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第三十話 『治癒の書』


「──モリク!!」

「うわ、びっくりした~」


 急いで村へと戻った俺たちは、ベルメラを抱えたままギルドへと飛び込んだ。

 セレ曰く、村には常駐の回復術師(ヒーラー)はおらずその大部分が冒険者頼りだったらしい。

 あいにく上級のポーションは貴重品で、ここにはなかった。

 ハイケアから来る、数少ない冒険者の中に回復術師(ヒーラー)がいないかを尋ねるようだ。


「……って、ベルメラ嬢!?」

「詳しい話はあと! 回復術師(ヒーラー)はいるかい!?」

「そ、それならちょうど」

「──急患です?」

「「!」」


 待合所から申し出たのは、麻色のローブを着た小柄な銀髪の少年。


「あ、あんたは?」

「……アビケイン。アビーでどうぞ」

「アビケイン? ……! 『治癒(ちゆ)(しょ)』だね? 助かったよ!」

「! 彼が」


 『治癒の書』アビケイン。

 たしか、スキルは【手当(てあ)て】。

 手に魔力を集中してかざすと、まるで本を読むかのようにその者の体の状態が頭に入ってくるらしい。患者の痛む箇所がわかるみたいだ。


 王都や大都市には拠点をおかず、地方を周っていると聞いた。


「! ……っ」


 大声が響いたのか、腕の中のベルメラがハッと目を見開く。

 ギルドで醜態(しゅうたい)をさらしたと感じたのか、表情には悔しさが滲んでいた。


「奥に治療用の部屋がある。ベッドを使ってくれ」

「ありがとう」


 モリクさんが案内してくれた。




「【神のもたらす安らぎ(セイクリッド・ヒール)】」


 止血しかできなかったポーションとちがい、その上級の回復魔法は傷口まで癒した。

 ベルメラは安堵からか眠りについたようだ。

 起こさないようツークも大人しくしている。


「……ふぅ」

「ありがとう、アビー」

「いえ」


 よかった。

 ベルメラも、状況が状況でいつもみたいに拒絶するようなことはなかった。

 あとはゆっくり休息するだけだな。


「……お人好しだね」

「え?」

「! っ、独り言です」

「はぁ、一安心だね。わたしからも礼を言わせとくれ」

「いえ」


 それだけ言うと物静かな少年はベッド脇の席を立った。


「ちょ、ちょっと待っとくれ。礼を──」

「このくらい、なんてことないです」

「あ、だったら──」


 彼は冒険者。

 ここの状況を知らずに来たのなら、宿はともかく食事に関しては困っているだろう。


「もしよかったら、料理をごちそうさせてくれないか?」

「……あなたが?」

「俺はリシト。Bランクの冒険者なんだが、一応料理は得意なんだ」

「──!?」


 なぜか驚愕の表情で俺を見た。

 料理が得意って、……そんなにヘンか?


「……?」

「え、ぁっ、マジ? ……あ」


 マジ……?

 ずいぶん印象が……。


「──! ~~!」

「あ、帰ってきた」

「?」


 アビーの仲間だろうか?

 ……なんだか、ずいぶん張りのある声がギルドの待合所から聞こえる。

 ベルメラはセレに任せ、アビーに続いて俺も表に戻った。



 ◆



「──ハルガさん、病人いるから静かにしてよ」

「むぅ! それはすまなんだ!」


 盾職(タンク)だろうか。

 待合所に来れば、メナールと一緒に背が高くガタイがいい男性がいた。


「メナール」

「リシトさん、モリクから聞きました。お疲れ様です」


 ツークはハルガと呼ばれた人物に目が釘付けだ。

 ……彼に男の中の男を感じているのかもしれない。


「ほう、彼がリシト殿」

「どうも?」

「吾輩はハルガ! Bランク冒険者で、盾職(タンク)をしている! メナール殿に話は伺っているぞ! なんでも、素晴らしい補助魔法を駆使する付与術師だとか!」

「あ、はは……」


 圧がすごい。


「ハルガ、静かにしてくれ……」


 お、めずらしいな。

 あのメナールが砕けた言い方をしてるなんて。


「聞いてるかもしれないが、俺はリシト。Bランクで特技は料理だ」

「あの~、ハルガさん」

「む?」

「リシトさんが、僕に料理をごちそうしてくれるそうで」

「おお!?」

「よかったら、ハルガさんもどうぞ」

「よ、よいのであるか!?」

「だから静かにしてってば……」


 ちょっとお茶目なところがあるみたいだが、真面目でいい人そうだな。


「ちょうど昼時ですし、遠慮なく。あ、メナールも忙しくないなら」

「! で、ではっ。ご一緒させていただきます」


 今日はもう、ベルメラに話は聞けそうにないな。

 補助魔法についてはまた後にしよう。

 その間、べつにやれることと言ったら……一人で村にあいさつ回りか?


「……」

「どうした? アビー殿」

「いえ」

「すぐ近くなので、着いてきてください」


 俺たちは全員で宿に向かった。



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