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第百十一話 散らぬ花

更新お待たせいたしました……!

あとがきにコミカライズについてのお知らせがございます!


「『うおーーーー!!』」

「見事である!」


 Aランク冒険者二人の勝敗が決した。

 ひらひらと優雅な身のこなしで翻弄したミゼル。

 だが、メナールはその動きすらも自らに取り入れ勝ちを掴んだ。


「メナール……!」

『やっぱスゲーッス!』


 ツークとハルガさんと拳を合わせて喜ぶも、俺たちの反応とは裏腹に会場は女性の悲鳴で満たされていた。



「──マイ・ローズ達よ!!」



 と、ミゼルが魔抗剣を返還したその手を天へと掲げ、観客らに向け大声で言葉を放った。

 彼の声を受け、女性たちの悲鳴がぴたりと収まる。


「おれは強く、そして美しい……。だが──」


 一呼吸置くと、ミゼルはその表情を妖艶な色気あるものへと変貌させた。


「双璧を担う者がいるということは、おれの……この未知を秘めた可能性を、さらに高めてくれるということ。おれはもっともっと、今以上に強くなれる! ……そうだろう?」


「「キャー‼」」


『色々すごいッスね……』

「ポジティブというのか、なんというか」


 だが、彼の『今以上に強くなれる』という言葉は、きっと間違いじゃない。


「勝利を届けるには至らなかったが、潔く負けを認めよう。このひと時が……君たちにとって甘美なものであることを願う」

『え~っと、勝利者にお言葉をいただきたいんですが……』

「また会おう」

「「ミゼル様―! 素敵―!」」

「メナールが勝ったんだよな……?」


 あれだけの激戦をメナールが制したはずなのに、女性たちの人気ぶりが凄すぎてミゼルが勝ったように錯覚しそうだ。

 マントを(ひるがえ)し、再び天より薔薇の花びらを舞わせ、颯爽と退場するミゼル。

 進行役も複雑そうな顔をしながら、なんとか言葉を絞り出す。


『え、えーっと。気を取り直しまして! 優勝されたメナール・アイレ選手にお話をうかがいましょう!』

「メナール」


 兄との一件以来、誰かと競うことを避けていたメナール。

 勝利がもたらすものが、喜びだけではないと若くに経験してしまった彼は、一人黙々とその腕を磨き、魔物相手に披露するに留めた。


 でも、今日。

 彼は、晴れやかな顔で人々に勝利を祝われている。

 いつも俺に自分を大切にしてほしいと言ってくれるが、彼だってそうだ。

 素晴らしい剣の腕と信念を持ちながら、騎士団の者に卑怯者というレッテルを貼られ、それを甘んじて受け入れ続けた。


 だが今日の姿を見ていると……。


「よかったな」

『ほんと、強いッスね~』


 村での経験が、少しずつ彼に良い影響を及ぼしているのかなと。

 俺は彼の変化がどこか嬉しく思えた。



 ◇◆◇



「おめでとう、メナール!」

『おめッス!』

「ありがとうございます」


 優勝者に送られた、白い花──ミルトスの花冠。

 可愛らしい装具が、かっこいいメナールとのミスマッチを生んでどこか眼が離せない。


「うむ! めでたいであるなぁ!」

「メナールの強さはもちろん分かってたが……なにか、大会に向けて対策とかあったのか?」


 素朴な疑問を投げかけると、意外な答えが返ってきた。


「そうですね……策は、特に。しいて挙げれば、アドル殿との鍛錬の成果でしょうか」

「へぇ」

「……前に言いましたよね。私は、兄のことを……よきライバルであり、よき友だとも思っていたと」

「ああ。言っていたな」


 ヨミの森で獄炎鳥討伐依頼中。

 彼の過去の出来事を聞いた際、たしかにそう言っていた。


「私にとってそれは……喜びや楽しさを共有するものでもあるのですが、しかし同時に悲しみや悔しさをも共有できるのだと。そう考えていました」

「メナール……」

「アドル殿の全てに敬意を持っているわけではありませんが……しかし、通ずるものもある。彼に勝てば自分の成長を実感し、負ければそれを闘志へと変えられた。普段、共に過ごして居心地が良いとは言えない相手ですが、剣の鍛錬に関しては考えが一致しているんです。だから──」


 伏せた眼を力強く上げて言った。


「兄に剣の腕で勝てなかった頃、悔しさはあれど恨んだことなど無かった。初めて彼に勝った時、難しいこと等考えず、ただひたすら嬉しかった。自分の努力への否定は、私から剣の腕を磨く理由だけでなく、楽しさや嬉しさも奪っていました。……他人がそうであるからといって、自分がそうである必要は……無いんですよね、きっと。アドル殿との鍛錬は……彼が、とてもハッキリとした性格であるのも幸いして、楽しいのです」


