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第三話 相棒ツークさまのご提案


「さてさて、どうする? ツーク様」


 飯屋を出て再び王都の街並みに溶け込む。

 宛てもなく歩くが、不思議と冒険者ギルドに足が向かうのは職業病だろうか。


 わざとらしく今後の方針をツークに聞けば、真剣に考えだした。


『そっすねぇ……。オレっち、アニキはもうパーティ組む必要はないと思いやすがねぇ』

「というと?」

『アニキは他人を(おもんばか)りすぎなんですって!』

「ハハハ、難しい言葉を知ってるなぁ」

『もー! はぐらかさないでくだせぇ!』


 肩から頭にチョロチョロと登りツークは不満を口にする。


「でも、そうだな。俺はもともと、依頼ごとにパーティを変えてたくらいだ」

『懐かしいッスねぇ~』

「そう何度も同じ者と組んだことはないが……、彼らも元気にしているかな」


 過去たまたま依頼で組んだ者の中には、今や最高のAランクに達する者までいる。

 彼らの方が俺を覚えていることはないだろうが、また会えたらいいな。


「……というか、王都である必要もない。か?」

『心機一転ってヤツですかぃ?』

「それもあるし、俺はずっとここを拠点にしてるからな。

 たまには遠くに行くのもいいかもしれん」


 単純に依頼の数や利便性で離れなかったが、これを機に他の場所に根付くのもいいかもしれない。

 サポート役に徹するあまり、『自分がどういう依頼を受けたい』、『自分がどうしたい』という気持ちが湧いてこなかったこともあるかもな。


『だったら田舎はどうですかぃ? ハウスも王都よりもっと安いでしょうし』

「ふむ。……だが、最低限ギルドはあってほしい」


 一応貯蓄もあるにはあるが、それでも多いとは言えない。

 移住しても冒険者稼業を辞めることはないだろう。

 物価のことも考えると、大きな街からそう遠くない場所がいいな。

 うん。そうしよう。


「ギルドの地図を見て決めるか」

『ぃよっしゃぁ! いきやしょう!』


 進路を変えずに俺とツークはギルドを目指した。



 ◆



「う~~~~ん」

『迷いやすねぇ』


 王都のギルド。

 他の建物に比べ、とてつもなく広いここは王都屈指の人々が集う施設。

 街中に負けないくらいのざわめきが響き渡る。

 依頼を受ける者。集う者。情報交換。

 冒険者たちにとって必須の施設は、俺にとっても馴染みある場所だった。


 俺とツークは冒険者たちに紛れ一階の依頼ボードの横にある、張り出された大きな国内地図を眺めていた。


「王都からの距離はどうでもいいが、物の手に入り易さと価格を考えると……」


 王都はベレゼン王国のほぼ中央。

 この国は南方がパキア海に突出するような形状で、俺は南方の村出身だ。

 できれば住んだことのない地域がいい。


『なら、南東の交易都市ハイケア付近ですかねぇ?』

「ハイケアか。王都から馬車で四時間の距離。海に面した都市だな」


 王都には周辺で獲れる肉や野菜は溢れているのだが。

 新鮮な魚介類は、氷魔法や空間魔法といった手間が必要になるので若干高い。

 だいたいの店は乾物で提供している。


 海に面した都市が近いなら、アリだな。


『べべべべつにオレっち、思う存分魚が食べたいとかじゃぁありませんぜ!?』

「なにも言ってないだろ」

『──アッ、ここなんてどうですかぃ?』

「ん?」


 ツークが尻尾で示す先は、『ルーエ村』。

 東の隣国ともさほど遠くない、ハイケアからは更に東へ馬車で一時間弱の距離だ。


「ルーエか……」

『なぁんか、名前に見覚えが……』


 ハイケアには依頼で何度か足を運んだことはあるが、ルーエ村には行ったことがない。

 だがその名前には俺もツークもどこか聞き覚えがあった。


「依頼票で見たとかか?」

『ですかねぇ』

