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第2話 騒音には気を付けましょう

 ギコギコ

      ギコギコ


 今日も隣の部屋で何かを切る鈍い音が聞こえてくる。


 俺の部屋は角部屋だから、騒音の出どころは隣で間違いない。

 数日前から始まった異音。夕方頃になると静かになる。

 日中の間だけだから…と我慢していたが、いつになったら終わるのやら。

 

 確か隣には30代後半くらいのおばさんが一人で住んでいたはずだ。

 時々見かけても軽く会釈をする程度の関係。いや、関係という関係でもないか。

 

 黒くて重たそうなセミロングの髪。

 身長が結構あるせいか、歩く姿は猫背気味。

 服装も黒とかグレーとか地味系な色ばかり。

 

 どう見てもカレシなんていなさそうなおばさん。そう思っていたのに、いつからだろう…若い男が出入りするようになったのは。


 金に近い茶髪に、両耳には無数のピアス、首には金のネックレス、指には凶器になるんじゃないかって言うくらいゴツイ指輪。どう見てもホストだろう。


 年もかなり若い。一回り以上離れていそうだけど、おばさんとの会話が成り立つのか? 

 

 どうぜ遊ばれているに決まっている。分かっているのかねぇ?

 分かっていてもいなくても離れられないってか? 

 男には全く気持ちがないってのに…

 

 どうせ金を貢ぐだけ貢がせて、ハイさよならになるのがオチ。分かり過ぎるくらいの結末に、気づいていないのは当の本人だけだ。それが「遊ばれる」って事なんだろうけど。

 

 でも…そのホスト風の男、最近見かけなくなったんだよな。そういえばおばさんも部屋から出なくなった。

 その頃から妙な音が聞こえ始めたんだっけ。


 「…殺したのか?」

 

 一回り以上離れた年の差カップル。姿を見せなくなった男。その日から始まった異音。

 

 きっと男が別れ話を持ちかけたが、女が嫌がってこじれて…。よくある話だ。

 それで燃えるゴミと一緒に捨てるために死体をバラバラにしているのかも。。

 

 警察に通報するか? けど、何て説明するんだ? 何の証拠もないのに警察が介入する事は無理だろう。何よりも巻き込まれるのはごめんだ。向こうは人ひとり殺して、それをバラバラにしているかもしれない異常者だぞ? おばさんとはいえ、一度タガが外れた人間は何をするか分からないからな。

 

 そう思いながら、俺は隣の部屋のインターホンを鳴らした。


 ピンポーン

 

 おいおい、何やってんだよ、俺は! もし凶器とか持って出てきたらどうすんだよ! 早く部屋に戻れって! 


 頭の中で警戒する声が響いているが、体が反応しない。

 

 『ハイ?』


 インターホン越しに女の声が聞こえた。

 もう逃げられない。


「あ、えーと…すみません、隣の者なんですが、こちらの音が響いてくるんですけど…」


 返事がない。苦情なら普通、大家か管理会社を通せばいいものを直接来たから怒らせたか?

 ただ、少し反応が見たくなったんだ。こっちは、あんたが若い男の身体を切り刻んでいるのは知っている。全て聞こえているんだよと暗にほのめかしたくなった。


 しかし、何の返事もない。シカトか? もう一度インターホンを鳴らそうとした瞬間、ドアの向こうから鍵をあける音がして、扉が開いた。

 

「ご迷惑かけて申し訳ありません」

 俺は驚いた。出てきたのは地味なおばさんと例のホスト風の若い男だった。


「どうもすんません。俺たち結婚することになって、近々広い部屋に引っ越すことにしたんス。それで古い家具をバラしてたもんで。処分代の節約に…」

 遠慮がちに話をする若い男。


「そうだったんですか…おめでとうございます」

 

 少しもそんな風に思っていなかったが、社交辞令というヤツだ。

 

「ありがとうございます。もう、作業は終えましたので。ご迷惑をおかけしました」

 笑顔を向けるおばさん。


「あ、ハイ。では…」

 そう言うと俺はその場を後にした。

 

 部屋に戻ってきて、俺はしばらく呆然としていた。

 

 結婚するのか? マジか? だから、古い家具をバラすために部屋にこもっていたのか。


 いやいやそれよりあの男…生きていたのか。

 なーんだ。


 妙な汗をかいた俺は、ユニットバスの横に設置してある洗面台で軽く顔を洗った。

 

「ふー、あんなババアとよく結婚しようと思ったもんだ。俺はごめんだ」


 俺の場合は、一回り年上のおばさんに付きまとわれて辟易していた。


 相手はバイト先のパートのおばさん。いい年して未だに独身。

 金目当てにちょっと優しくしたら、ホイホイくれた。

 その内、彼女ヅラし始めたうえに、結婚の話まで出すようになった。うっとおしくなるのも仕方ないだろう?


 「それにしても、こんなに隣の部屋の音が聞こえるとは思わなかった」


 男はユニットバスに視線を落とした。

ドライアイスで溢れていたユニットバスから、精気を失った二つの目がこちらをじっと見つめていた。


「隣がいなくなってから片付けるか」


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