 つまり、アドルとの鍛錬で。

 本来人に勝利することで得る喜びや自分の成長というものを実感して、過去のトラウマと向き合ったのか。


「村に来て、……いい出会いがあったな」

「……はい」


 俺ではメナールの剣の相手は務まらない。

 目標がずっと身近に居てはっきりとしていた幼いメナールは、その目指す先であった兄からの仕打ちに大層失望したことだろう。


 でも大人になった今、彼は色んな者から多様な学びを得ている。

 一つ一つは兄ほどの大きな支えでは無いかもしれないが、その分何かで(つまず)いたとしても、きっと立ち直りも早いはずだ。


「メナール殿もさすがであるが、ミゼルマイド殿もなかなか」


 ハルガさんは唸るように言うと、何かに気付き背後を振り返った。


「なかなか見る眼のある御仁のようだな」

「ミゼル!」

「……」


 颯爽と現れた彼に、閉会後も余韻に浸っていた観客たちが慌てて道を開けていた。


「メナール・アイレ」

「?」

「次は必ず……おれが勝つ」


 何故か俺と眼を合わせるミゼル。


「元は他人の名誉のためだったはずが……君自身の名誉をも守る。おれとは違う道だが、君の強さを引き出すのならば何でもいい」

「! 強さと言えば……」

「なんだ? リシト。おれの強さの秘訣か?」

「そうそう。メナールにも聞いたんだが……大会に臨むにあたって、なんか対策とかしたのかなって」

「対策? ふっ……」


 俺の言葉を受け、ミゼルは嘲笑うように言った。


「おれの強さに秘訣などない。おれが、おれであるがゆえ……」

「やっぱそうだよなぁ。ミゼル、元から影の努力家だし──」

「ちょ、ちょーっと黙ろうかリシト!?」

『ぴゃっ』

「ん?」


 そういえばこんなやり取りが村であったなと思い出した。

 勢いよく腕を組まれ、肩に乗っていたツークが地面へと退散する。


「(勝敗ついたばっかだし、今モテる必要は無いだろ?)」


 ひそひそとミゼルに声を掛ければ、慌てた様子で言った。


「(こういうのはだなぁ! し、真に強く美しい者というのは、それをひけらかさないのだよ!)」

「(うーん)」


 たしかに。

 泥臭い部分というのか、そういう所を見せない。

舞台俳優でもあるから、輝いている自分だけを見せるというのも、カッコいいのはカッコいいのだが……。


「でも、そこもミゼルの良いところだと俺は思うんだよなぁ」

「ど、どこが──」

「だってほら。強者であればあるほど、上を見ても目標となる者が少なくなるだろ? 追われる側になるというか。つまりミゼルは、慢心せずにずっと過去の自分を超えたいと思いながら努力しているんだろうな。すごいよ。俺ならAランクになった時点で、『もういいか』って満足しちゃいそうだし」

「!? ま、まったく……! 分かってないなぁリシト! 相変わらず、自分の魅せ方というものを分かっていない……!」


 どこか焦りながらも、あくまで自分のスタイルを貫くミゼル。


「まぁまぁ。それに、既にミゼルのファンである女性たちは、きっとそういう一面を見ても失望どころか親近感を持つと思うけどな」

「……ふ、ふん。そこまで言うなら仕方ない……」

「え?」

『なっ、なんですかねぃ……』


 また突然何かを言い出しそうなミゼル。

 ゆっくりと肩に戻ってきたツークも不安気だ。

 腕を組み、閉じた瞼をカッと見開くと、ミゼルは言った。


「幸いにもまだおれのスケジュールには余裕がある……。俺が君に──モテ講座を実施してやろう!!」

「『も……モテ講座!?』」

「また余計なことを……」

「ハッハッハ! それも強さの秘訣なのかもしれないであるなぁ!」


 思いもよらない提案に、俺もツークも顔を見合わせた。


「そうだな……、まずはこの美しきハイケアで、ショッピングといこう!」

「ショッピングかぁ。……そういえば、メナールやハルガさんが武具の手入れに行ってる店、気になるな」

『ショッピングって、モテと関係あるんですかねぃ?』

「リシトさん、嫌なら嫌だとハッキリ言ってあげた方が良いですよ」


 帰ってメナールにスープを作ってあげようと思っていたところに、思わぬ予定が入ってしまった。


【お知らせ】

いつもお読みいただきましてありがとうございます。

この度大変ありがたいことに『飯バフ食堂、盛況なり~』のコミカライズをしていただくことになりました!

漫画をご担当いただくのは白樺鹿夜先生です!

現在コミックシーモア様で先行配信となっております。


もう是非、是非!皆様にもお読みいただきたいです……!

白樺先生には作中設定や三登いつき先生のデザインを大切にしていただきつつ、先生の想像力で世界観の多くを補完、あるいは発展していただきました。

本当に感謝です。


特にこのシーンをオススメしたい……と言いたいところなのですが、キャラの表情や料理、小物に背景等々。全ページ推したいポイントが多すぎて、『全部好き』という言葉に集約されてしまいます。


どうしても一点絞るとすれば、全体を通してリシトのコマに一緒に映り込む可愛いツークにご注目ください(笑)


ストーリー自体を分かっていても漫画の展開としてドキドキしたり、『何でだろう?』となったり。

私自身これを小説の媒体ではどう表現すればいいだろうか等、楽しい感情と共に考えるきっかけにもなり本当に多くの学びとなっております。ありがたいことです。


私の方は書籍三巻作業が終盤、これより先の展開を考えている最中なのでもう少々お時間いただいて定期連載再開となる予定です。

リアルが少々立て込んでいたので、webもお読みいただいている皆さまにはお待たせしてばかりで恐縮です。


TOブックス様のX上には、数ページ漫画の試し読みもございます。

ぜひコミカライズをお読みいただきながら、続きをお待ちいただけましたら幸いです。


いつも応援ありがとうございます。


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