第二十八話 約束のドレス 【ベルメラ視点】
「はぁ……」
嫌になりますわ。
セレお姉さまったら、なんであんなおじさんと……。
昨日はせっかく、一緒にバーンスパイダー討伐にでもと思いましたのに……。
「ハイケアのギルドと協議して、往診の回復術師の手配もしなければなりませんわね……。……はぁ。やることは山積みですわ」
それもこれも、長期間滞在する冒険者の数が減ったため。
わたくしの力だけではもちろん、この村を維持なんてできませんもの。
「でも、お姉さまが盗賊を退治してくださったのは助かりましたわね。多少の間、牽制にはなりましょう」
早いところ村の体制を立て直して、以前のように住民が安心して暮らせる村にしませんと!
「あら」
「あ、ベルメラさまだ!」
「ベルメラさま、おはようございます。お出かけですか?」
お転婆少女のミリィに母親のリリィ。
バスケットを持っている様子を見るに、父親の畑でピクニックかしら?
「ごきげんよう、ミリィにリリィ。相変わらず元気でなによりですわ。
わたくし、これからギルドに向かうところですの」
とりあえずはモリクに話を通しませんとね。
「まぁ、お仕事でしたか。いつもありがとうございます」
「これくらい、冒険者たる者当然のことですわ」
「ねぇねぇ~、ベルメラさまぁ!」
「なんでしょう」
あ、あら? ミリィと言えば……。
そういえばわたくし、何か忘れているような……?
「ミリィね、もうすぐたんじょうびだよ~! おぼえてる~?」
「っ!?!?」
そ、……そうでしたわーーーー!!??
「え、えぇ! もももちろん、おっ覚えておりますわ!」
最悪ですわ……。
冒険者が出払ってからというもの、依頼に村に商品の裁縫に、忙殺されて忘れておりましたわ。
お出かけ用のドレスを作ってあげると約束していましたのに!
「こら、ミリィ。ベルメラさまは忙しいんだから」
「お、おほほ……。かまいませんのよ」
どっ、どうしましょう。
たしか、ミリィの誕生日は明後日……。
うちの者のスキルで間に合わせるにしても最短二日……ギリギリ。
そもそもの話、商品に使ってしまいましたから糸がありませんわ。
「え、ええっと、ミリィ。その、実は糸が……」
「あたし、パパとママといっしょに、ドレスをきてハイケアにいくの、すっごいたのしみなんだ~!」
い、言えませんわ……!?
「……? ベルメラさま、もしや糸が足りないのではありませんか? 前回セレさんがお見えになったのは先月ですし」
「え、ええと」
さすがは母親、鋭いですわね……。
「どうか、ご無理はなさらずに。私どもはベルメラさまに既に多くのことをしていただいてますから。ドレスも、余裕のある時に作って頂けるだけで大変嬉しいです」
「えぇ~?」
「こーら、我慢なさい」
くっ、……子供の前で、夢のないことを言うなんて……!
貴族の子女たるもの、高潔でありませんと!
「おーっほっほっほ! ミリィ、いいこと? このわたくしに、不可能はありませんのよ!」
「わぁ! さっすがベルメラさまー!」
「べ、ベルメラさまっ? その、バーンスパイダーは……」
「ちょうど今から討伐に行こうと思っていましたのよ。さっそくギルドへ向かいますわ! では、ごきげんよう!!」
「いってらっしゃ~~い!」
見てらっしゃい、ミリィ。
真の冒険者たる者、歩みを止めることはありませんのよ!
……あ、でも。さすがに剣は持っていこうかしら……?
一度家に帰りましょう。
「あれ? ギルド、そっちじゃないよ~」
「……? ご自分が糸を採取するときに、ギルドなんて通してたかしら?」