「場所的にはイイな。ギルド職員にルーエ村のこと聞いてみよう」

『オー!』




 依頼用とは別の受付の列に並ぶ。

 前には三人ほど並んでいて、みな初心者のようだった。


 冒険者にとって、情報収集は基本。

 ギルドの機能をうまく利用しているな。


 ……っと、こういう目線がおっさんと言われるんだろうか。

 どこまでが『余計なお世話』になるか分からない。

 気を付けないとな。


『アニキ、アニキ』

「ん?」


 俺の頬を尻尾でツンツンすると、ツークは隣の列を指した。


「あれは──」

『前に一度だけ組んだ、『魔法剣(まほうけん)』のメナール。くそぅ、相変わらずイケメンだぜ』


 前後に並ぶ男からは妬みの視線、女からは羨望(せんぼう)の眼差しを送られる金髪の男。

 騎士のような恰好をしたそいつは、スキル【魔法剣】で無属性以外の魔法を剣に宿すことができるソロAランクの男だ。


 強いだけでなく顔がイイことでも有名。

 パーティを組まないのではなく、トラブル回避のために組めないのではないか? というのが男の冒険者たちの間で囁かれている。

 実際のところは不明だ。


『アニキ、元気だしてくだせぇ! オレっちはアニキの方がカッコイイって思ってやす!』

「ハハハ……」


 やめるんだツーク。


 あんな王子様然とした男に、くたびれたおっさんが敵うわけない。

 俺の茶色の髪なんて、いつ切ったかも忘れたほどボサボサにさせたままだ。


 あぁ、惨め……。

 まぁいいんだ、俺は別にモテたいとかないから。

 ……たぶん。


 そうこう話していると、俺の番になる。


「──次の方~」

「あ、はい」

「あら。リシトさん」

「お久しぶりです」


 いつもは依頼の列に並ぶのだが、短い髪が似合う女の子に対応してもらうのは久しぶりだ。

 ツークは余所行(よそい)きモードで大人しくしている。


「今日はどうされたのですか?」

「その、移住を考えてまして」

「……はい?」

「ルーエ村のことを教えていただけないかと」


 ぽかんと口を開けたままの受付の女の子。

 なんでだ。ルーエ村ってそんなに田舎なのか?


「え、ぁ、あの。失礼ながら『風神の槍』は──」

「おっさんの俺に出来ることはもう全部やり尽くしたみたいで。今朝……」


 あんまり元の仲間をわるく言うのもなぁ。

 かと言って自ら辞めたとも言いたくはない。

 ここは言葉尻を濁して、「察してください」だ。


「────ッ、ハァ……」


 額に手をあて、うな垂れる。

 なんでだ。


「あの」

「……リシトさんはよくやっていたと思います。ほんっっっとーに、お疲れ様でした」


 三人の問題点は、浪費癖だけではなかった。


 他人との対話も得意ではなく、リーダーはウェントだったが俺が交渉事を担当したのもそのため。

 依頼料にケチをつけることもあり、ギルドの職員はあいつらの横暴な態度に辟易(へきえき)していたようだ。ギルドはあくまで仲介者なんだがな……。


「いえ。もう過ぎたことなので」


 というか今朝の出来事を思い出したくないだけなのだが。


「いや、本当に。リシトさんが面倒見てくださらなかったら、どんな問題を起こしていたか……。しかし、ついに野に放たれるのですね……」


 言い方が完全に危険生物のそれだ。


「アハハ……。王都の皆さんには長い間お世話になりました」

「こちらこそですよ、みんなで盛大にお見送りしたいくらいです!」

「気持ちだけ受け取っておきます。また来ることもあるでしょうし」


 一番世話になった前のギルドマスターには、退職時にきちんと礼をした。

 今は王国騎士団で魔物対策の特別顧問として働いているようだ。


「そうそう、ルーエ村ですね」

「はい。ギルドはありますか?」

「もちろん、ありますよ。人口は三百人ほどの小さな村ですが、立地から上位の冒険者が多く訪れるんです」

「…………え?」

『!?』


 上位の、冒険者……?

