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第二十七話 思わぬ来訪


「ふわぁ……」

『おっはよーございやす! アニキィ!!』

「……朝から、げんきだな」


 ご機嫌なのは、昨日の夜に食べた獄炎鳥の美味しさにびっくりしたからだろう。

 一つに選べなかったツークは、俺にいくつかの部位を買ってもらって満足そうだった。


「村に来て五日目、宿をとって四日目の朝か」


 この宿には一週間分の宿泊代を前払いしている。

 ……そろそろ動かないと。


『今日はセレ姐さんの店に行くんですかい?』

「あぁ。昨日先に言ったしな」


 着替えをしながらツークと話す。

 小さいテーブルの上で、朝食を頬張った口をもごもご動かしていた。


 今日はセレに、村のことや商いをする上で必要なことを聞かないとな。

 特に冒険者との両立。

 これができるかも重要なんだよな……。

 商業ギルドに登録が必要なんだろうか。


「っと。そういや、朝飯用の果物も切れそうだったな」

『オレっちはなんでも食べやす!』

「村で買い物できるといいな」


 解体屋の買取相場はハイケアより低いと言っていたが、購入価格もそうなんだろうか。

 肉屋は解体屋直営だったし、そんなに気になることはなかったが。


「じゃ、行こうか」

『ウイッス!』


 ツークは従魔仲間に会えるからだろうか。

 どこかご機嫌な様子で肩に飛び乗ってきた。



 ◆



「──おや、来たかい」

「おはよう、セレ」

「おはよ、リシト」


 宿のすぐ隣。

 三階建ての建物は宿ほど大きくはないものの、一階すべてが雑貨屋となっていた。

 魔道具に鍋、何に使うかは不明だが大きい網に水差し。

 とにかく、いろんな物が売っているようだ。


 ツークは『兄さん方と話してきやす!』というので、外にいたルゥの背中に乗せてきた。

 店に入ると商品をチェックしているセレがいた。


「今忙しいか?」

「いや? 上で父さんと店長が話してるから、店さえ出なければいいよ」

「なら、すまないが……色々教えて欲しいことがあるんだ」

「わたしで分かることなら、もちろんさ」


 俺はセレに諸々を話す。

 食堂のこと。俺の料理のこと。商売をしたことがないために不安が大きいこと。

 だが、ハンナさんやこの村の力になりたい気持ちが大きいこと。

 宿の力になれなくても、食堂を自分でやってみたい気持ちもあること。

 冒険者も続けたいこと。

 セレの立場的に、教えを乞うのに最適だと思ったこと。


「……へぇ? 料理に、補助魔法?」

「冒険者相手ならそれもいいと思うが、変なら通常の料理を提供するだけでも十分だ。付与術師として依頼を受ければ、必要とする者の力には十分なれるだろうし」

「いや、変っていうか……。リシトのスキルは、あの子たちに聞いたんだけどわたしと同じ【鑑定】なんだろ?」

「あぁ、そのとおりだ」


 ツーク、いつの間に。

 従魔たちの会話……気になるな。


「ってことは、後天(こうてん)魔法で付与してるんだよねぇ」

「メナールも不思議がってはいたんだが、後天魔法には詳しくないらしくてな」

「ふーん? あいにくわたしも魔法は不得手でねぇ。こりゃぁ、一度ベルメラに話を聞いた方がいいかもしれないね」

「……俺もそう思ったんだが」


 ぜっっっったい断られる!


「そう怯えた顔しなさんな。わたしも付いててやるからさ」

「……いや、うん。助かるよ」


 なぜだろう。

 ものすごく心強いはずなのに、結果が目に見えているのは。


「あと、食堂についてはあれさ。ハンナさんが断るわけないだろうし、値付けも仕入れも問題ないと思うよ。宿自体が商業ギルドに登録してるだろうから、雇われているって立場ならそのまま冒険者と兼任で問題ない。

 ……唯一、その、飯バフ? ってのをするんだったら、やっぱりリシトの補助魔法について魔法の専門家に聞いた方がいい。いくら料金を上乗せすればそれに見合うのかなんて、誰にも分からないからねぇ」

「やっぱそうか」


 うーん。俺は儲けたいからやるわけでもないんだが。

 かと言って、今後ほかの付与術師が同じような商売をするとしたら、俺が何も考えずにやってしまうわけにもいかない。


「父さんたちの話が終わったら、顔見せがてら村を案内しようか? パン屋に酒屋、農家の人もみーんな顔見知りさ」

「助かるよ」


 パン屋もあるのはいいな。


「生鮮はないけど、調味料や服、細々した雑貨はうちに置いてあるし。もしハイケアの商品で必要な物があれば、わたしがいるし。……ま、仕入れ先はそれほど悩まなくていいさ」


