第十一話 恩師?
「お、メナール。どうしたんだ?」
ギルドの受付であるカウンターの向こうから声をかけてきたのは、俺と同年代と思われるギルド職員。
眼鏡をかけた黒髪の男は、メナールと気さくに言葉を交わす。
「さきほどの依頼、彼と受けることになった」
「ええ? おまえが、パーティを~?」
疑いの目でメナールと俺を見る。
「ど、どうも。リシトだ」
まったく話についてはいけていないが、一応あいさつ。
なんてったって、ルーエ村のギルドには初めて顔を出すからな。
第一印象、大事!
ツークもメナールに怯えつつ、余所行き顔で胸を張っている。
「ほ~ん?」
「Bランクで王都を拠点にしていたんだが、いろいろあってな。
ルーエ村に移住を考えていたところ、さっきメナールと会ったんだ」
ほかの施設に比べればそこそこ広い内部。
王都と同じように依頼書の貼られたボードや待合所なんかがあって、見た目はギルドそのもの。
だが、やはり聞いていた通り冒険者の数は少ない。
ハイケアから朝一で来たであろう、数名がいるだけだ。
「知り合いか?」
「恩師だ」
「「──ええ!?」」
おかしな話だが、俺と職員は同時に驚いた。
『アッ、アニキ! そうだったんですね!?』
「い、いやそんなことはないはずだが……」
「謙遜なさらず。冒険者になりたての私に、いろいろと教えてくださったではありませんか」
「あ~、そういうアレね。びびったわ」
さすがに覇気のないおっさんが剣の師匠とは思えなかったのだろう。
俺を上から下まで見ると、納得していた。
「当時のおまえ、大変だったからな~」
「やめてください」
「そういえば……」
メナールは、たしか騎士の家系である男爵家の次男だった。
十五歳だった当時冒険者になった理由を、さっき言っていたスープを作ってやりながら聞いたんだよな。
若いのに苦労していたみたいで、冒険者として大成してほしいと願っていた。
……まさか、冒険者の手ほどきをしたことをそこまで感謝してくれているとは思わなかったが。
Aランクになれたのは、確実に彼の実力だからな。
「リシト、だっけ。おれはモリク。よろしく」
「よろしく頼む」
軽薄な言葉とは裏腹に、彼の眼はまるで相手のすべてを丸裸にしようとするかのように鋭い。
どこか値踏みされているような気になるのは、彼が冒険者の実力を見極め、的確な依頼を回す必要があるからだろう。
不快にはならないのだから、すごい。
Aランクや実力のある冒険者たちがよく来ている証拠だ。
簡単に握手を交わして、さっそく依頼内容を聞く。
「メナールのスキルは知ってるよな?」
「あぁ。【魔法剣】……、だよな」
「なら、話が早い。実はこの村には常駐しているAランクの魔術師がいるんだが、メナールはその尻拭いをすることが多い。今回もその件だ」
「尻拭い?」
「彼女は依頼を選ぶ」
「へぇ」
メナールのげんなりした表情を見る限り、あまり仲は良くなさそうだ……。
まぁ、いろんな冒険者がいるからな。
元のパーティも、なるべく単価の高く且つ難しくない依頼をとってくるよう言われていたし、今更個性的な冒険者の話を聞いても驚かない。
「彼女は炎を自在に操るんだが、どうしても火属性に耐性のある魔物と相性がわるくてな」
「なるほど。今回はそういう魔物なのか」
「あぁ。火炎鳥の上位種、獄炎鳥だ」
『ッ!』
肩でツークが反応したのがわかる。
つくねを思い出したんだな……。
「火炎鳥はこの前討伐したが……。獄炎鳥か、俺は初めてだな」
「なにかあっても、私がいるので問題ありません。まぁ、あなたに関して言えば心配は要らないと思いますが」
いや、心配しかないよ。
「場所や生態はメナールに聞いてくれ。報告をくれた騎士団の話によれば、夜の方が見つけやすいらしいぞ」
「へぇ」
あれか、火炎鳥よりもっとすごい炎を纏っているから、夜だと一発で居場所がわかるのか?
「ルーエ村は騎士団との連携がとれているんだな」
「あぁ。この村のギルド職員はそう多くない。ここは夜間だけ、哨戒する騎士団の詰め所になるんだ。不審な人物や魔物の目撃情報があれば、翌朝にすぐ情報共有する」
「おぉ……。まさに理想的な守りだ」
王都だと、派閥だ家柄だとか、騎士団内部もけっこう面倒そうだからな。
冒険者ギルドとも表向きは連携しているが、その実互いに面子がどうのと気にしている。
その点、ここは国境に接する辺境。
王都よりはしがらみが少なそうだ。
砦を預かる辺境伯はずいぶんやり手なんだろう。
「じゃ、健闘を祈るよ」
「行きましょう」
「あぁ」
ひとまず魔物討伐の依頼ってことはわかった。
魔物自体の情報はメナールに聞く……、【鑑定】もあるしな。
よし。あとは、自分たちの準備するだけだな。
ギルドを後にすると、先を歩いていたメナールが振り返る。
「……その」
「ん?」
「恥ずかしながら」
「うん」
「……、おっ、お腹が……」
「あぁ!」
そう言われると、メナールと話し込んでいて気づけば昼飯時。
「俺が作ったのでよければ」
「むしろそれがいいんです!」
また前のめりになるメナール。
そんなに以前作ったやつが忘れられないのか?
「夜間の討伐になるかもしれないし、宿の女将に一言伝えておきたいからな。
ちょうどいい、宿でキッチンを借りようか」
「はい!」
『(~♪)』
「苦手なものは?」
「ありません!」
ツークは目立たないよう、控えめに肩でステップを踏んでいる。
まだメナールが怖いようだ。




