第93話
「アラダイン。俺が勇者として召喚された意味が分かったよ」
「おぉ! それでは――」
「俺が召喚されたのは……お前と言う魔王を倒すためだ!」
サトルの言葉を聞いてアラダインは眉をひそめ、ヒロイックスレイヤーを持つ手に力がこもる。
「非常に残念でございます勇者殿。この話を聞かれたからには貴方達に生きて帰る選択などありません。今一度考えて――」
「くどい!」
サトルは吐き捨て、聖剣エクスカリバーを構え走り出した。
ニーアから学んだのは防御の剣。相手を打ち倒すための剣術ではなく、自分の身を護る、生存を第一に据えた戦術である。
己から飛び出したところで有効な手立てはない。
だが――
「併せろドライ!」
サトルの呼びかけに答えて傍から黒の少女が出現する。片刃で反りのある独特なフォルムをした剣。サトルの元世界では世界最高峰の武器として名高い「刀」を両の手に持ち駆ける。
先程サトルの頭に響いた合図はドライ帰還の合図であった。
サトルは聖剣を大きく振りかぶりアラダインに斬りかかる。構えも太刀筋もなにもあったものではない。攻撃に関しては技術的に成長したところはない。とは言え、二ヶ月の訓練で鍛えた筋力で羽のように軽い聖剣を目一杯振ればそれは相応の脅威となるだろう。
それでもアラダイン程の実力者になればサトルの大振りな攻撃など手甲で捌くのは難しくはない。
だが、サトルが握るのは勇者のスキルで作られた理の外にあるものだ。全てを切り裂くエクスカリバーを防ぎ得るのはヒロイックスレイヤーのみ。
稚拙でもいい、結果が明らかでもいい。
アラダインにエクスカリバーを受けさせればドライの攻撃に繋げることができる。サトルの思い描く攻撃。言葉を発せずとも、薄くではあるがスキルで繋がっているドライにはサトルの思惑は伝わっているだろう。
サトルは決してアラダインを侮ってなどいない。強力なスキルを持つ勇者の眼前にスキル無効化だけしか付与されていない剣一本で立ちはだかったメロベキア騎士団団長を……
ただただ彼が、サトルの想定していた強さを軽々と超えてきたにすぎない。
渾身で振り切ったエクスカリバーはアラダインを斬ることも、ヒロイックスレイヤーによって受けられることもなく、虚空を斬る。
アラダインは重いフルプレートを身に纏いつつも、サトルの目に追えぬ程の速度で聖剣の一撃を紙一重で避けて見せたのだ。
ただ筋力をつけたからできるような芸当ではない。今まで積み上げてきた技術と経験の結晶。体捌きだけでサトルを圧倒する。




