第5話 女友達
「十年ぶりの同窓会か〜」
高校時代の『同窓会のお知らせ』が届いた。
ソファに座り、缶ビールを片手にハガキを眺める。
「ウチのクラス、どのくらい来るのかしら」
ハガキの裏に印刷されている出席に〇をする。
私は高校時代に記憶を戻していた。
「あの頃は、よく乃里子と一緒にいたよな〜」
「えーと確かこの中に…これこれ」
私は思いついたようにクローゼットを開け、奥から透明の収納ケースを引き出す。
中を探すと、目当ての卒業アルバムが出て来た。
「あった!」
紺色の表紙の右側には金文字で「絆」と印字されてる。
「3-D…3-D…あ、みんな笑ってる」
不思議。
卒業して十年経つのに、すぐにクラスを思い出せるものなのね。
開いたアルバムには、皆の笑顔が広がっていた。
その中に笑っている若い自分を見つけ、妙な気分になる。
「なんで笑顔じゃなきゃだめだったんだろう…」
当時写真を撮る時に、『笑って、笑って』とカメラマンが促してたっけ。
それに合わせて、皆が笑わせていた事を思い出す。
「ふふ…無理矢理作り笑いしている」
笑いたくないのに、笑わなければならない。
そんなぎこちない自分の笑顔に不自然さを感じた。
写真の下には『冴木柚江』と私の名前。
未だに名字は変わらず、変わる予定もない。
「結婚している子もいるだろうな〜……あれ? 乃里子の写真がない?」
乃里子の写真が載っていなくて、私は戸惑った。
そして、ふと思い出す。
「あ! そういえば…あの子…3年の途中で転校したんだっけ」
名前は杉村乃里子。
同じクラスになったのは、3年になった時。
長い髪をいつもふたつに結んでいた。
おとなしくて、控えめで…私とは正反対。
そんな彼女と、何がきっかけで話すようになったんだったけ?
そうそう、あの子が話しかけてきたんだわ。
『あの…誰にも言わないで欲しいの…』
一瞬何の事かと思ったけれど、すぐに分かった。
前日に彼女がお父さんと腕を組んで歩いているところを見かけた。
“仲がいいな〜”と思わずじっと見てしまい、その視線に彼女が気が付いた。
私に気が付くとあわてて立ち去ったけど。
お父さんと歩いていたところを、みんなに知られたくないって事ね。
確かに、18歳の女の子が父親と腕を組んで歩くって…あまりしないよね?
私は自分の父親と、腕を組んで歩きたいなんて思わないし。
『うん、わかった』
私はその時、そう答えた。
それから一緒にいるようになった。
「乃里子とは音信不通になっちゃって…」
今まで忘れていたのに、一冊のアルバムで当時の思い出が甦る。
「そういえば、いろいろくれたんだよね〜。ブランドのコスメやアクセ。誕生日には腕時計をくれたっけ」
二人でお店に寄って、私が“いいな~”と思うと乃理子が買ってくれた。
私は当然断ったけど…
『……友達だから』
そう言われると、受け取らないわけにはいかなかった。
けど乃里子のお父さん、ピシッとした感じでお金持ってそうだったし、良いとこのお嬢さんだったのかな? ウチの事は聞かなかったけど。
「いつも一緒にいたのに、乃里子の事あまり知らなかったのね…」
今頃気づいた事実に、少し寂しさを覚えた。
そして乃里子は、3年の途中で引越してしまった。
それ以降連絡取れなくなっちゃって…
「乃里子、同窓会来るのかな〜? というか、幹事の人、連絡先分かるのかしら?」
そんな事を思いながら私はSNSに、十年ぶりに同窓会があることをポストした。
「あ、美容院予約しなくっちゃっ 服はどうしよっかな〜」
私は、懐かしい人たちに会える事を楽しみにしていた。
しかし当日、乃里子は来ていなかった。
他の子に聞いても、乃里子の連絡先を知る人はいない。
私は残念に思いながらも、元クラスメートたちと近況報告や昔話に盛り上がっていた。
「柚江、二次会いかないの~?」
「うん、明日仕事で早いから」
「ざーんねん、また連絡するね〜」
