお供させて頂く所存です』


 侍女二人に執事一人。

 領を行き来する際に着いてきてくれた面々で、仔細を話すと着いてくると言い出した。


『いいですこと? 書類上はまだ子爵令嬢ですけれど、いつ廃嫡されるやら。これからはその名を借りずとも生きていかねばなりませんの』

『私共は領主になるべき器。それをお嬢様の中に見出したのですから』

『それに、知ってます? 使用人の給金も、最近減ってるんですよ!』

『まぁ、それはいけないわね』


 思っているよりも妹の散財は資産を食いつぶしているらしい。

 領内の税収と支出がイコールでない以上、子爵家の資産だけは最後の壁として守っていただきませんと。


『……わたくしはもう出て行くと決めましたし、どなたかにご助力を乞わねばならないでしょうか』


 領内の様子を見張る役割。

 金で雇えるなら、雇いたいものだ。


『お嬢様、辺境伯さまを頼ってはいかがでしょう?』

『ルーエ卿? なぜ?』

『彼は旦那様とは対立関係にありますから。いい知恵をお貸しくださるかもしれません』


 ルーエ卿。

 父親から跡目を継いだばかりだという。

 その方針は一貫していて、ルーエ村以外に大きな税収を望める集落がないので、魔物災厄(スタンピード)に備えるための多額の防衛費を毎年国に願い出ている。


 そしてお父さまは財務官。

 王の方針に従って予算を算出するものの、自分たちの給金は減らしたくない。

 かといって、貴族の催しものに支出する金を減らせば立場が悪くなる。

 一番周りも納得しやすい、削りやすい費目というのが、ルーエ領の防衛費だった。

 ……実際ルーエに住む人々は、どうでもいいとでもいうかのように。


『──そうね。行ってみましょう』


 それからルーエ村のギルドに仲介を頼んで閣下とお会いし、いろいろと助言をもらった。

 運営費を出す代わりに、と取引をして子爵領の様子も定期的に見てもらい報告をもらっている。

 ルーエ村の運営も、一部任せてもらえた。


 スキルを生かして冒険者になったのも、村人が安心するからと彼の提案だった。

 わたくしのスキルは強力だった。

 ハイケア周辺の依頼から始めて、次第にルーエ村でも活動ができるようになるとAランクへと到達した。


 順調だった。


 よそ者の、しかも貴族の自分を受け入れてくれる村の人々。

 ほんとうに優しい人たちばかりだった。


 次第にここが、わたくしの守るべき場所であると感じた。

 ……まるで、奪われた子爵領の代わりかのように。


 でも、いざ冒険者としてパーティを組もうとすると、なぜか頼ることができない。

 見ず知らずの、特に男性には。


 相手は貴族でもなければ、知り合いでもない。

 その裏に何もないと分かっているはずなのに、なぜかわたくしから、あるいはわたくしの大切な村から何かを奪ってしまうのではないか。そう不安で、勘ぐってしまうようになってしまった。

 いわゆる、トラウマというものでしょう。


 モリクが身の安全のために、ソロで受けるなら火属性に耐性ある魔物は避けるようにと助言された。仕方のないことだったけれど、本来はパーティを組めば済む話。

 それが出来ないがゆえの、苦肉の策だった。


 わたくしは、まだまだ守られている子供のようだ。


 実績。

 実績だけが、自分を助けてくれる。

 何も持っていない家を飛び出した令嬢なんて、この村以外に居場所もない。


 だからこの村にやってくる者が、自分から居場所を奪う者に見えてならない。


「人の心が……、分かればいいですのに」


 そうしたら、こんなに怯えなくても済むのに。

 そうしたら、もう少し素直になれるのかもしれないのに。


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― 新着の感想 ―
なんでAランクになれたの?
[気になる点] 自分の好き嫌いを公私に大いに含ませて村の為? 自分で出来ない依頼を外の人間に押し付けてなにが実績なの?
[気になる点] >わたくしはまだ、一人前にはなれないのかしら 主人公にまだ謝罪してませんからね。 きちんと頭下げることが出来て初めて大人でしょうね。 以降に期待が高まります。
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