第二十九話 VS バーンスパイダー
『ワフ!』
「こっちかい!?」
砦から見て南東。
獄炎鳥は北東にあたる岩場にいたので、こっちには初めてきた。
ヨミの森、二回目。
気を引き締めないと……。
南東はより山際に近い。
獄炎鳥がいたところよりも木々の背が高く、深い緑に覆われていた。
『ピィ!』
空から探索していたフゥが叫ぶ。
「!? ────ベルメラ!」
「!!」
『! やべぇッス!』
茂みを分け入った先に、彼女が倒れていた。
その髪色よりも赤黒いなにかが、彼女の足元に滴っている。
──血だ。
「っち。こりゃまたぁ大勢だねぇ!」
ベルメラが足を向ける先には、赤と黒の模様が禍々しい巨大な蜘蛛。
ルゥよりも大きなやつらが、十匹以上いた。
とにかく、ベルメラが危険だ──!
「【流星のような瞬き】!」
「! わたしにも……?」
やつらが押し寄せる前にさっと彼女の元に駆け寄ると、手には剣を抱いていた。
……魔術師ではなかったのか?
「……うっ」
「ベルメラ! 気をしっかり持て!」
出血からくる意識の混濁。
遠目では分からなかったが、バーンスパイダーの足先は鋭い。
そのせいか、肩と右膝あたりから足首までざっくりと斬れている。
かなり危険な状況だ。
「ベルメラ……!」
すぐさま横抱きにしてセレの元へ運べば、うっすらと瞼を開けた。
「……ぅ、セレ、おねぇ……さま……?」
「しゃべるんでないよ。すぐに戻るからね、大人しく待ってな」
自分の【収納】からポーションを出したセレは、ベルメラに一口飲ませた。
よかった。とりあえず血は止まったみたいだ。
「ツーク、なにかあれば転移で彼女を守ってくれ」
『お任せッス!』
地面に降り立ち、ツークはベルメラの傍でいつでも転移できるよう彼女の肩に触れる。
「……さぁて、リシト。準備はいいかい?」
「あぁ、いつでも」
バーンスパイダーというのは、Cランク相当。
ベルメラにとって相性は最悪であるが、一体一体はそう強くはない。
厄介なのは、耐火の糸で戦術が制限されることと、その数。
鑑定で見てもそれ以上の情報はなかった。
キシキシとゆっくり横に広がり、俺とセレを取り囲んだ。
「リシト、あんたの補助魔法。いいねぇ」
「ん?」
そう言ったセレは──目の前から消えた。
「!?」
「気に入ったよ。わたしとフゥはかく乱係。詰めはルゥなのさ」
『ピィ!』
いつの間にか奥の茂みにいたセレ。
両手には短剣を携え、一匹のバーンスパイダーの脚を両側一本ずつ切断していた。
どうやらフゥの風魔法とのコンビネーションのようだ。
「ルゥ!」
『アオン!』
『キシッ?!』
わたわたと失った脚を気にするバーンスパイダーは、ルゥの闇魔法によって自分の影から攻撃された。
「まずは一匹」
すごい。メナールもそうだが、やはりAランクの冒険者とは俺と比べ物にならない能力を持っている。
「【雷のような猛威】」
「! また、わたしにも」
Cランクなら、補助魔法さえかければ俺の剣でもやれるだろう。
出番の少ない剣の刀身は、妙に光っていた。
「──っ」
もっとも近くにいた一匹目掛け、剣を振り下ろす。
……なんだ?
自分の感覚では力いっぱい振り下ろした。
多少の反動があるものと思っていた。
だが、実際に剣から伝わった感触はスパッと軽やかな感覚だった。
「ふだんからこう、簡単に斬れてくれるといいんだろうけどねぇ」
抜群の連携で次々に倒していくセレ。
「! おっと」
「【白の外套】!」
「え?」
他の仲間が俺たちの相手をする間、いつの間にか一匹があたりに糸を張り巡らせ、その糸に火を放つ。
細く気付きにくいそれはセレの動きを制限していたが、触れたところが火傷する前に俺の魔法によってかき消された。
「今のは……」
「大丈夫か?」
「あ、あぁ。ありがと!」
数は多いが、俺とセレは対処できる範囲だった。
最後の一匹をセレが仕留めると、バーンスパイダーもそのままにベルメラの元へ急いだ。