 大人しくしていたツークが体を震わせる。


「なっ、なにか危険な?」

「あ、リシトさんたちはここまで足を伸ばされてないんですね。隣国との間にある『ヨミの森』は、Cランク以上の魔獣が多いみたいですよ」

「『えーー!?』」


 俺とツークは互いに顔を見合わせた。

 まずいな。

 一応俺はBランクだが、Cランク以上がうようよする場所?

 やれる気がしない。


「リシトさんなら余裕ですよね」

「え!?」

「え?」


 どこを見てそう判断するんだ!?

 サポート役なのは知っていたはずだが。


「それに高ランクの方々はソロで動く方も多いですけど、募集すれば組んでくださる人もきっといますよ」

「まぁ、そうだといいが……」


 とりあえず、ツークと作戦会議だな。


「ありがとうございます、参考にします」

「はい。また王都へお戻りの際はお顔を見せてくださいね」


 受付嬢に礼を述べその場を離れた。


「……Cランクの魔物が、うようよ?」

『あ~~、それで名前に聞き覚えあったんですかねぇ』


 待機所であるテーブルとイスが用意されたスペースにて作戦会議。

 ルーエ村。

 聞き覚えがあったのは、あれだな。


 『俺たちが拠点にすることはなさそうだから、依頼元がルーエ村のやつはスルーしよう』ってことだな。


「たまに出るレベルならいいぞ? だが、……うようよ?」

『アニキならいけますって! 自信持って!』

「いやいやツークよ、俺だって命は惜しい」


 サポート役に徹してきた俺。

 Cランクの魔物と一対一ならいけるとは思う。


 だが、Bランクの魔物ですらパーティを組んで、かつ後衛でしか戦ったことがないんだぞ?

 腰に差した出番のあまりない剣に触れる。

 ルーエ村、やれる気が全くしない。


「はぁ。振り出しか」

『──いや、アニキ。そうとは限りませんぜ』

「ん?」


 なにやらツークはテーブルの上で短い手を組み、推理を始めたかのような真剣な顔つきになる。


『アニキにしか出来ないことをやりゃぁいいんですよ!』

「サポート役か? 高ランクの奴らに着いて行ける自信がないぞ」

『いえいえ、アニキ。オレっち、さっき閃いたんでさぁ』

「んん?」


 閃いた?

 あれか、高ランク冒険者に自分を売り込む方法?

 それともあれか、効果的なパーティ募集の仕方?


『アニキの補助魔法って、けっこー特殊だと思うんでさぁ』

「そうか?」


 速度に力、魔法耐性に物理耐性。

 あとは魔法効果上昇……うーん、至ってふつうの補助魔法だと思うが。


『なんたって、料理に付与できるじゃないですかぃ!』

「あぁ、アレな。みんな最初は不思議そうにするけど、けっこー喜ばれるんだよな」


 夜飯は帰還後に外で食べることも多かったが、依頼前の朝飯。それから休憩の昼飯。

 基本俺が手作りで提供していて、ついでだからと補助魔法を付与した料理を作ってたんだよな。

 そしたら俺も料理に付与してない魔法を戦闘中掛ければいいわけだし、重ね掛けが簡単にできる。


『オレっち気付いたんですけど、ポーションとかはあるのに料理には魔法が付与されるのってあんま見ないんですよねぇ』

「うーん、……言われてみれば」


 たしかに。

 ポーションみたいな回復魔法が付与されるのはよくあるけど……。

 補助魔法のはないか。

 『風神の槍』ではリリムが初級の回復魔法が使えてたんだよな。

 だからポーションもあまり使わなかったけど。


 それはきっと、あれだな。

 回復術師はパーティ必須レベルの職業だけど、付与術師はそうでもないから成り手の多さの問題だな。

 付与術師で料理が得意な奴、っていうピンポイントな冒険者がいないだけだろう。


『もしかして、オレっち商才があるかもしれやせん!』

「へ?」

『ソロの多い場所ならなおさら……、飯バフ食堂。いいんじゃないですかい!?』


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