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身近な悪意 よくある殺意  作者: Kouei


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7/8

第7話 微笑みの理由

「いらっしゃい、恵子(けいこ)


奈美(なみ)、久しぶり~」


 私と主人の圭介(けいすけ)、そして恵子は某商社の同期入社した仲間だ。

 入社して3年後、私は圭介と結婚して退職した。


 その後、私は初めての出産と育児に忙しく、恵子とは音信不通になっていた。

 でも数日前に、彼女から電話があって久しぶりに会う事になった。



「あ、これお土産」


 恵子は駅前にある人気ケーキ店の箱を、私に差し出した。


「わあ、ありがとう。ここのケーキおいしいんだぁ。あ、上がって」


「お邪魔します」


 私は暖かい光が差し込む10畳ほどのリビングに案内した。

 ()き出し窓からは青々とした芝生の庭が良く見える。

 

「今、お茶入れるから適当に座ってて」 


「うん」


 恵子はコートを脱ぎ、ソファに座った。

 私は頂いたケーキを持って台所へ向かう。


「…素敵なお家ね。一戸建てを購入したとは聞いていたけど」


 恵子はソファに座りながら、部屋を見渡す。

 私は頂いたケーキとティーセットを持ってリビングに戻った。


「35年ローンよ。娘が生まれた時圭介が、『結衣(ゆい)のために、庭付きの一軒家に引っ越すぞ!』って言ったと思ったらどんどん決めちゃって。これからの支払いを考えると憂鬱…」

 

「ご主人、頑張ったのね」


「まあね。恵子、結婚は?」


「ん~、まだ」


「あれ? 前につきあっている彼氏がいるって言ってなかったっけ?」


「ああ、ふられちゃったのよ」


「え…」


「彼の子を妊娠した途端、捨てられちゃった。そのショックで流産して…」


「そんな…」


 恵子と最後に会ったのは、結衣を妊娠した頃だったかしら。

 その時は、つきあっている男性(ひと)がいるって、幸せそうに話していたのに…


「ごめん…よけいな事を聞いちゃって…」


「やだ、やめてよ。もうとっくに終わった事なんだから! それより、娘さん抱かせてもらってもいい?」


「いいよ、ちょっと待ってね」


 奈美はソファの近くにあるベビーベッドから娘の結衣を抱き上げ、恵子にそっと渡した。


「わ、結構重いのね。こんにちは~」


 結衣はあまり人見知りをしない。

 恵子に抱かれてもニコニコしている。


「…圭介さんに似ているのかな?」


「あ、やっぱりそう思う?」


「うん、そっくり」


「あー」


 小さな手が、恵子のブラウスのボタンをいじり始めた。


「どうしたの? このボタンが気に入った?」


 結衣は恵子のブラウスについているボタンを触っている。

 よくあるボタンを結衣は気に入ったらしい。


「最近ハイハイし出したから、そこらへんにあるもの何でも口に入れるようになって目が放せないのよ。この間なんて、ボールペンのキャップを口に入れそうになってどれだけ焦ったか…」


「ご主人は育児を手伝ったりするの?」


 恵子は結衣を受け取り、ベビーベッドにゆっくりと寝かせた。

 

「うん、前は残業やら付き合いやらで家にいる時間なんてほとんどなかったのに、この子が生まれてからはもうすっかり親バカよ。毎日定時に帰ってくるし、休みの日は結衣を片時も離さないのよ」


「…そうなんだ。イクメンやっているのねぇ」


「うん、結構子煩悩で驚いちゃった」


「ほ〜んと意外!」


 私たちはクスクスと笑い合った。




 ◇




「あ、私そろそろ帰るわ」


「え〜っ? 夕飯食べて行ってよ。もうすぐ圭介も帰ってくるし。会うの久しぶりじゃない?」


「…そうしたいけど、明日早いから」


「そう? ざ~んねんっ」


「あ、帰る前に結衣ちゃんに挨拶してくるわ」


 恵子は結衣が寝ているベビーベッドへと近づいた。


「ばいばい、結衣ちゃん」


「あー」


 結衣の声が聞こえる。



「久しぶりに会えて、楽しかったわ」

 

「また来てね」


 玄関でヒールを履いている恵子に声を掛ける私。


「……」


 なぜか私の言葉には応えず、コートを着る恵子。


「あれ?恵子、ブラウスのボタンが1個取れている」


 コートの隙間から、彼女のブラウスのボタンが一個取れている事に気が付いた。


「リビングに落ちているかもしれない。見てくるわ」


「ねぇ奈美、流産した子の父親、知りたい?」


 恵子はまるで子供が秘密をもったいぶるかのように問いかけた。


「え…?」


 私は、いきなり聞かれて戸惑った。

 そして彼女は、予想もしていなかった事を口にした。




「あんたのご主人よ」 




「―――――え……な…なに…言っ…っ」


 のどの奥がふさがれたように言葉にならなかった。

 突然突き付けられた事実に身体が固まる。


 恵子が流産した子供の父親が……圭介!?


 何それ…っ

 つまり…圭介と恵子は……


「ボタン、いらないわ、結衣ちゃんにあげたから。じゃあね、さよなら」


 恵子は微笑みながら出て行った。


「ボタン……」


 私は恵子との会話を思い出した。




『どうしたの? このボタンが気に入った?』


『そこらへんにあるもの何でも口に入れるようになって…』






「結衣!!!」


 私は結衣の元へと走り出した。




【終】

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