第一話 邪魔者は消えるとしますか
「ハッキリ言って────おっさん、邪魔なんだよ!!」
齢四十。
冒険者歴二十四年ともなれば、そりゃぁいろいろと経験する。
両親が病で逝って、十六歳からこの道へ。
人が一つ以上必ず持てるスキルはあまり戦闘向きではなかったが、サポートに徹すればそれなりに実用的なものだった。
仲間を活かす。
そんな冒険者で在ろうと、いろんなタイプの冒険者と組んで、サポート力に磨きをかけた。
料理、洗濯、情報収集に交渉事。
買い物から敵の情報共有、ルートの確保、あれやこれ。
戦闘以外にもサポートできるよう、ランクが下の者と組んでも冒険者歴なんておかまいなしに自ら率先して動いた。
そんなこんなで唯一適性のあった補助魔法が得意な付与術師になり、戦闘では主に後方で強化をかけることで貢献してきた。
中堅と言えるくらいにはサポート力に自信が持てるようになると、二年前に固定パーティとして『風神の槍』に加入した。
自分なりに頑張ってきた。
…………つもり、だったらしい。
「……」
「リシトの枠がもっと若い体力があるヤツなら、オレたちはAランクを狙えるんだ。
なんなら付与術師じゃねぇ方がずっとイイ!」
「あたしたちがずっとBランクなのも、リシトの伸び代がないからでしょ?
そうでなきゃあたしたち、二年でEからBに一気に駆けあがったのに……おかしいじゃない!」
リーダーの槍術師ウェント。
剣士レーデンス。
魔術師リリム。
Eランク三人組だった彼らに俺を宛がったのは、当時のギルドマスター。
二年前はCランクだった俺に、ベテランとして初心者にいろいろと教えてやってくれと言われ、最初はギルドからの依頼として引き受けた。
みんな俺の言ったことを真剣に聞いて、吸収して、大きく成長した。
そこで若者の頑張りに触発された俺は、ギルドからの依頼の期間が終わってもパーティを組まないかと提案した。
……当時は、三人とも嬉しそうだったんだけどなぁ。
俺だけがテーブルにつき、三人に見下ろされる。
王都ロムールの格安賃貸。
ハウスを借りるための金貨三枚は、毎月俺の懐から出ていく。
メンバーをこれ以上増やさないのには、みんなの浪費癖もあった。
人数が増えれば一人あたりの取り分も減るからな。
ということはこれから先、俺の枠には前衛もできるサポート役が選ばれるのだろう。
しかし、……まぁ、そうだよな。
体力もあって、実際最前線に立つ彼らが言うのだから間違いない。
俺の能力はBランク。
ここが限界なんだろう。
むしろ、サポートに徹している分俺自身はCランクから変わっていないのかもしれない。
上を目指したい気持ちはよく分かる。
俺だって、できることなら四人で目指したかった。
ウェント。依頼内容はちゃんと精査して受けられるか?
レーデンス。よく携帯品を散らかすが、だれが持ち物を管理して、部屋を掃除するんだ?
リリム。買い物が誰よりも好きみたいだが、お金の管理はできるか?
みんな、俺がいなくても野営中にご飯は食べられるのか?
心配事は尽きないが────よそう。
「……、今まで世話になったな」
これも、成長と取るべきか。
分からないがハッキリとしているのは、彼らはもう俺を必要としていないということだ。
「なぁ、だったら最後に」
肩でオロオロと周りと俺を見比べる相棒の従魔ツーク。
尻尾で空間魔法を操るクロークテイルの彼に、いつも皆で野営中使っていた木製の机を出してもらった。
このリビングのテーブルほど高くも大きくもないが……。
みんなと地面に座って、このテーブルを囲んだ時間は至福の時だった。
冒険者として、最もみんなを身近に感じた瞬間だった。
俺はテーブルの上に乗せた小さな思い出の品を指差す。
「ここに、みんなの名前を刻んでくれないか?」
「名前?」
ウェントは訝しげな顔をする。
「あぁ。俺の故郷では、生涯の仲間たちは机の定位置に名前を刻んで、定期的に集い、食事をし。飲んで騒ぐんだ」
「へぇ~」
初耳、とリリムはいたずらな笑顔で言う。
「またいつか、……そうだな。お前たちがAランクになった時にでも──」
集まれたらいい。
そう言う前に、レーデンスの大剣が大きな音と共にリビングのテーブルごと机を破壊した。
「────じゃーぁ、二度と会うこともねぇヤツには必要ないよなぁ?」
ヒャハハと嘲笑うレーデンス。
一緒になって笑うウェントとリリム。
そうか。
お前たちは、そうなのか。
離れていたって、仲間だと。
これまでの時間がなかったことになるわけじゃないと。
そう思うのは……、俺だけか。
俺は静かに立ち上がった。
「……みんな、元気でな」
三人が望む言葉は、きっとそれだけだ。
「リシトも、夢見わるいから死なないでねぇ~」
「あ、今月分までは家賃払っといてくれよな」
「俺たちのことより、自分の心配をするといい」
思い思いの言葉を聞けば、逆にすっきりとした。
俺は自分の部屋の荷物をまとめ、特に振り返りもせずハウスを後にした。