「うん、またね〜」
私はホテルの入口で皆と別れ、反対方向に歩き出した。
会った時は懐かしさで盛り上がるけど、一通り話し終えるとなんか…冷静になった自分がいた。
十年も経てば、高校時代のようにはならないわよね。
「柚江」
暫く歩くと私の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り向いて驚いた。
乃里子だった。
高校時代とあまり変わらず、すぐに彼女だと分かった。
「あなたきていたの!? だったら会場にくれば良かったのに!」
「私…柚江以外あまり話した人いなかったし、途中で転校したでしょ? それに、私が会いたかったのは柚江だけだから。ちょっとそこで二次会しない? 二人で」
そう言いながら、事前に用意していたのであろうお酒のはいったビニール袋を見せた乃里子。
嬉しい事を言ってくれて…付き合わないわけにはいかない。
私はそう思い、乃里子と連れ立って歩き出した。
しばらく歩くと土手が見えて来た。
「あなた今、どこに住んでいるの? 誰も乃里子の連絡先知らなくて…よく、ここがわかったね」
「…柚江のSNSを見てね」
「え?」
「ここでちょっと飲まない?」
背もたれもひじ掛けもない、古い板で出来たベンチを指差す乃里子。
「あ、うんっ」
街路灯が少なく、人通りもない。
ここならゆっくり飲める。
私達は、並んでベンチに座った。
「はい」
乃里子は缶ビールを開けて、私に渡してくれた。
「じゃあ、久しぶりの再会を祝して、かんぱーい!」
私は缶ビールを受け取ると、乃里子の手にあった缶ビールに自分のを当てた。
カン!
軽い音が鳴ると、私はそれをグビグビと流し込む。
「は〜、おいしい!」
一気に半分くらい軽くなったみたい。
会場でも結構飲んだのに、我ながらよく飲むわ。
目の前には川が流れていた。
薄く暗くなった土手は何だか不気味ね。
「乃里子、本当に久しぶりね。全然変わらないしっ」
「柚江も相変わらずだね」
「どうして突然、引っ越したの? 連絡先もくれないで~」
「…母親が再婚して…」
「再婚? え? じゃあ、お父さんと離婚したの?」
私は仲良さそうに、父親と腕を組んで歩いていた乃里子の姿が浮かんだ。
あの後、離婚して、再婚したって…こと…?
――――― 離婚から再婚までの間……短くない?
何か変…
乃里子の話に違和感を感じた。
「あのさ…」
ボトッと手から缶ビールが落ちる。
「あ…れ?」
突然目の前がぐるぐる回り始め、草むらに倒れた。
顏に当たる草が邪魔なのに、手も動かせない。
何これ!?
「あ、効いてきた?」
「え…? な、なに…っ」
私が倒れたのに、乃里子の声は冷静だった。
今、効いてきたって言ったよね?
さ、さっきの缶ビール…!?
どういう事!?
「…私、来月結婚するのよ。その為にもあんたがいたら、困るのよ!」
「…な、何…言って…うっうう!」
乃里子は私の口に無理矢理ビールを飲ませた。
「あんた見たでしょ! 私がパパ活しているところ! 誰にも言わないっていったけど、心が休まる事はなかった! だからあんたが欲しいと言った物をあげたじゃない!」
「!」
知らないっ 知らなかったわよ!
あの男の人が父親じゃなく、パパ活の相手だったなんて!
だからいろんなものをくれたんだ、口止め料に……っ
「彼に…絶対知られたくないのよ!」
「……っ」
私は……友達だと…
……思っ……て……
………
◇
『本日、東京都〇区の河川敷で女性の遺体が発見されました。
亡くなった方は会社員の冴木柚江さん28歳。
近くにはアルコール飲料が散乱しており、警察は泥酔状態で誤って川へ転落したと見て……』
「♪~」
女は鼻歌を歌いながら、部屋の掃除をしていた。
「どうしたの? 乃里子。機嫌いいね」
ニュースを見ていた男が声を掛ける。
「うん、やっとすっきりしたと思って」
「え?」
「ふふふ」
【終】




