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第1話 母からの手紙

 「うそ! こんなに!?」 


 先日母が救急搬送されたと病院から連絡があった。

 急いで向かったが、母はすでに帰らぬ人となっていた。

 葬儀後に弁護士から連絡があり、渡された書類に思わず声が出た。


 私に残された母名義の持ち家、預貯金などかなりの資産額だった。

 弁護士費用・相続税等を差し引いても、数年働かなくても暮らしていけるくらいだ。


 母はかなり前から自分が死んだ後、この家の事や遺産について諸々相談していたようだ。

 几帳面な母らしかった。

 

 父は私が幼い頃に女の人と出て行った。

 それから母は女手一つで一人娘の私を大事に育ててくれた。

 なのに私は何年も母とは疎遠になっていた。

 

 理由は、当時結婚を前提に付き合っていた男性だった。

 母に紹介するため一度実家に連れて来たけれど、大反対されたのだ。


「あの人はやめなさい。あんたが苦労するだけよ!」と。


 その時、私はまだ20代。

 彼との恋愛に夢中だったので、母の言う事を受け入れる気にはなれなかった。

 それから母と連絡を取る事をやめてしまった。


 けれど母の言った事が正しかったと、のちに知るところとなる。


 彼にとって私はただの都合のいい女だった。


「おまえとの結婚、ちゃんと考えているから」


 呪文のようにそう言われると、彼の望むままにお金を渡していた。

 そのお金がギャンブルや女に使われているとも知らずに…。

 気づいた時にはお金も若さも失い、彼は別の女のところへ行ってしまった。

 そんな時、届いた母の訃報。


「お母さんの言う通りだったよ」


 弁護士との話が終わり、一人リビングで自虐的につぶやいていた。


「あと、これはお母様から預かっておりましたお手紙です」

 相続関係の説明の後に、弁護士から渡された手紙に視線を落とす。


【芳江へ】

 手紙の表に書かれた私の名前は、確かに母の文字だった。


『芳江がこの手紙を読んでいるという事は、お母さんはもうこの世にはいないんだね。


 今更だけど、彼とのことを頭ごなしに反対してごめんね。あまりにもあんたのお父さんにそっくりだったから、つい言い方が強くなっちゃてね。


 あんたのお父さんは本当にいい加減な人だった。いつも口ばっかりでろくに働きもせず、お金にも女にもだらしなかった。

 

けれど、あんたが生まれたら変わってくれると信じていたんだけど、その期待は見事に裏切られたわ。

 それどころか、あんたとお母さんを捨てて飲み屋の女と暮らすとか言いだしの。だからお母さん…』


 ピンポーンピンポーン


 手紙を読んでいる途中で、インターホンが鳴った。

 誰かと思ったら、別れた彼だった。

 私を捨てたくせに今さら何の用で実家まで…もしかして戻ってきてくれた…?


「おまえ、遺産相続したんだってな」

 

 誰から聞いたのか、玄関を開けるなり笑顔でそう言い放った。

 一瞬でも期待した自分にも、母が住んでいた家に勝手に上がる彼にも腹が立った。

 

「ねぇ、足元に何か付いてるよ」

「え?」


 私は下駄箱の上にあった花瓶を、彼の頭めがけて振り下ろした。



 * * * * * *



「あら、芳江ちゃん。この度は…お母さんの事、残念だったわ…」

 母が生前、親しくしていた近所のおばさんだった。


「突然すぎて何の親孝行もできなくて…。だから母が残してくれたこの家を守ろうと思いまして」


「こっちに戻る事にしたの?」


「はい、今後ともよろしくお願い致します」


「こちらこそ。あら、さっそく庭のお手入れ?」

 スコップを持つ私の手を見て、聞いてきた。


「ええ、新しい花を植えようと思って」

「そういえばお母さんもよく庭いじりしていたわねぇ」

「そうでしたね」

 私は笑顔で答えた。


『…だからお母さん、お父さんがどこにも行けないようにしたの。芳江、あんたは私にそっくりよ。お父さんと同じような人を好きになるところなんて特に。もし今、あの時の彼とうまくいってなかったら、ウチの庭を使いなさい。お母さんもそこにお父さんを隠したの。肥料がいいのか、毎年きれいな花が咲いたわ。芳江も新しい花を植えたらいいわよ』


 「本当に似たもの親子だね、お母さん」














ご覧下さり、ありがとうございました。

いいねや★を付けて頂けたら、とても励みになります。


どうぞよろしくお願い致します。

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