第百九話 好敵手
『勝者──メナール・アイレ選手!!』
「『おーー!!』」
俺もツークも、凄まじい攻防を繰り広げたメナールとアドルを拍手で称えた。
「いやはや……メナール殿もさることながら、アドルファス殿も素晴らしい使い手であるなぁ!」
試合は終始互角の展開だったが、僅差でメナールが勝利した。
会う度に少々言い争いは発生するものの、二人は時間を見付けて剣の鍛錬も共にしているし、いいライバル関係となっている。
若者の成長は喜ばしいな……!
「「ミゼル様―!!」」
「お」
次いで、余韻に浸る間もなくミゼルとBランク冒険者との試合。
やはりというか、Aランク冒険者の名は伊達じゃない。
危なげなく勝利をおさめたミゼルは、会場の歓声を独り占めにした。
『ってコトは』
「うむ。いよいよ……」
「メナール対……ミゼル!」
次はいよいよ決勝戦。
ルーエ村でミゼルが、ハイケア祭にてメナールと戦う……と宣言したものの。
実際にそうなる実力を兼ね備えているのだから、本当に二人ともすごい。
特にミゼルは普段とは勝手の異なる武器。
舞台俳優としてあらゆる武器を扱ってきたとはいえ、実践でも同様に使いこなすのは戦闘のセンスと言えばいいのか……。ともかく、いつ何時も手を抜かない彼の努力の賜物だろう。
今舞台上では、改めて決勝に臨む二人へインタビューが行われている。
『ここまで素晴らしいご活躍でしたが、ミゼルマイドさん。美しくも強い……そんな貴方に苦手なもの、あるいは怖いものなんかはあるのでしょうか?』
「怖いもの? ──自分、かな」
「「キャー‼」」
「『わぁ……』」
相変わらずのやり取りに、ミゼルの余裕が感じられた。
『え、えーっと。同じくAランク冒険者であるメナールさんは、ミゼルマイドさんの良き好敵手だと思いますが……彼のどういったところを脅威に感じますか?』
「そうですね。自分に無いものを持つ、という点において私は彼に敬意を抱いています。特に他者を惹き付ける求心力。Aランクという立場も相まって、ギルドが彼を同世代の冒険者たちのリーダーであるかのように信を置いているのは、私もよく感じています」
『おお……!』
クールなイメージを覆す饒舌なメナールに、思わず進行役も唸る。
『リーダー……?』
「ま、まぁ。どちらかと言えばメナールの方が高難易度の依頼を回されそうだが……かと言って、面倒見がいいのはミゼルだろうしな」
「うーむ。各々役割があるというわけであるなぁ」
冒険者事情においては観客たちよりも明るい俺たち。
若干の違和感はありつつも、互いに敬意を持つのはいいことだと考えないようにした。
「感謝しているよ、メナール・アイレ」
「?」
おもむろにミゼルが礼を述べる。
「いつも演劇の舞台上でしかマイ・ローズたちに見せることのできない、おれの輝く姿を──この美しきハイケアの地で、魅せることができるからな!!」
「ミゼル様素敵―‼」
「!? ま、魔法剣がんばれー!」
「なんか……急に男からの声援が増えたな?」
決勝が冒険者同士のためか、あるいは出場者によるのか。
観客はほとんど女性か冒険者、あるいは街の男性客といった様子で騎士団関係者は少なそうだ。
『共にAランク冒険者同士の戦い……死力を尽くして、頑張ってください‼』
それを合図に二人は向かい合うように位置に着いた。
『決勝戦、メナール・アイレ選手対ミゼルマイド・ラウル選手……試合、開始──‼』