 となると……、やっぱり強化(バフ)付きの飯ってのが、どんなものなのかを俺自身が分かっていないとだな。


「……気は重いが、ベルメラのところにも案内してもらえると助かる」

「あいよ」


 はぁ。やるしかない。

 まるで討伐依頼前かのような緊張感だ。


「父さんにどれくらいかかるか聞いてくるよ」

「すまない」


 セレは上の階に行った。


『アニキィ、首尾はどうですかい?』

「お、ツーク」


 ルゥと共にツークも店内にお目見え。

 雰囲気あるダークシーカーの背に立つ姿は、さながら『ツーク様』だ。


「セレが村を案内してくれるってさ。冒険者の兼任も問題はないが、やはり食堂をやるなら飯バフの解明は必須みたいだ」

『ッスよねぇ』

『……クゥ』

『ルゥ兄さんも、興味あるみたいッス!』

「そうか。今度、機会があれば一緒に食べよう」


 ツークが俺の肩に飛び乗ったと同時に、ルゥの頭を撫でさせてもらう。

 ちょっと緊張したが、機嫌を損ねることもなくモフッとした毛を堪能できた。

 ……よし、次のステップは尻尾だな。


『──ピィ!』

「ん?」


 外でまったりしていたフゥが慌てて入ってきた。


「どうした、フゥ」

『フゥ兄さん、どうしやしたか?』

『ピィ、ピピ!』

『ふむふむ……。外でセレ姐さんを探している女性がいると』

「どうしたんだい?」


 ちょうどその時セレがシグレさんと共に階段から降りてきた。


「どうやら、セレを探している女性が外に」

「──セレさん!!」

「わっ」


 俺をとんっと押しのけて走ってきたのは、セレより少し年上の女性。

 慌てて店に入ってきたからか、胸を手で押さえ息を乱す。


「ど、どうしたんだい?」

「べっ、はぁ。ベルメラさま、は……?」

「ベルメラ? 今日は見てないけど」

「!? やっぱり──」

「ちょ、なにがあったか言ってごらんよ」


 セレが知らないと言えば、即座に(きびす)を返そうとする。

 どうしたんだ……?


「っうちの子が、はぁ。もうすぐ、誕生日でして……。ベルメラさまに、服を作っていただく予定に、っなってたん、ですけど……」

「それで?」

「いつもの糸が、足りないとおっしゃるのに……。あさってまでには用意するとっ、言っていただけて……。心配になって……」

「明後日? そりゃぁ無理だね。侍女たちのスキルがあるとはいえ、糸を紡いで、仕立て上げるなんて最低でも二日は──……まさか」

「はいっ! おそらく、お一人で……!」

「あのっ、バカ!」


 セレはハッと何かに気付いた。


「父さん! 店は任せたよ!」

「あぁ、気をつけてな」

「セ、セレ」

「リシト、あんたも手伝ってくれ! ベルメラはたぶん、耐火の糸を操るバーンスパイダーの巣に行ったんだ!」

「えぇ!?」

『そりゃぁ大変ですぜ!?』


 バーンスパイダー……聞いたことがある。

 自分が火属性の魔法を使うからか、その吐き出す糸は耐火性能が備わっていると。

 ってことは火属性の魔法は相性がわるい。メナールに任せるんじゃ……?


「いつもはわたしと行くんだよ。……でも、昨日の手前、言い出せなかったんじゃないかって」

「じゃぁ、俺の……」


 それって、直接的な理由じゃなくても、俺のせいなんじゃ……?


「なにバカなこと言ってるんだい。他人に素直に甘えられない、あの子の性格の問題さ。ほら、行くよ!」

「! あぁ!」

「フゥは上から! ルゥ! 匂いを辿れるかい?」

『ピィ!』


 フゥは元気よく外へ飛び出した。

 セレは頭のスカーフを外すと、ルゥに嗅がせた。


『オン!』


 ルゥは一吠えすると、駆け出す。

 俺たちは後れを取らないようルゥの後に続いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  とっても面白いです。料理の描写も美味しそう。何より多くのキャラが魅力的。ほのぼの系が好きなので、読んでてほっとするのと、次はどうなるの?ってスピード感を楽しんでます。
[一言] 何でもかんでも自分のせいにしたがる癖があるな、主人公。 この年まで生きてれば、大抵はこういう癖も落ち着いてくるもんだけど。 ある意味で自分は特別と思ってるってことですからね。厨二病とも言える…
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