第6話 階段を上がる女
【注意】
※性描写あり
「ちょっとお店の外階段、掃除してくるわ」
「は? もう、外真っ暗だぜ?」
「けど、日中はお店やそっちの掃除もあるから…外階段は夜しかできなくて…」
「あんな錆びて古くなった階段、もう使っていないからいいだろう。それに掃除したってたいしてきれいになっていないけどな」
“使っていないのにきれいになっていないってどうして分かるの?”
そう、喉まで出かかった。
夫はさっきからずっとスマホをいじっている。
どうせ、あの女と連絡取っているんでしょうよ。
「…ねぇ、お店の外階段かなり古くなっているでしょ? やっぱり非常用として使えるようにしといた方がいいと思うの。あぶないから修理しない?」
「ん? ああ、その内な」
「……」
スマホから目を離さずに返事をする夫。
右手にはスマホ、左手には缶ビール。
器用に使いこなしている事で。
私は掃除用具を入れたバケツを手にすると、二軒先の敷地へと向かった。
そこは夫の父親が創設した小さなパン屋。
一階は販売店、二階が作業場、三階が事務所になっているが物置場所となり、今は使っていない。
裏口から入り、内階段を使い三階へと上がった。
非常口の扉を開けて、小さな踊り場に出る。
義父の時代からだからもう…半世紀以上経つのよね。
古くなった手すりは錆びだらけ、固定されている部分も所々緩んでいる。
風よけに取り付けた板はあちこち剥がれていた。
今はもう、あまり使われる事がなくなった外階段。
「あまり…ね」
ここであの女と密会している事には気づいていた。
あの女…アルバイトで採用した19歳の女子学生。
夫よりも一回り以上も若い。
ウチは今まで二人でお店を切り盛りしてきた。
最近ありがたい事に客足が増え、二人では回らなくなり採用したのが彼女だった。
働き始めて半年ほどかしら?
違和感に気が付いたのは、彼女を採用してから2か月経った頃。
休業日には1日中家でパソコンにへばりついていた夫が、よく外出するようになった。
休憩時間は自宅に帰り二人で食事を摂った後、一緒にお店に戻っていたが、今は夫が先に戻るようになった。
「じゃあ、早め店に戻って準備してるよ」
昼食後はいつもだらりと寝そべっていた夫が、珍しい事を言い出した。
これで分からないはずがない。
私は夫の跡をつけてみた。
夫はお店の外階段を足取り軽く上がって行く。
私はお店に入り、内階段を使って上がる。
三階の事務所には人の気配がない。
かすかに非常口の扉から声が聞こえてきた。
私は声のする方へ、そっと近づく。
「ふふ…こんな事していつか奥さんにバレるわよっ」
「大丈夫だよ、いつも昼食後は片付けと夕飯の下準備をしてから来るから、30分くらいは戻らない」
「30分かぁ〜、一回くらいできるね?」
「後ろ向いて。一応店の準備もしとかなきゃならないからな」
「もうぅ〜…いきなりぃ? でも、外でするのって興奮しちゃう…んっ」
ギシギシギシッと錆びた音が、リズミカルに鳴り始めた。
外階段の向こうは雑木林になっており、人通りはない。
南側は空き地、北側は空き家。
店の入口は東側。西側のこちらとは反対側だ。
外から見える事はないだろう。
この夜から私は、店舗の外階段の掃除をするといって出てくるようになった。
今夜も三階へ上がり外階段に出て、赤茶けた手すりに触れる。
ギシギシギシッ…
ギシギシギシッ…
あの鈍い金属音が聞こえてくる。
私はバケツからある物を取り出した。
「じゃあ、先に戻って準備しとくから」
いつものように昼食を終えると、夫は早めに家を出た。
そしていつもの場所でいつもの事をするのでしょうね。
「…今日で三階に行く必要はなくなるかな」
私はお茶を飲みながら一息ついた。
その時……
「「あああああああ!!」」
!!!ドン!!!
悲鳴と共に何かが落ちる音がした。
私は掃除に使ったバケツに視線を向ける。
中にはカモフラージュで、掃除用洗剤と雑巾が入ってた。
底にはプラスドライバー…
掃除と称してあの階段へ行く度に、少しずつ少しずつ固定ボルトを緩めていった。
あの二人の重みでさらに緩んでいくだろう。
今日外れるか、明日外れるか、ドキドキしながら毎日待っていた。
「結構日にちがかかったわね…」
私は玄関を出て、走り出した。…一応。
外階段に行ってみると、折り重なるように女と夫が倒れている。
「だから修理しないか聞いたのに…って、もう聞こえないか」
お尻を半分出した状態の間抜けな夫に話しかけた。
「はぁ…もう上がらなくてすむわ」
私は古びた階段を見上げながら呟いた。
【終】




