第十九話 火力強めの女の子
『いやっふううううう!! 肉肉肉肉、ニクー!』
「ツークってば、真っ先に獄炎鳥を収納するんだもんな」
ふらふらと目を回していたというのに、それだけはしっかりと忘れなかった。
「王都ほど大きくはありませんがギルドと解体屋は併設されているので、買い取り可能ですよ」
「肉分けてもらえるかなぁ」
「どうでしょう? 解体屋直営の肉屋が別にありますが……、交渉次第でしょうね」
お、肉屋があるのか。
それはよかった。自分でミンチにするの、けっこう疲れるんだよな。
部位ごとにきれいに分けられたものを買ってもいいな。
「ふぅ。帰ってきましたね」
あのあと俺たちは、念のため獄炎鳥の仲間がいないか確認するために、岩場で夜を明かした。
前とまったく同じ……とはいかないけど、夜食にスープを作ってあげてメナールは喜んでくれた。
「はぁ、なんとかなってよかったよ」
『アニキ、さすがッス!』
「リシトさんのおかげで楽ができました。感謝します」
「ほんとメナール、謙虚だなぁ」
「本当のことなので」
自分に自信を持たなすぎるのもあれだけど。
Aランクだからと威張らないメナールは、一緒に組む者として非常に気が楽だ。
メナールこそ、後継を育てるのに向いている気がする。
ウェントたちにも見習ってもらいたいものだな。
「────ちょっと!」
「「ん?」」
村の入り口に差し掛かると、遠くから女性の声が聞こえた。
「……なぜ彼女が」
「だれ?」
入り口の看板を挟んで村側から、淡い薔薇色の髪が美しい女性が歩いてくる。
「メナール・アイレ! そのおじさんは、なんですの!?」
「お、おじ……」
『あわわわ、アニキッ。元気だして……』
いや、うん。間違いじゃないんだけどな。
メナールと同年代と思われる女の子にそう言われると……ちょっと傷つく。
ツークがあわてて頬を撫でて慰めてくれる。
「ベルメラ嬢、失礼だ。彼に謝りたまえ」
「あーら、わたくしが? なぜ?」
「彼はリシト。れっきとしたBランクの冒険者。我々の同輩だろう」
「同輩、ですって? 料理人ではなかったのですわねぇ?」
疑うような眼差しを向けられる。
料理人……?
あ、あれか。昨日食堂で人の気配がしたのは……、彼女だったのか。
というか、ベルメラといったか。
組んだことはないが、聞き覚えがある名前のような……?
「リシトさん、あちらの女性はベルメラ・ディアバートン。通称『灰塵』のベルメラと呼ばれています」
「……あぁ! 『灰塵』か、聞いたことがある」
火属性耐性と炎を自在に操る効果がある【炎帝の加護】。
たしか、加護系のスキルでも最強レベルのスキルなんだよな。メナールと同じAランク冒険者。
そんで、たしか子爵令嬢だという変わった来歴の持ち主だ。
メナールの過去を聞いたあたりから、冒険者に貴族がいても驚かなくはなったけど。
ギルドで聞いた村に住むAランクの魔術師……。
つばの広い魔術師が好む帽子をかぶってるし、彼女のことで間違いはなさそうだ。
「気安く呼ばないでくださいます?」
「あ、すまない」
……けっこう、気が強そうな女の子だな。
スタイル抜群の綺麗な子にそう言われると、おじさんは何も言えないよ。
というか話すにしてはちょっと離れすぎてやしないか?
普通に話す距離の五倍くらいは離れている。
おじさんには近づきたくもない?
……かなしい。
「はぁ。あなたは、いい加減にしないか」
「ふん。どうせ使えない男なんでしょう? この村に連れてくるのなら、せめて役立つ者にしなさいな」
「わー……」
Aランクの実力を持つ彼女にそう言われたら、反論の余地もない。
彼女から見れば、俺は確かに役に立たない男だ。
「リシトさん、申し訳ない。彼女の非礼を詫びます」
「い、いや。いいよ」
「おじさん? 村に来るのは勝手ですけれど、わたくしたちの手を煩わせないようお気をつけくださいな」
「気を付けます……」
……もしかして、村のことを想った言葉が多いし、実は村長だったり?
それとも、子爵令嬢だからなのか。
貴族の考えなんて分からないからな。
「では、ごきげんよう」
言いたいことだけを言って、長い髪を翻した彼女は去っていった。
嵐のようだったな。
「本当に、申し訳なく」
「い、いや。彼女からすれば、たしかに俺は役に立たないだろうし……」
というか、メナールが謝ることでもないし。
「彼女は、その。いろいろありまして。村人以外の男性のことを過剰に嫌っているのです。私は彼女が受けない依頼を回されたりしますので、幾分か話が通じますが」
「そうだったのか」
「リシトさんが特別嫌いだとか、そういうのではありません」
メナールにもいろいろあったみたいだし……。
彼女もきっと、過去になにかあったんだろうな。
「そうか。貴族のご令嬢だと聞いたことがあるし、いろいろあったんだろうな」
「はい。ですので、彼女の強い口調は気になさらず」
「そうするよ」
彼女に何があったか直接聞くわけにもいかないし、メナールもなんだか言いづらそうだ。
気にしない。
よし、これでいこう。
「あ、そうだ。メナール、あとで一緒に食堂に来てくれないか?」
「? はい、特に他の依頼もありませんので、構いません」
「とりあえずギルドに行こう」
『にくうううぅぅ!』
「ツークは食べることしか考えてないのか?」
『ヘヘッ』
思いがけない人物と遭遇したが、ひとまず当初の予定通りギルドを目指した。




