第二十話 看板男と、みどりの鳥
「お、お疲れさん」
「どうも」
この村のギルドの……看板男? と言えばいいのか。
モリクさんは相変わらずの様子でメナールから依頼の報告を受けた。
ギルド内は変わらず閑散としている。
「討伐完了だ」
「! もうか?」
「リシトさんのおかげだ」
「いや、俺はほんとサポートばっかで……」
これは謙遜とかではない。事実だ。
「いや。それにしたってあのメナールに着いていけるのはすごいだろ。リシト、やるなぁ」
「ど、どうも」
モリクさんにそう言われると……、ちょっと照れる。
素直にうれしい。
「さすがに解体屋を休業にはしていないよな?」
「いや~。さすがに利用する冒険者が減って、話は出たんだがなぁ。
そこは、ほら。あのお嬢さんのおかげだ」
「お嬢さん?」
「ベルメラ嬢ですよ」
「! へぇ」
やっぱ、……村長なのか?
「そういやもうすぐセレも帰ってくるし、お前も離れる前にあいさつしたらどうだ?」
「そのことですが、ハウスもありますし……しばらくは私もこちらにいようかと」
「「え?」」
またしてもモリクさんと言葉が重なる。
メナールは俺のことを、なぜ? という目で見た。
なぜ?
「? ……あ、すみません。これは私の……勝手な、考えでした……」
途端にしょんぼりとするメナール。
「なにがだ?」
「その、村にはリシトさんもいらっしゃいますし……」
「俺?」
もしかして、まだ俺と組みたいと?
あれって獄炎鳥だけの話かと思ったんだが。
光栄すぎるほどの申し出だが、固定となるには俺の実力が不足しまくっている。
『あ、アニキィ。一応、言っておいた方が……』
「あぁ、そうだな」
「お、クロークテイル。かわいいな」
『フフンッ』
得意げな顔のツークは嬉しそうだ。
……あれ? 脱・かわいいを目指してるんじゃないのか?
「メナール。まだ、未定ではあるんだがな」
俺とツークは一週間宿を借りていて、その間に村や食堂の現状を把握。
もし可能であれば、ハンナさんに旦那さんが戻るまでの間食堂で働かせてもらえないかの提案をしようと考えていることを伝えた。
「だから、その。冒険者として依頼を受けるとすれば、食料調達を兼ねたものになりそうなんだ」
討伐依頼は受けなくても肉屋があるらしいし、採取依頼がメインになるかもしれないな。
「なるほど……。そうだったのですね」
「へ~、飯バフ屋ねぇ。物体に補助魔法なんて、スキル持ちか? 冒険者を預かる身としちゃぁ、願ってもない商売だがなぁ……期間限定だとしても、需要はあると思うぞ」
メナールも言っていたが、やっぱり料理に補助魔法を掛けるって……珍しいみたいだな。
『好感触! やるしかねぇですぜアニキ!』
「いや、まぁ、うん。求められるのは素直に嬉しいんだが」
商売として料理を作ってきたわけじゃない。
【鑑定】のおかげで、食べたらヤバい食材を提供することはさすがにないけど。
「全部の食材を自分で調達するのは限界がある。村でどういった食材が生産・販売されているのか。仕入れるならいくらで、料理はいくらで提供すれば儲けがでるのか。ここに無い物で、ハイケアでは入手可能な物がどれくらいあるのか。……まぁ、確認すべきことはたくさんだな」
ハンナさんに、旦那さんの仕入れルートを教えてもらうにしても。
……よそ者の俺に、いきなり卸してくれるとは限らないよなぁ。
「なんにせよ、村の人に認知してもらうところから……か?」
『ヤベェ……アニキ、めっちゃ考えてたんですね!? さすがッス!』
「素人考えだよ、ツーク」
冒険者だろうが、村人だろうが。
よそ者がいきなり商売したところで、安心して食堂を任せてもらえる人物かどうか分かっていないと、そもそも客が来ないだろうし。
旦那さんが長年培った信用ってのを、俺が貶めるわけにもいかないし。
万が一ハンナさんのところで働かせてもらえなくても、自分で店を開く可能性を考えると……なおさらな。
「んじゃぁ、ますますセレが帰ってくるタイミングなのはいいことだな。あいつは──」
『ピピィーー!!』
「! なっ、なんだ?」
モリクさんが言いかけると、ギルドの入り口から高い音と共に何かが飛び込んできた。
「フゥ?」
「ふぅ?」
「ヴィトラスという、風魔法が得意なセレの従魔。名前が『フゥ』です。……なぜここに?」
そう呼ばれた鳥? を見れば、緑色の羽で覆われた体。
胸元と尾に黄色いアクセントが入っている。
目元は白で縁取られ、体はちょっとツークより大きいくらい?
ツークみを感じるかわいらしい従魔だ。
『ピィ! ピピピィ!』
そのフゥとやらがカウンター上で、翼をはためかせモリクさんに懸命に何かを訴える。
「……? ハイケアから文書を携えてくることはあるが……、何も持っていないな?」
「彼女になにかあったのでは?」
「急いでフゥだけ送ったとすれば、あり得る」
「ツーク、通訳できるか?」
『ヴィトラス……、はじめてお目にかかりやすが、お任せぇ!』
俺の肩からピョンッと降り立って、必死に訴えるフゥと話し始めた。
『ふむふむ、……! アニキ、たいへんです! 荷馬車が盗賊に襲われたらしいッス!』
「! 盗賊!?」
「私が行きましょう」
「頼む」
「俺も行くよ」
さすがにAランク依頼のあとで、盗賊相手にしり込みするわけにもいかない。
「ハイケアと村を行き来する冒険者が減ったことを聞きつけたか」
「最後に彼女がこちらに駐留したのは三週間前ですからね」
食堂休業の問題が、まさかそう言うところにまで……。
「魔物とちがうのは、人間ってのは知恵が回る。騎士団の警備も逃れたか」
「リシトさん、行きましょう」
「あぁ!」
俺とメナールはフゥに案内を頼み、ハイケアとルーエ村の中間地点だという現場へと急行した。




