第三十二話 素直な気持ち
「おや、もう食べたのかい?」
「あ、ハンナさん。ほんとうに要らなかったですか?」
「あたしゃもう食べたよ!」
「ならよかったです」
「……」
「出かけるときは、窓閉めといてくれ」
「はい」
新たな謎が深まった結果、『できるんならしょうがない』と思うようになった。
あのアビーに分からないなら、誰にも分からないだろうし。
可能性として本来俺は二つ持ちで、魔力量が多すぎて魔道具で測りきれなかった。
スキルは恐らく【魔力付与】のようなもの。……アビーの中では、それが有力みたいだ。
まぁ今同じことをやったところで結果は同じだろうし、スキルかどうかは気にしないでおこう。
ほとんどの鑑定系スキルってのは、自分の情報だけは見れないんだよな。
誰かに頼んだとしても、魔道具で見れないなら一緒だろうし。
「? どうした、アビー」
食堂を出ていくハンナさんの後姿をじっと見つめている。
「! あ、いえ。母親って……ああいう感じなのかなって」
「?」
「そ、それよりハルガさん! どうします?」
「むぅ」
「なにがだ?」
ツークが一生懸命皿を転移してくれている間、俺たちはまったり雑談していた。
「私の家に泊まるか、宿を利用するかの話ですね」
「ルーエ村に留まってくれるのか?」
BランクとAランクの二人。
俺にとっても、村にとっても心強い話だ。
「一応……」
「ありがたいな。なぁ、メナール」
「はい、とても」
「吾輩、メナール殿もそうであるが。リシト殿やアビー殿とも一緒に組んでみたいのである! 強者と共に背中を預け合い、激戦を制したあとに美酒に酔う! 最高ではないか!」
どっかで聞いた話だな。
……あ。メナールが前に言ってたのは、ハルガさんのことか!
「美酒、そうだな。酒もあるといいな」
『イヤッフウウウ!』
「ツークはジュースだぞ」
『そんな……!』
「な、なんならリシトさんも、私の家に来ていただいても……!」
「え?」
「っい、いえ……」
「宿ですと、食堂が使えないと聞いていたので……」
「それなんだがな」
俺は現状と今後のプランを二人にも話した。
「え、いいな……」
「吾輩も飯バフ、試してみたいのである!」
「いろいろと足りてないこともあるけど、とにかくハンナさんに伝えてみるよ」
「うーん。じゃぁ、僕はリシトさんの状況次第で。とりあえずはメナールさん、お世話になります」
「あぁ、よろしく頼むよ」
ハンナさんに俺の気持ちだけでも伝えておかないとな。
◆
「──ハンナさん」
『どもッス!』
「おや、リシト。他のみんなは?」
「メナールのハウスに行ったみたいです。……えっと、ハンナさん。少しお話、いいですか?」
「? なんだい、改まって。あたしはいいけど」
俺はハンナさんに促されるまま、同じ受付内にあった椅子を借りた。
「その、……ハンナさんや、村の皆さん。大変よくしてもらっていて、感謝しています」
主に冒険者との関りが多いが、すれ違う人、モリクさん、解体屋のお兄さんに肉屋の店主。
みんないい人たちだった。
「なぁに言ってんだい! こっちこそ、あんたが来てくれて嬉しいよ。冒険者ってのは、戦えない者にとっちゃいてくれるだけで安心できるからねぇ」
「それで、その。宿もそうですし、食堂もなんですけど……。やっぱり冒険者が長期滞在するには、不可欠な施設だと思うんです。もし、ハンナさんや旦那さんがよければなんですけど……」
「?」
「──俺に、食堂を手伝わせてくれませんか?」
「! あんた……」
「……ただ、俺も冒険者の仕事を続けたいですし、まだ具体的にどう手伝えるのかまでは考えていなくて。朝昼晩、ずっとやるのは恐らく無理ですし」
それを考えると、宿の仕事というのは大変な職業だな。
「リシト、そこまで考えてくれたのかい」
「なんというか、俺。ハンナさんを助けたいという気持ちも、村のために冒険者を多く呼びたいって気持ちもあるんですけど……。一番は自分が長年培ったものを、誰かのためになるなら挑戦したい。……自分のためにも思ったんです。だから、もしここで出来なくても、自分で開いてみようとも思ってます」
そうだ。
ずっと、他人のためにと思ってやってきた。
長年続けていくうちに、それが自分の力となった。
……だから、いつの間にか『他人』と『自分』。両方のためになることになっていた。
「……はぁ、そんなこと言われちゃぁ断れないじゃないか」
「……! じゃぁ」
「あはは、もちろん。こっちからすれば、願ってもない申し出だよ」
「やっ──」
『いえええええい!!』
「正直、あたしのため、村のためだけにってんなら断ろうとも思ったけどね。あんたは冒険者だ。こっちだって、縛りたくはないよ。でも、リシトが自分でやりたいと思うってんなら話は別さね」
「ありがとう! ハンナさん!」
「──ただし!」
「『?』」」
「あんたの補助魔法。あれを掛けた料理を提供するってんなら、一緒に旦那のところへ行って聞いてみようじゃないか」
「!」
旦那さんに……会えるのか?
「ちょうど物を持ってくるよう頼まれてたんだよ。明日、一緒に行くかい?」
「あぁ!」
「じゃ、また明日。9時半に出発するよ」
『一歩ぜんしーーん!』
明日、か。
旦那さんになんと言おう。
二人が大切にしてきた食堂を、一時でも預からせてもらうんだから……。
ちゃんと伝えたいと思うこと、まとめておかないとな。




